朝ドラァ!-Good morning DRAG QUEEN!!

ネタバレあり。
配信公演を観劇し、あまりにもヒットしてしまって時間の許す限りリピートでして、その度に泣いてます。感想を綴ったら5000字になりました…。

気になっている役者様の告知で知った今作。ドラァグクイーンってだけでワード強いのに、そこに世界滅亡とタイムリープを掛け合わせてるって…!なんで掛けちゃったの!と全力でツッコミながらも、そんなの観たいに決まってる。何がなんでも観たい。
とはいえタイミングが合わず、配信ないかな…!?と毎日SNSをチェックしていたところ、ようやくディレイ配信の案内が。

観劇できるタイミングを待ちわびて、やっと当日。楽しみすぎて仕事が手につきませんでした。あんまりにも楽しみすぎて、いっそ再生ボタンを押すのを躊躇ってしまうくらい。きっと今この瞬間が一番わくわくドキドキしていて、物語が始まったらこの気持ちも変わってしまうから、再生せずにこのまま浮かれていたい。
期待すれば期待するだけ、自分の感性に合わなかった時のショックも大きくなるものですが、そういう意味でも今作は少し、再生するのに緊張しました。ここ最近で、一番観劇できるのを楽しみにしている作品だったのです。

で、物語が始まって。
最初の「演劇らしい始まり方」で物語の世界観に一気に引き込まれました。最近は音響や照明、映像を多用した派手な演出の作品の観劇が続いていたから、(勿論そういった作品も大好きですが)このアナログ感にも胸が高まります。小劇場の良さが詰まっている…。皮肉の数々にざわつきつつ、結局ニヤリとしてしまう。笑っていいのかどうかのギリギリを攻めていくこの感じ、嫌いじゃないです。そのままカオスのごった煮みたいなbar「ねこ」のシーンが入り、世界はまるでくす玉でも割るかのように、めでたく弾けて終わってしまいます。そうして物語は過去と現在を交差させながら、どんどん展開していくわけですが…。

冒頭で薄々気がついていましたが、今回の作品、想像以上に社会派でした。(臆することなく実名でネタにするあたり、ある種の覚悟が窺えます。)ですが決して暗い作品ではなく、もう絵面からしてぶっ飛んでいるし強いし、何処を切り取っても面白い!そして前述した通り、笑えるかどうかのギリギリを攻めるのが本当に上手で、話題は暗くても会話のテンポが良いからストレスなく観ることができました。
インスタでタイムリープしている人たち見つけちゃったり、ラインで宇宙人と交信できちゃったり、割とご都合主義で話が展開していくのも良かった。作品の持つ雰囲気が、このガバ設定すら味方につけて笑わせに来るのはもうあっぱれです。なんなら、「大事ではない部分」の設定が緩いことでストーリーの伝えたい部分が強調される効果すらある…。(個人の感覚ですが。)
台詞から構成、照明や音響、演出まで何もかもが素敵で、自分の感性に刺さる舞台でした。

あまりにも書きたいことが多すぎるので、以下、いくつか抜粋します。

・「ねこ」
bar「ねこ」、すごく温かい場所でした。ドラァグクイーンの踝、みやこ、バランチの3人を中心にして繰り広げられる混沌の数々。私は歌舞伎町とは縁のない生活を送っている者ですが、めちゃくちゃ楽しそうで、少し羨ましくなりました。ここに来る常連たちは、いわば世間からの「弾かれ者」。でも、ここにいる人たちは自分と違う存在を拒まない。(バランチさんにしたって「ビジネスドラァグ」だし…。)彼らが自分を偽ることなく、のびのびと振る舞う様子が最高にクールでした。偏見がないからこそ性に対してオープンで、下ネタがいっそ清々しい。
あと、単純に皆さんキマッていて面白い。ドラァグの姐さんたちがめちゃくちゃ人生経験豊かだし、知性とセンスに溢れているし、本当に魅力的でした。私も通いたい…。

・鍵を握る2014年の中学生たち
踝キックから始まるから見事ミスリードに引っかかっていた訳なんですけれど、まーあ、この回想シーンは辛かった。
「何も悪くない人が自分の世界を閉じなきゃいけないのはおかしい」って理論、本当によくわかります。現役で教員をしているので、彼らの話や心の叫びがかなり生々しく聞こえました。楽しくて無邪気で愛おしい時間が、きっかけひとつで怒濤の展開。その全てが苦しく、目を背けたいものばかりでした。
「大人になったら慣れてしまって、全部忘れてしまう」という涼子の叫び。中学生という繊細な存在から見ると、世間の不条理は許せない物なのでしょう。それを上手く躱せるようになることが、大人になるということ…。自分もそうやって大人になってしまった身なのではっとしました。
大事な友を失い、折り合いをつけて前に進むこともできず、諦めることもできなかった宏介。授業にも参加していないあたり、彼はそもそもが孤独の天才だったのかもしれませんね。周囲の大人にSOSが出せなくて、異星人にしか本音をこぼせなかった。作中には描かれていませんが、周りが次々に大人になってしまうなか、独り大人になりきれずに苦しんだ彼の心情を想像して、胸が痛くなりました。

・踝姐さんとしげるさんのシーン
もうね、ときめきが詰まっていましたっ…!!!踝姐さん、「ねこ」にいるときはめちゃくちゃ強くて格好いいのに、しげるさんの前で完全に女の顔してみせるの最高にあざといし、最強に可愛い。そうだよね、好きな人と最後まで一緒にいたいよね…!
姐さんが地球を救うと決めたその動機の1つになったのが、しげるさんとの日々だったと思います。お互いに想い合っていて、慈しんでいるのがよくわかる。そしてしげるさん、あまりにもスパダリ過ぎる。「傷ついているのを見るのがヤなの」「大丈夫って聞くのももう辛い」といったあのシーン、大好きすぎて永遠に頭の中で流してます。最愛の人が何度も地球滅亡を見送っていると気付いたときのしげるさんはどんな気持ちだったのかな…。何度観ても涙腺崩壊。
とびっきり愛情深くて優しくて温かい2人のシーン、この2人の愛を観られただけでこの作品を観劇した価値があったと思いました…。素晴らしかった。

・寄野さん。
寄野さんっ…!!!誰より優しく、正義感に溢れて、闇落ちしてしまった人。あまりにもしんどかった。特に真犯人判明のシーンでは彼の表情や声色から色々なことを想像してしまうから、本当に苦しいシーンでした。
「世界は変われない」と嘆き苦しみ憤るけれど、本当は変われなかったのは彼の方でした。周りが変わっていく中、歩みを止めてしまった彼は殻に閉じこもって恨めしげに世界を見つめ、何を考えていたのだろう。巨大浮遊物が出現したとき、それを阻止する対策委員会に入ったとき、そして滅亡の瞬間、何を感じていたのかな。「10年前までかまいにいってあげる」って言って貰ったときに一瞬だけ見せる泣きそうな表情が、全てを物語っている気がします。
演じてくださったのは最近気になる役者様の1人、塚本さん。もともとこの作品を知ったきっかけも彼でした。スタイルがバカほどいいのでスーツがお似合いすぎるし、もう何もかもが格好良くて所作が美しかった…。頭抱えてむせび泣きました。彼の硬派で、どこかアンニュイな雰囲気が後を引きます。出会ったのは別作品でしたが、やっぱりとんでもない役者様でした。深追いしたら抜け出せなくなりそうな予感。

・クライマックス(ラストシーン)
アルマゲドンの件からもう笑いが止まらなかったのですが、『I don't Want to Miss a Thing 』があまりにも仕事をしすぎてしまって、泣けばいいのか笑えばいいのか、もう情緒が忙しかったです。正真正銘の泣き笑い。もの凄く温かくて、間違いなく2023年に観劇した舞台の中で最も好きなクライマックスの1つです。
中学生たちのシリアスな場面を観ているから、そこにドラァグクイーンたちを掛け合わせると、なんというか…雑コラ感がすごいw。そしてそれが非常にいい味出していて、もうずっと笑いっぱなしでした。
と同時に、とてもとても温かくて、本当に幸せなシーンでした。苦しくて仕方なかった宏介…もとい寄野さんが救われていくの、ちゃんと彼を優しく導いてくれる大人がいて良かった…と言う気持ちでいっぱいです。大人は子供の未来ですから、宏介に優しく温かい未来を見せられたことに見ていてホッとしました。
ドラァグクイーンの彼女たちがやってることって何も特別なことじゃなくて、悲しみにほんの少し寄り添うだけなんですよね。その小さな優しさが大きな救いになる…。(救いになるどころか、また1人伝説を生み出してしまうわけなんですけど。寄野くんが頭にホヤ被って登場した時はもう、爆笑案件)シンプルな温かさに胸がじんわりと温かくなる、そんな幸せなラストでした。本当に大好きです。

さてさて…。好きが散らばってしまって上手くまとめられず、いつも以上に散漫な文章になってしまいましたが…。今回の舞台、「ドラァグクイーン」「タイムリープ」「地球滅亡」「宇宙人」などの高カロリーなワードのおかげで画面全体がかなりハイテンションです。ですが、その中でふと感じさせる閉塞感。これがこの作品の肝かもしれないと感じました。
私自身、普段は仕事に打ち込んで、プライベートは推しを追いかけて、割と人生充実している方です。エンターテイメントから力を貰っているので、日々楽しくて、幸せな予定も沢山。
それなのに、ふと感じることがあるんです。「あぁ、先がない」って。自分を取り巻く環境や抱える問題を考えて、静かに病んでいく社会に辟易する。全部投げ出して、命もなにもかも投げ出して終わりにしたい時があるんです。
こんな気持ちになるのは自分だけだと思っていました。何をしていても付いて回る、仄暗い暗い閉塞感と手詰まり感。この作品を観て、もしかしたら自分だけではないのかもしれない…と思えました。きっと社会全体がそんな気持ちでいるのでしょう。
それでも、ほんの少しの優しさで変えていくことができるのなら、この世界も、ひいては人間も捨てたものではないのかもしれません。決して押しつけがましくはないメッセージに背中を押してもらった気がします。観終わった後に元気をもらえて、爽やかで清々しい気持ちになりました。程よく社会派で考えさせられて、笑って泣けて元気になれる。あまりにも素晴らしい作品に出会いました。何度も言うけれど、間違いなく今年一番刺さった舞台の1つ。
2023年の年の瀬に、この作品に出会えて良かった。この作品が自分の心の一部になってくれて良かった。本当に幸せで、かけがえのない観劇体験でした。

『朝ドラァ!-Good morning DRAG QUEEN!!』
2023.12.9(土)
オンライン視聴












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