二胡レイの教室

 人を殺したのは初めてだった。後ろからスコップで思い切り殴ったら、七堂は死んだ。
 七堂ナナ。ふざけた名前の転校生。いつも飄々とした態度で掴みどころがない女。私が死ぬほど欲しかった椅子を、七堂ナナはなんの苦労もせずに手に入れた。レイの隣の席はたまたま空席で、転校してきた七堂ナナのものになった。
 二胡レイは私の一番大切な人だ。当然、クラスみんなにも好かれている。
 隙あらば七堂はレイと喋っていた。休み時間だけでなく授業中にこそこそと笑い合っていることすらあった。私はそれを後ろから眺めていた。
 許せない。憎い。嫉妬と怒りでどうにかなりそうだった。気づいたら私は、学校の裏山にある廃神社に七堂を呼びつけていた。そして、家の倉庫から引っ張り出してきたスコップで、後ろから襲って殺した。死体は境内に埋めた。あれほど深く穴を掘ったのは初めてだった。逮捕されるのが怖かったからではない。どんな形であれ、再び七堂がレイの目に入るのが嫌だったからだ。
 七堂を殺した日の夜は、ぐっすりと眠れた。久しぶりにいい夢を見た。消えた七堂の代わりに、私がレイの隣の席に座る夢だった。
 次の日、私は我慢できずに、いつもより早く学校に行った。誰も居ない校舎は清々しい。教室のドアを開けると、生徒が一人だけ居た。レイの隣の席に、確かに殺したはずの七堂が座っている。七堂は私を見て笑顔を浮かべて言った。
「待ってたよ」
「な、なんで」
「なんでかな? 不思議だね。ねえ、芳田さん。あなたが二胡さんが好きな理由、教えてあげようか?」
 急になにを言いだすのかと言おうとする。しかし一瞬の後、私はレイのことが好きな理由を何一つ思い浮かばない自分に気が付いた。レイの容姿も性格も、私の好みではない。傲慢かつ身勝手なレイの振舞いには、魅力などひとかけらもない。
 七堂がくつくつと笑う。彼女は確かに何かを知っている。私は七堂に向かって、ゆっくりと頷いた。

【続く】

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