色男

9月29日(水)

庵洋亭のオムライスセットがなぜか無性に食べたくなったので、午前中の仕事を早めに切り上げ店に向かうと、上下黄色い服を身にまとった金髪の男がカレーを食べていた。あまりにも原色に近い黄色だったので、子供の頃観ていた戦隊モノの特撮を思い出した。オムライスセットの付け合わせのサラダがちょっと小さい皿に変わっていた。

10月3日(金)

 会社の飲み会を早々に抜け出して駅前を歩いていると、この前庵洋亭でカレーを食べていた男が酔っ払いと話していた。今日は髪の毛が隠れるくらい深くかぶった青いニット帽に真っ青のツナギを着て、青いナイキのスニーカーを履いていた。
「よう色男、今日は全身青いのかい?」という酔っ払いの問いかけに、「今日は悲しい気分なんで…」と答えていた。確かに整った顔立ちをしているので、俺も心の中で色男と呼ぶことにした。

10月4日(土)

 休日出勤を終え家に帰ろうと電車に乗ると、向かい側に例の色男が座っていた。喪服のような黒いスーツを着て鞄を抱えて下を向いていたのでなかなか気づかなかった。
気がつくと疲れから少し眠ってしまったようで、一駅寝過ごしてしまっていた事に気付き焦って電車を降りた。一駅だし歩いて帰ろうと改札を通った時、色男が今日喪服を着ていたのは昨日の悲しい気分と関係があるのか、ふと気になった。

10月7日(火)

 仕事帰りに雑誌を買おうと本屋に行ったら、色男が先週見た全身青の出で立ちで話題書のコーナーに居た。何の本を読んでいるのか気になったので、本を探すフリをしながら表紙をチラッと見ると、「幸福とは何か」と言ったタイトルの自己啓発本のようだった。
 興味本位で見てしまったのが申し訳なくなって、誤魔化すように目の前の本棚から適当な本を抜いてレジまで向かった。手に取った本は『神祖開眼』なんてうさんくさい新書だった。

10月12日(日)

 インターホンが五月蠅くて目覚めた。日曜の朝っぱらから家に来る人間なんてロクなヤツじゃないと居留守をしてたが、なかなか鳴り止まないのでモニターを確認すると喪服の色男が無表情で呼び鈴を押している。意味が分からないが、怖いので五月蠅いと怒鳴り込む前に日記だけ残しておこうと思う。俺になにかあったらすまないが後は頼む。

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