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【解説】入り口と出口を欠いている…!コロナ禍で住まいを失う人への支援の課題

デモクラティック・デザイナーの北畠拓也です。

すっかり初夏の気候になりました。私の事務所は第二京浜道路沿いにあるのですが、GW明けの週の中盤から車の交通量はほぼ普段どおりに戻ってきました。巷では、もう普通にしてもよいかな〜という雰囲気がなんとなく流れはじめています。その是非は置いておくとしても、今後段階的にであれ商業施設の営業も再開していくでしょう。

4月上旬に発せられた緊急事態宣言によるネットカフェの営業停止に伴い、住まいを失う人が大量に発生するという懸念がありました。都内には約4000人いると推計されているネットカフェ難民の人々(ⅰ)が野宿に至る可能性がありました。そこで、私は繋がりのあるホームレス支援団体の方々と共同で、コロナ禍で住まいを失う人々への支援が必要だということを働きかけてきました。その訴えの一部は政策に反映されたのですが、まだ課題もたくさんあります。

◆今後更に増加する「住まい」を失う人々

今後、特定警戒都道府県においても緊急事態宣言もいずれ解除され、じょじょにネットカフェ等が営業再開していくでしょう。そうするとこの問題はもう考えなくてよい…のかというと、どうやらそうではありません。私は今後ますます、「住まい」の支援は必要になってくると考えています。なぜなら、今後住まいを失う危険のある人は確実に増加するからです。

今般の経済活動の停滞や、間違いなくやってくるコロナ不況に対して、今はぎりぎり家賃を払えている人が職を失ったり貯金が尽きたりすることで住まいを失う可能性があり、そのような状況の方が大量に発生することが予想されます。こうした危機は時間差でやってくるのです。現にリーマンショックの際も、派遣などの職を失った人がホームレス状態に至るまでには2ヶ月〜数ヶ月程度のタイムラグがあったと言います(ⅱ)。

もともと住まいの支援が脆弱だった東京では、今後さらなる危機的状況が訪れる可能性があります。この記事では、今回のコロナ禍に伴ってどのような住まいの支援が提供されはじめているかという現在地を示すとともに、今後必要な支援について考えます。

◆コロナ禍で住まいを失う人への支援:現在地

先にも述べたように、私たちは4月にコロナ禍で住まいを失う人への支援についての緊急要望書を提出しました。それから私たち以外にも多くの市民団体の働きかけや、都議や行政職員の奮闘により東京都では「住宅喪失者への一時住宅提供」事業費が補正予算に計上されました。

一時的な滞在が可能なホテルの確保と、その後数ヶ月利用できる一時住宅の確保を図るものです。
今夜住まいを失った人がひとまず過ごすことができる場所が確保されたことに私たちは安堵しました。まずはホテルで落ち着いて、自分に適した支援が何かを相談したり、今後の生活再建の計画を立てれば良いわけです。

しかし、現実はそのようにスムーズに進んでいるわけではありません。上記だけでは支援は不十分なのです。では、今後何が必要かを考えていきたいと思いますが、簡単に言えば「入り口」と「出口」を欠いているということです。順に説明していきます。

◆入り口の課題:支援が必要な人に届けにいく姿勢

まずは入り口、つまり今回の措置の対象となる人が、実際に窓口に辿り着き、支援を受けられるようになるまでの間について。この過程では今後改善されるべき課題が大きく3つあります。ひとつは広報の問題。実は先ほど述べたようなな支援があるということの周知がほとんどなされていません。支援策を用意しても、必要な人にその情報が届かなくては意味がありません。4月11日から上述のホテルに滞在できるようになったのですが、都のTwitterでは4月下旬になってようやく告知がなされた。この課題については、都民ファーストの会が都知事への要望において必要性を訴えましたが、まだ積極的な広報がなされているとは言えません。私も支援情報の拡散に努めていますが、市民の手だけでは限界があります。
2つ目は、「申請主義」の壁です。支援を受けるためには適切な窓口にたどり着かねばなりません。しかし、現に困窮した状態では様々な情報を取捨選択し自身に該当する支援策を見つけて相談に行くのは非常に高いハードルになります。これは、支援が必要な人に情報を届ける積極的にアウトリーチする姿勢が必要です。
3つ目に、実際の窓口での対応です。もちろん多くの行政職員の方が真摯に対応してくださっていると信じています。しかし緊急的な措置で周知の期間が極めて短かったということもあり、適切な対応がなされなかったという報告も相次いでいます。これにはその都度市民の側で事実確認や是正のお願いをし、改善されてきている部分もあります。しかし、勇気を振り絞って、あるいはいっそ死んでしまおうかというのを思いとどまって窓口にたどり着く人もいるわけです。入り口のハードルはなるべく低くすべきです。

◆出口の課題:安定した住まいへの接続

それから、入り口をなんとか通過して一時的なホテルに滞在できたはいいものの、そのあとの出口に関しても課題があります。ホテルに入居したのちに受けられる支援として現実的なものは主なものでは2通り。ひとつは「チャレンジネット」というネットカフェ難民の人のための既存の就労支援+一時住宅提供のコースに乗るか、もうひとつは生活保護を利用するかです。


チャレンジネットを利用して就職先が見つかれば問題ないのですが、今般の社会情勢では期限である3ヶ月以内に職が見つかるとも限りません。しかもこのコースでは現金給付は無いので、今回貯金もほとんど尽きて支援を利用した人には非常に利用しにくいでしょう。また、一次住宅の確保量も十分ではありません。

生活保護は、困窮した際に国民誰にでも認められるものですし、当座はこちらで凌ぎ、働けるような状況になったら就労自立していくのが現実的であると考えられます。しかしながら、住所が無い状態で生活保護を申請した場合、無料低額宿泊所を斡旋されるという運用が通常です。無料低額宿泊所は大部屋の施設も少なくなく、今般の防疫上の観点からは適切では無いでしょう。個室を用意している無料低額宿泊所もありますが、それがどの程度空室として利用可能な状況にあるのか、東京都は把握していません。また、生活保護を利用した場合、チャレンジネットの一時住宅は利用できない。

また、先日困窮者支援団体らによる新型コロナ緊急アクションのかたが提言されたように、ホテルに入居後の相談体制が不十分であるということも早急な対応が必要です。

このように、出口となる既存の制度への接続の悪さや、キャパシティの面で課題があると考えられます。これらは今後時間差で住まいを失う人が出てくる時に対応できなくなってしまうでしょう。コロナ禍により数十万人の失業者が出ると予想されていますが、そのうちどれだけの人が不安定な居住状態にあるでしょうか。正確に把握できている人はおそらくいませんが、数千人〜数万人という規模になるでしょう。

◆住まいを確保するための包括的な「システム」になっていない

以上のように、現在顕在化している・または今後より大きくなっていきそうな課題を個別に述べてきました。しかし、少し広い視点でみると、これらは1つ1つの問題というよりも、包括的な「システム」として「住まいの支援」が構築されていないということになります。個別の事業はあっても、それらが繋がりを持ったプロセスとして捉えられていないのです。

これは、住まいの確保は自己責任、つまり市場の領域に任せられてきた日本の制度的な歴史も要因としてあります。しかしこうした「社会システムの脆弱さ」は今回のような災害時に顕在化します。

今回のような予期せぬ外的なインパクトによって、普段真面目に働いていても職を失ったり、家を失ったりする可能性があるということを多くの人が実感されたのではないでしょうか。しかし、普段真面目に働いていようといまいと、つまりたとえ困窮した状況に自己責任でそうなったとしても、やはり社会として「住まいの支援」を行う包括的なシステムは絶対的に必要なのです。

◆自己責任論を越えて、社会の強さを育てよう

安定した「住まい」は、人間が人間らしく生きていく上で欠かすことができません。それは、食糧や医療へのアクセス、自己決定権などと同じように人間に根源的に必要なものです。

ですから、理由はなんであれ、食糧が無いとか医療にアクセスできないとか、人権が蹂躙されるような事態が生じた時に、社会はそれに対応する「システム」を持たなければいけません。それは、「住まい」に関しても同様です。自己責任かどうかは問題ではなく、「住まいを失った」という極限的な状態にどうにか対応し是正するような「システム」を社会に備えるということが重要なのです。今回のコロナ禍や不況、地震等の自然災害など、「住まいを失う」要因は様々でも、生じた状態は現に極限的な状態な訳ですから、その状態に対応しなければなりません。

つまり人間の根源的な要素については、様々な外的インパクトに対してもしっかりと確保できる回復力や柔軟な強さ(レジリエンシー)が社会には必要です。先の見えないこれからの世界では、このような未知のインパクトに対応する強さ:レジリエンシーを社会全体で育てていかなくてはいけません。それらは、これまで一見すると無駄と思われ削られてきたものだったりしますが、私たちが人間として生きていくために本当に大切なものは何なのかを考え直さなければならない時がきています。

より詳しくホームレスや住まいの問題について考えたい方はこちらから。

<注釈>

ⅰ) ネットカフェ等を生活を拠点とする人々は行政用語では住居喪失不安定就労者と呼ばれ、東京都の2018年の調査によれば約4000人にのぼると推計されている。「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」の結果より。

ⅱ) 池袋で長年ホームレス支援に携わるS氏より。リーマンブラザースの破綻からおよそ2ヶ月後に、炊き出しに並ぶ人数が急増し、その年の暮れの年越し派遣村へと展開した。


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