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7月7日緊急要望の解説#1.生活保護申請者の居所確保<何を・なぜ要望したか?>

去る7月7日、筆者は困窮者の支援を行なう10団体とともに、東京都へ「五輪・パラ五輪期間にかかる住居喪失者支援の緊急要望書」を提出した。五輪・パラ五輪の影で、困窮者支援の現場は非常に深刻な事態となっており、急遽申し入れを行なうことになった。
それにはややこしい背景があるので、要望の内容について解説しておこうと思いこの記事を書いている…というところで、ご存知の通り緊急事態宣言の発出や五輪の無観客化が決定した。さらに先行きが見通しにくくなっているが、一度はまとめておこうと思う。この記事では、特に緊急性が高い、<要望1>について述べる。

要望書の全文はこちらからご覧いただくとして、<要望1>として求めたのは、おおよそ以下の項目だ。

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6月末頃から都内の支援団体のメーリスでは、住居がない人が生活保護申請をした際の一時的な宿泊場所の確保が難しくなっている、という声が上がっていた。
元々、東京では住居がない状態から生活保護に至った場合、相部屋の施設などを斡旋されることが常態化していた。コロナ禍が到来し、支援団体の要請もあり、個室での保護へと向かう動きは一応加速した。具体的には、個室を原則とする旨の行政通知が出されたり、東京都が交渉した「都協議ホテル」を利用できるようになったり、一時的な滞在の場合に支給される宿泊費が増額されるなどの措置が取られた。
つまり昨年来、住まいを失った人が生活保護申請をした場合、保護決定を待ち次の滞在先が得られるまでの約1ヶ月間、ビジネスホテルを利用することができるということになった。この運用も区市によりだいぶ異なるが、一応そういう枠組みができた。

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しかし、五輪による宿泊需要が高まった影響か、このホテル確保が容易ではなくなってきたのだ。上の図の上段にあるホテルのことで、これがいわゆる「都協議ホテル」にあたる。「都協議ホテル」はあくまでそのホテルに空きがある場合に利用できるというものだ。これまでなるべく個室を斡旋してくれた区でも確保が困難になり、無料低額宿泊所や簡易宿泊所を斡旋するケースが出てきた。無料低額宿泊所には個室のものもあるが、食堂などが共同である場合も多く、感染対策の観点などから、必ずしも安心できるわけではない。それに無料低額宿泊所自体のキャパシティも十分というわけではない。こうした状況から、要望ではまず、居所確保を確実にできるように、ということを求めた。担当課は、まず事態の把握に努めるという回答だった。

加えて、上記とは別に緊急宿泊事業としてビジネスホテルを利用できる枠組みがある(上の図の下段)。規模としてはこちらの方が大きく、チャレンジネットという窓口から利用することができる。元々は最初の緊急事態宣言のときに、ネットカフェ生活者の受け皿として用意された。以降、緊急事態宣言や蔓延防止重点措置の際に、住居がない人のためのビジネスホテルとして確保されてきた(ホテル業界の救済という意味もあっただろう)。
今回の緊急事態宣言発出により、このホテル提供期間は8月22日まで延長されることが発表された(7月8日の東京都発表)。これで安心…と思いきや、実は7月12日以降の滞在延長ができない人々もいる

2021年になってから、ほぼ切れ間なく緊急事態宣言または蔓延防止が続いた。この間、ホテル利用者の滞在期間も長期化してきた。ずっとビジネスホテルにいるというわけにもいかない、ということで春から継続して利用してきた人はこれ以上延泊できないという案内が出されている。

延々とホテルにいるわけにはいかないというのは確かにそうなのだが、その先の道筋がなかなか立てづらいのが問題なのだ。ビジネスホテルからは「一時利用住宅」という4ヶ月まで利用可能なアパートに入居できる。しかし、この仕組みは現金給付があるわけではないので、ある程度就労の見込みがないと生活するのが難しいだろう。昨今の雇用情勢は依然として芳しくない。

就職先が見つからないうちに所持金が尽きれば、生活保護申請をすることになるが、そこで上述の問題(滞在場所が確保できない)にぶち当たる。間もなくビジネスホテルを出なければならないという人が少なくとも数十人いるわけだが、その人々をしっかり受け入れるだけの滞在場所がない。

五輪の無観客化が決定したことにより、都内のビジネスホテル需要は減り、この状況は緩和されるかもしれない。しかし、その影響がすぐさま波及してくるかはわからない。諸々の状況は時々刻々と変化しているが、住居がない人が生活保護を申請した際の居所確保は依然として重要な問題なのだ。

基本的には日本の福祉施策は就労自立を前提とする。景気が良く、雇用情勢がよければそれで助かる人も多いだろう。しかし、あまりに長引くコロナ禍の下、「就労自立モデル」は以前にも増してハードルが高くなっている。まずは落ち着いて生活保護で立て直して…と勧めたいところだが、一度住まいを失うと、現実には生活基盤となる居所の確保が難しい。ここはかなり強化すべきところだということが改めて浮き彫りになっている。
<要望2><要望3>については、また別の記事としたい。

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