いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン㉒第弐拾話『心のかたち、人のかたち』

 さて、長くなり過ぎた前回の補足から。19話の英語タイトル、『INTROJECTION』なんですよね。日本語に訳すと「摂取」。直球です。
 が、この単語。心理学においては「取り入れ」という意味もあります。要するに、周囲の他者が持つ個性や価値観を、自分のものと錯覚する、というお話です。「同一視」の前段階とも言われています。詳しくはググってね。
 エヴァで同一視といえばミサトさんなわけですが、結局のところ「エヴァに乗って戦う」という判断をしてしまったシンジくんも、周囲の影響を受けて色々な価値観を取り入れてしまった結果なのでは、というアレ。

 そして、そんなシンジくんもまた、シンクロ率400%でエヴァに「取り入れ」られてしまった、というところから今回のお話は始まります。20話『心のかたち、人のかたち』。お茶の間戦慄回として有名です。昨今ではPCやスマホの普及で、もはや「お茶の間でアニメを見る」という習慣自体が死んでる感もありますが。
 英語タイトルは『WEAVING A STORY2』。そう、同タイトルの14話に引き続き、総集編……と見せかけて、話は進みます。今回も使徒は出てきませんが。

 というわけで本編行ってみましょう。前回のまとめ、使徒食って暴れる初号機から。リツコさん曰く、わたし達にはエヴァを止められないそうですが、初号機が勝手に止まらないとは言っていない。そして、加持さん曰く、ゼーレが黙っていないそうですが……。
 今回、いつもの人類補完委員会の会議場ですが、冒頭にチラっとゼーレのマークが映ること。「我らゼーレの」という台詞から、これは人類補完委員会ではなくゼーレとしての会合であることがわかります。
ゼーレ「エヴァシリーズに生まれ出ずる筈のないS2機関」
 と、こんなことを言っていますが、後に建造される量産型エヴァはS2機関を搭載しています。現時点での話なのか、それとも後付けで搭載するのは可能なのか。
 また、ゼーレがゲンドウに計画を任せているのも、他に適任者がいないという裏事情からだとわかります。この辺の経緯は……早ければ次回に。

 壊れた零号機と弐号機。ヘイフリックというのは、テロメアによる細胞の分裂限界、ヘイフリック限界のことでしょう。エヴァンゲリオンはナマモノなので、ある程度は自己治癒する、というお話の様子。初号機も前に目が再生したりしていましたが、流石に腕がとれたり頭真っ二つにされたりするのは治らない模様。
 この回以降、第一発令所は全壊。同じデザインの第二発令所に移動しますが、別に気にしなくて大丈夫です。

 包帯でグルグル巻きのエヴァ初号機。どうやら、なんか勝手に止まった様子。
 「この初号機は三度も動いた」、シーンチョイス的にサキエル戦ではなくシンジくん搭乗前なんですが。サキエル戦はシンジくんが頑張った判定なんでしょうか。
 日向君、失言。彼はミサトさんのことが好きなんですが、加持さんが居るので今のところ何もできません。まぁ、本筋から外れるのでこの辺は省略。

 再びゼーレの面々。いつもの損失に対するボヤキです。世界を支配する秘密結社だけど予算感覚は大事。
キール議長「今度は鈴に動いてもらおう」
 ということで鈴こと加持さんなわけですが、ここで加持さんがネルフや日本政府のスパイであると同時に、ゼーレのスパイであることが仄めかされますね。

 ゲンドウは「初号機の件はシンジが勝手にやったことですー我々の責任じゃないですー」で逃げ切るつもりの様子。やりたい放題すぎる……!
 ゼーレとゲンドウの関係は多分次回あたりで触れますが、ゼーレが強気に出られないのを見越している様子。

 シンジくんはプラグの中で融解。リツコが「エヴァに取り込まれた」と表現しているのがミソ。載った時は学生服だったのに、プラグ内にはプラグスーツが浮かんでるんですよね……
 エヴァは「人の造りだした人に近いカタチをした物体」、ざっくりしすぎです。藁人形からガンダムまで当てはまるぞその定義。そして、ミサト曰く「南極で拾ったもののコピー」。「オリジナルが聞いてあきれる」とのことですが、実際オリジナルはどう思ってるんでしょうか。四話くらい後で聞いてみましょう。

 レイは「まだ生きてる」という感想。アスカは「シンジに負け、レイに助けられたので悔しい」という感想。レイの方が人生エンジョイしている感があります。ラジオのニュースが物騒。
 前にもチラっと書きましたが、エヴァの世界は「人類はもう限界」ということになっています。主にゼーレがそう考えている、という話なのですが。

 さて、リツコ曰く「今やシンジくんを失うわけにはいかない」とのこと。要するに「前まではどうでもよかった」ってことですよね!
 まあ、何で失うわけにはいかないかと言えば、初号機がS2機関を取り込み、神に近付いてしまったから……と思えるんですが、それ以上に、前話の通り初号機はもはやシンジくんでなくては動かせないからでもあると考えられます。
 ここでシンジくんを失えば、初号機はパイロットは交代もしくは破棄、どのみちコアは書き換えられてゲンドウはユイを失ってしまう、といったところでしょうか。

 シンジくんのサルベージは可能な模様。「魂というべきもの」、科学者だけあって、リツコは「魂」という直球な断定には慎重のようですが。エヴァンゲリオンの魂については後ほど。

 さて、ここで少し長くなりますが「なんでそもそも、シンクロ率が上がるとLCLに溶けるのさ」というポイント。重要なので押さえておきましょう。
 そもそも、人間は原始の海、リリスの体液(LCLのもと)から発生した生命体です。そんな人類はカヲルくん曰く心の壁、ATフィールドがあるから個体生命の形を保っていられます。
 エヴァンゲリオン2の機密情報を引くなら、魂の座である肉体を決定する自我そのものがATフィールド(自他の壁)、ということらしいです。
 なので、ATフィールドの崩壊は自他の境界線の崩壊、ひいては肉体の崩壊、即ち個体生命としての限界を意味します。具体的には液状になってパシャり、魂だけが抜け出ます。これが、シンジくんがLCLに溶けたのと同じ状態。つまり、今のシンジくんは自分の形を保てなくなっているわけです。この辺の話は、劇場版でもしますが。
 ちなみに、新劇場版の「倒された使徒の身体が溶ける」という現象も、ATフィールドを失った結果、肉体が崩壊したのだと思われます。

 さて。「ATフィールド=自我」という前提で話を進めます。
 2話において、初号機はサキエルのATフィールドを「侵食」していました。つまり、これは初号機の自我が使徒の自我を食い破った、というお話。これは即ち自我の拡大でもあり、前回18話で初号機がゼルエルの腕を奪い取ったりS2機関を吸収したりとやりたい放題だったのも、相手の肉体を決定するATフィールド(自我)を侵食して、相手の肉体を我が物にしていた、と考えることができます。ATフィールドのぶつけ合いは自我のぶつけ合いでもあるわけなので。

 そして、エヴァンゲリオン2の機密情報によると、「無制限の自我」を持つ者が神だそうです(尚、この「神」はゼーレの目指す不老不死の神、アダム・カダモンとは意味が違う可能性があることに注意)。
 そしてどうやら、無制限の自我(ATフィールド)を持つ者、神に近い存在と接触してしまうと、脆弱なATフィールド(自我)は崩壊して弾け飛んでしまうらしい。この現象は後に「アンチATフィールド」と言われたりもします。人類補完計画のキモでもあります。

 さて。何回か前に「パイロットはエヴァにやる気を出させる要員」という話をしましたが。エヴァやる気を出し過ぎるとどうなるのか。
 本気を出した初号機は、リリスの身体を持った、恐らくは神に近い存在です。つまり、拘束を解き放たれた初号機の自我に触れたシンジくんは、めでたく液状化。

 更に、14話を思い返してみましょう。
レイ「エントリープラグ。それは魂の座」
 ということで、エヴァが本気出して弾け飛んだシンジくんの肉体から飛び出た魂は、「魂の座」であるエントリープラグにキャッチされて助かった、というような話っぽい。以上がシンジくん液状化の顛末です。
 そして、シンジくんがエントリープラグを再構築しているのは、肉体を定義する自我がまだ欠片くらいは残っているから、ということになります。

 まぁ、これはこれで「エントリープラグって何なのさ」という話に繋がるのですが。こっちはエヴァ本来の建造目的に関わるので、後回し(勿体ぶってるわけじゃなくて字数の都合です)。

 なのでまとめると、このLCLへの溶解は、初号機が本気を出し、エヴァのATフィールドが神の領域に近付いた結果、中身のシンジくんが溶けた、と考えるのが多分妥当です。
 中の人であるユイにその気が無いからよかったようなものの、一歩間違えば、世界がエラいことになっていたかもしれません。新劇場版ではエラいことになります。

 といわけで、閑話休題。本編に戻りましょう。
 シンジくんはプラグ内にプカプカ。「僕の世界」、内的世界に閉じこもっており、「外からのイメージ」を「敵」と判断するシンジくん。
 前回の父との決別を経て、とりあえずエヴァには乗ったものの、「敵(=使徒)と戦う」、それも「自分が戦う」理由がわからなくなっている様子。
 「理由なんていらないのかな」と言っていますが、「理由もなく戦う」ことがストレスになっているのは確かな筈。結果、「敵」の範囲が「自分を脅かすもの」に拡大します。アスカも「降りかかる火の粉は払いのける」って言ってますし。そして、父親も、否、父親こそが「敵」であることに気付く。しかし、それをレイが止める、という構図。
 「父さんが僕を捨てたから父さんが悪い」というストーリーにシンジは縋っているわけですが、実際には「自分が逃げ出した」とも思っている。
 あと、回想に出てくる1話のシーンですが、会話の流れが少し変わっています。シンジくん視点ではこう見える、という話。

 さて、ここで前回のゲンドウの「また逃げ出すのか」。そして、シンジくんが何故「自分が逃げ出した」と思っているのか。
 それは、「シンジくんがエヴァを知っていたから」。「エヴァの起動実験で母親が消えるところを見て逃げ出したから」と考えられます。そりゃトラウマになるわ!!! なお、この時の行われたのが「失敗したサルベージ計画」です。結果、レイが生まれてるので、完全な失敗とも違うと思うのですが。

 そして一カ月経過。
 シンジくんもひと月も経つと内的世界に適応してきています。満ち足りている。「ぼくがエヴァのパイロットだからみんな優しくしてくれる。だからエヴァに乗らなきゃいけない」と内的世界のレイに語ります。
 これ、ヤシマ作戦の時のレイの「絆だから」という答えの焼き増しなんですよね。なので、むしろシンジくんの内面としては、寧ろ退行している。父親への恨みも忘れていますし。シンジくんにとって、一番幸せだった時期にまで戻ってしまっている。

 もしレイが聞いていたら思ったことでしょう。「ダメだコイツ早く何とかしないと」と。実は、漫画版だとレイが隣で念じてたりするのですが(確か)。

 ミサトさんの「がんばってね」がバージョン違いで再登場。コレもう立派な呪いだよ……!
 そして、エヴァに乗って戦っていると「褒めてはくれるけど優しくはしてくれない」ということに気付いてしまうシンジくん。自己評価激低野郎のままなので、内的世界ですら追い詰められてます。

 それに対し、「優しくしてるわよ」と囁きかけるミサトの声。「一つになろう」と囁きかけてくる「何か」。ミサトやアスカ、レイの形をしていますが、これはもうわかりやすく悪魔の囁き。果たして誰の声なのか。これは、後の人類補完計画の描写とも似ているところがあります。
 対して、外からの呼びかけは「名前を呼ぶ」という形で具現化されます。
リツコ「帰りたくないの?」
 とのことですが、うっすら実体化して迷うシンジくん。

 そして、「何を願うの?」と問い掛けるみんな、そしてユイ。同時に排出されるプラグ。

 一度ベッドで目覚めるフェイント。
 刹那、去来するのはミサトさんの遣り取り。エヴァに乗らないと決めたこと。それでも、エヴァに乗っていたこと、自分の過去は自分の一部なので否定できない。だから、その先は自分で決めなさい。というのがミサトさんの言い分。実にミサトさんらしい。そして現実の泣き叫ぶミサトさんと比べると、シンジくんのミサトさんのイメージどうなってんの!? という、残念ながら当然のお話。
 現実のミサトと「シンジの仲のミサト」の差異を見せることで、内的世界はしょせん内的世界、というのを見せる意図もある演出かもしれません。人間にはいろんな顔がある。

 そして、ヒトの匂い。ミサトでも綾波でもなく、母の匂い。
 その香りで、シンジはゲンドウと母の遣り取りを思い出します。
 ユイの「生きているだけで天国」という言葉、覚えておきましょう。ユイはとにかく「生きている」ことに意味を見出す価値観を持っています。

 解釈は一部保留としますが、「内的世界ですら辛そうだから融合しようとしたけど、迷いがあるっぽいので現世に送り返した」みたいな感じですかね、初号機=ユイ視点だと。リリスの補完計画の器としての機能がちょっと漏れてる感じでしょうか。
 というわけで、かなり迷っていましたが、とりあえず今は「ここ」に居たい。それが今のシンジくんの結論のようです。戻って来た彼が何を見て何を思うのかは次回以降。

 車のシーン。ラジオの内容は「母親と一緒にいたがるのはよくない」ということで、ドンピシャで今回のさっきまでの内容です。
 シンジくんの帰還について。
リツコ「あなたの力ね、多分」
 とのことですが。確かに、恐らくシンジくんのメンタルに影響を及ぼした順で言えば、ミサトさんがぶっちぎりなんですよね。最後の最後で出てきたのも、(シンジくんの中の)ミサトさんでしたし。ある意味、ミサトさんが丹念に呪いを込めてくれたおかげ。

 なお、一見いい話ですが、シンジくんとミサトさんの仲は全然修復されてないんですよね、コレ。シンジくんが内的世界で過去を回想し、ミサトさんが勝手に感極まって泣いただけです。

 ミサトさんは加持さんの密会。リツコも「ヒトのことは言えない」とのことで、この後ゲンドウと会うんでしょうね……。
 恐らくシンジくん助かるまでひと月以上ピリピリムードだったであろうことは想像に難くないので、無理なし。

 というわけで、お茶の間フリーズシーン。
 相変わらずミサトさんは加持さんと父親を同一視しているようですが。
 ネルフ、碇司令の目的については加持さんも分からないようです。

 加持さんの8年ぶり、そして最後のプレゼントですが、機密情報が山盛り詰まったチップを入れたマイクロカプセルの様子。
 「最後」と言っているので、恐らくこの時点で、「鈴に働いて貰う」というゼーレの動きを察しているのでしょう。

 今回のまとめとしては、主人公が死線を越え迷いを振りきり、パワーアップした機体と共に復活!

 ……という、本来ならアツい回なんですが。そんなことは全然ありません。寧ろ、シンジも、それどころかアスカもレイも(!?)置き去りにして、ミサトさん達にスポットが当たっています。
 そして、その傾向は今後も継続。せっかくS2機関を吸収してスーパーエヴァンゲリオンになったのに、戦闘での活躍はほぼゼロです。エヴァンゲリオンはシンジくんいじめのアニメなので……。

 そんなこんなで次回も、せっかく戻って来たシンジくんを差し置いて大人たちのお話です。『ネルフ、誕生』。ゲンドウの修羅場が見れるぞ!

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