雪の降るよる④ ボックスとソフト
「ふうん。あ、煙草買ってきてくれた?」
「煙草?」
そんなことは聞いていない、はずだったが、二十分前にスマートフォンに裕也からのメッセージが届いていた。気づかなかった。
「なに、買ってきてないの?まじかよ」
裕也はそう言うと舌打ちをしたので、私はごめんごめん、と反射的に謝った。
「ぜんぜん見てなかった。もうなくなりそう?今から買って来ようか」
私がそう言って立ち上がると、裕也は「ついでにいつものポテチも買ってきて」とテレビから視線をそらさずに言った。わかった、裕也の表情を伺いながら、私はコートを着こんだ。
冷えた夜風に当たりながら、ついさっき歩いた道を戻り、コンビニに向かう。私にはこういうところがある。裕也に舌打ちをされると、つい謝ってしまう。裕也が苛ついているのがこわい。たぶん、優しい人ではあると思う。だけど、怒りの沸点がわからない。ちょっとしたことでひどく怒り、それを態度に表すことがままある。そのたびに私は、びくびくしてしまう。最初からそんな人だったか?わからない。きっと、付き合いが長くなってきたから、素の部分が出てきているのだろう。裕也は、私がちょっと前に辞めたバイト先の総菜屋で社員として働いていて、お店には内緒で付き合っていた。社員ということもあり、頼れる兄貴のように接してくれた。私がバイトを辞めて、一緒に暮らすようになってからも、それは変わっていないはずだ。しかし、なんだか最近は戸惑うことが多い。
コンビニまでは三分ほどの道のりで、そんなことを考えていたらあっという間だった。私は裕也が好んで食べるポテトチップスと、念のために追加のビールを手にとり、いつも裕也が吸っている銘柄の、ボックスのほうの番号を店員に告げた。前に、ソフトのほうを買って行って、俺はボックスじゃなきゃダメなんだよ、と怒られたことがあった。会計を済ませ、急いで帰る。裕也はスマートフォンで必死にゲームをしている。
「買ってきたよ」
袋を裕也の目の前に置くと、「んー」と気の抜けた返事が返ってくる。私はコートを脱いで、そのまま着替えを持って浴室に向かう。尽くしすぎだ、と女友達に言われたことがあった。確かにそうかもしれない。だけど、私たちのバランスはこのように保たれている。今さら、何かを変えることなんてできない。シャワーを浴び、髪を乾かしていると、アルコールのせいもありひどく眠気に襲われた。裕也はまだゲームに夢中になっているので、先に寝るね、と声をかけるも、もう返事すらなかった。
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