スピーキング力は戦場で最も伸びる

どうすれば英語力が伸びるのかについては、あらゆる角度から語り尽くされた話題である。したがって、ここに記すことにも目新しさはないだろう。しかし、あえて自身の経験を文章として残しておきたい。

まず、「英語力」というのは曖昧な言葉だが、本稿では英語のスピーキング能力について話したい。スピーキングは日本のようなEFL(English as a Foreign Language = 英語が外国語である)環境において伸ばすのが最も難しいスキルの一つである。最近であればオンライン英会話のおかげでスピーキングの練習は随分身近になった。これは素晴らしいことであり、利用しない手はない。私自身、オンライン英会話を利用しており、記録によればその総受講時間は約10,000分にもおよぶらしい。1回の授業が30分なので、300回以上授業を受けたことになる。これがスピーキング力に影響を与えないはずはないが、私にはこれよりもはるかに自身のスピーキング力を伸ばしたと自覚している経験がある。それは、自身が教師として英語しか通じない人たちに向けて、英語で授業を行った経験である。

イギリス留学中、現地に住む人々に日本語を英語で教えた。オンライン英会話で授業を「受け」たり、「練習」したりするのとは異なり、自身が英語で授業を主導し、その場を仕切らなくてはならない。どちらも英語で会話し続けることには変わりないが、両者は大げさに言えば、軍事演習に参加することと、実際の戦地に赴くことくらい大きな違いがある。死と隣り合わせの緊迫した戦地で一日でも戦闘に従事することは、安全が保障された環境での何百、何千時間におよぶ訓練よりも多くのことを教えるだろう。もちろん、日々の訓練がなければ戦地に行っても使い物にならないわけだが。

自身が英語で授業を主導している間は、言葉が出てこないからといって途中で話すことをやめるわけにはいかない。どう言えばいいかわからなくても、オンライン英会話の授業のように手助けしてくれる先生はいないのである。なんとかしてこちらの意図を伝えるために、自身の語彙を駆使して授業を続けなくてはならない。このような状況を繰り返し経験したことによって、ある程度のことは英語で表現できるという自信がついた。

一番怖いのは、生徒からの質問である。予定していた内容を一方的に話すのと異なり、繰り出される突発的な発言をまずはリスニングして理解しなければならない。実は、オンライン英会話の先生たちはかなり手加減してスピードを下げている上、授業向けの「教科書的な」表現、わかりやすい表現を意図的に使用していることが多い(一般に、ティーチャートーク、あるいはフォーリナートークなどという)。そうした英語をリスニングするのと、一般のネイティブが話す英語をリスニングするのは全く異なる。手加減なしのネイティブ英語を、緊迫感の中で集中力を研ぎ澄ませて理解しようと努めるのは「戦場的経験」である。とはいえ、わからなかったらもう一度言ってもらったり、相手の意図を確認したりすればよい。そういうことが練習中でなく、「リアルな状況」の中でできたことも含めて、よい経験だった。また、そのような中で得た知識はいつまで経っても記憶に残り続ける。

誰もがこうした逃げられない状況で英語を話す機会を得られるわけではないが、英語で観光地を案内するボランティアなどの仕事は見つかるはずである。オンライン英会話をしているが今ひとつ伸び悩んでいるという人は試してみてほしい。


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