見出し画像

#03コロナ禍で住まいがなくなったネットカフェ生活者はどこへ行ったか?

この記事では都が確保したビジネスホテルを利用した住居喪失者の行先について現時点でわかっているデータを示す。

1. はじめに

コロナ禍による緊急事態宣言に伴い、東京都では4月に休業要請が発せられた。ネットカフェ等も営業を休止したため、多くのネットカフェ生活者が宿泊場所を失う危機にあった。東京都ではこうした事態を受け、「失業等による住居喪失者への一時住宅の提供」を補正予算に計上し、新たに緊急一時宿泊場所(ビジネスホテル)提供と、既存事業の一時住宅を拡充した。
この都が確保したビジネスホテル(以下、都ホテル)を利用するには大きく3つのルートがあった。
「それぞれからの利用者がその後どこに行ったのか?」ということを示すデータが、完全では無いにせよ得られたため、本記事にまとめる。

現在追加で提供をお願いしているデータ及び詳細な分析は、依頼いただいている原稿及び投稿論文に譲るとして、本記事では結果と概要のみ示すこととする。

2. 都ホテルへの3つのルート


都ホテルを利用するには以下の3つのルートがあった。
(1) TOKYOチャレンジネット
従前からネットカフェ生活者等(住居喪失不安定就労者という)を対象とした窓口である。基本的には3ヶ月の一時住宅(アパート)生活中に就労を目指すもので、今回の都ホテル利用者もホテル退去後には一時住宅へと移行する。一時住宅は最大で4ヶ月とすることができる。主に継続して就労することができる人を対象で、現金給付なし。

(2) 区市:自立相談支援機関
区市に設置されている生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援機関から都ホテルを利用したケース。現金給付なし。

(3) 区市:福祉事務所(生活保護)
区市の福祉事務所から生活保護申請を行い、当座の宿泊先として都ホテルを利用したケース。住居が無い状態で生活保護申請をすると無料低額宿泊所などの施設を斡旋されることが常態化していたため、個室のホテルを利用できることは画期的だったと言える。

和田靜香さんの記事(【東京貧困のリアル】自治体差で運命が決まる不当、ネットカフェ難民のその後を追う)によれば、これらを利用した延べ人数は1412名だった(8月16日時点)。ただし、当初土日に要件に関わらずTOKYOチャレンジネットから受け入れを行ったことや新宿区の追い出しの対応などから、重複して数えられている人が相当数いるため、実数としては1000名程度であると推測される。

以下では、(1)~(3)それぞれから都ホテルを利用した人の行先について述べる。

3. 都ホテル後の行き先

(1)TOKYOチャレンジネット
TOKYOチャレンジネットから都ホテル利用した場合、その後は基本的に3ヶ月(最大4ヶ月)滞在できる「一時住宅」に移行することができる。都は必要な分の物件をすでに確保している。
8月28日時点で、すでに一時住宅へ移行した人は295名(うち43名はすでに退去)であり、都ホテルで待機中の人は284名(うち121名は移行に向けた調整中)であった。(注1)
合計すると579名は都ホテルの後に一時住宅への入居ができることになっている。
ただし、今般の雇用情勢を鑑みるに4ヶ月以内に就労できるかどうかは不透明なところだ。現金給付がないために、継続した仕事がなく手持ちが尽きた場合は一時住宅での生活が困難になることが予想される。

(2) 区市:自立相談支援機関
6月13日時点で生活困窮者自立支援制度を活用しながら都ホテルを利用した人は169名だった。7月1日時点(一部の区では7月8日時点)での主な行先は以下になる。(注2)

画像2

およそ26%の人が他制度へ移行した。就労自立・アパート・寮付き仕事を合わせると約11%、ビジネスホテルやネットカフェといった不安定な状況が続いているのが約20%だった
最も多かったのは不明(30.1%)で、生活困窮者自立支援制度自体の脆弱性(入ることができる住宅がない、具体的な支援が皆無であることなど)を示していると言えるかもしれない。

(3) 区市:福祉事務所(生活保護)
「令和2年4月10日から6月7日までの間に緊急一時宿泊場所に宿泊した生活保護受給者」すなわち福祉事務所から生活保護申請して都ホテルを利用した人、ないし(1)(2)で都ホテルに入った後生活保護に移行した人の出口調査結果を以下に示す。(注3)

画像2


アパート及び寮付きの仕事を得られたのは4割弱だった。なお、保護施設とは主に障害や病気で支援が必要な生活保護利用者のための施設である。
無料低額宿泊所への入所は9.0%であり、コロナ禍で原則個室での対応とするべきであるという通知の影響も考えられる。
簡易宿所やネットカフェも含んだ宿泊施設へと移動したのは3割強であり、生活保護受給後も不安定な居住形態を継続しているものと思われる。

4. まとめ


以上の結果から、全体像の把握を試みる。ただし、(2)から生活保護に至った人などがいることによる重複や、それぞれの調査が行われた期間の違いから抜けもあることから正確性にはいささか欠ける雑駁なものであることはご理解いただきたい。

まず、全体の都ホテル利用者としては、(2)から(1)(3)に移行した45名程度を抜いて足し合わせると、およそ1000人弱となる。このうち、6割は一時住宅として3ヶ月(最大4ヶ月)の居宅生活を送ることになる。ただし先に述べたように雇用情勢などから就労ができない場合、手持ちが尽きた際には生活保護へ移行することになるだろう。

また、1割強がアパートまたは寮付きの仕事を得られ、同じく1割強がホテル、簡易宿所、ネットカフェなど宿泊施設に移動し、無料低額宿泊所を含む施設での保護が5%程度だった。

雑駁にまとめると1000人弱のホテル利用者のうち、恒久的な住まいを得ることができたのは1割弱、アパートに入居できる(できた)が期限付きなのが6割、いまだ不安定な状況が1割、その他不明も一定数いるということになる。

今般の都によるホテル確保は画期的な取り組みであり、1000名ほどを受け入れたことは大きい。しかしながら、そもそも住居がない人に向けた住宅支援が脆弱であるため、公的な支援につながった後も不安定な居住環境が解消されない人が一定数みられた。あくまで現時点の調査であり、ビジネスホテルに滞在している人のうち今後居宅へ移行できる人もいるだろう。

また、都職員の奔走により一時住宅が数百戸単位で拡充されたことは評価される。しかし、今後さらなる雇用情勢の悪化等により住居喪失者が大量に生じた場合を想定すると、制度設計として限界があるだろう。住居確保の支援及び生活困窮者が利用できる住居のストックは今後ますます必要になるだろう。
また、住居が無い状態の人が生活保護申請をした際には、施設での保護が常態化していたが、「居宅保護率=普通のアパートに入居できる率」は多くの場合明らかにされていない(または集計されていない)。今回のデータは厳密には法的な「ホームレス」と異なる対象であるが、住居のない状態からの生活保護受給者の居宅保護率は36.5%であることがわかった。「居宅保護率」が一部であれ明らかとなったのは意義あることだと言えるだろう。

(注1)東京都福祉保健局生活福祉部地域福祉課より

(注2)東京都福祉保健局生活福祉部地域福祉課より。ここに示されていないデータは、追加での提供を求めている。

(注3)東京都福祉保健局生活福祉部保護課より


よろしければサポートお願いします!現在フリーランスの研究者の卵ですので、いただいたご支援は調査研究活動に使わせていただきます。