ゲオスミンを待っている

『ペトリコール』という言葉を知っている人は多いだろう。
知らなくとも、雨の日特有の肺を濡らす匂いのことだと言えばわかってもらえると思う。

私は疑問に思う。

果たして『ペトリコール』を知る何人が、
『ゲオスミン』
という単語を知っているのだろう。

ゲオスミンはペトリコールの対極を表す。
ペトリコールは雨が降っている間の香り。
ゲオスミンは雨が止んだあとの香り。

私は雨が好きだ。そして、晴れが苦手だ。
けれど、雨が降る日は晴れが待ち遠しい。
私は知っている。
雨は止むから美しい。

いずれは消えてしまうという儚さが、
命を燃やして激しく降り注ぐ冷たい炎が、
傘を打つ感情的な演奏が、
そして、それらが消え失せたあとの余韻が、
私は好きだ。

だから私は、ゲオスミンを待っている。

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