いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン㉖第弐拾参話『涙』


 私事ですが、エヴァのDVDを買いました。21~24話はビデオ版が手元にないと流石に説明に難儀する、という理由です。
 エヴァ終盤の「難解さ」は、製作側が意図したもの、というより、スケジュールの都合に因る部分、というのも少なからずあるのではないかと思います。
 なので、23話の前に22話ビデオ版について。ビデオ版は本編尺も5分くらい伸び、「アスカが何に執着していたのか」ということをはじめ、アスカの心理描写の掘り下げが大きく強化されています。そして、「加持さんが死んだことをアスカは知らない」という重要情報も明示されています。

 あと、ロンギヌスの槍についての補足。というより、エヴァンゲリオン世界の「月」について。
 エヴァ世界の「月」が、リリスの入った白き月の入れ物だったことは以前のべましたが。エヴァの初期構想では「月から来る第12使徒がラスボス」というものがあり、「ロンギヌスの槍が月に引き寄せられた」という形の名残かもしれません。
 新劇場版破のラストで渚カヲルが槍を持って月からやって来るのも、この辺を踏襲したもの、という可能性もあるんじゃないかなぁ。彼も最後の使者なわけですし。

 今回も必要に応じてビデオ版の内容を取り上げながら進行します。それでは23話『涙』、行ってみましょう。英語タイトルは『Rei Ⅲ』と直球です。レイ回の三回目とも読めるけど、三人目のレイとも読めますね……。
 だいぶ生活が荒んでるミサトさん。加持さんの伝言を何度も聞き直しながら部屋に籠っています。「鳴らない、電話」ってそれ20話前のサブタイトル。

 同居人が次々壊れてますが、シンジくんはまだ大丈夫っぽいです。
 アスカはセガ派。エヴァとセガの関係は語ると長くなるので今回は省略。新劇だとワン●ースワンっぽいゲームで遊んでましたが。ヒカリの家に籠っています。家に押しかけてゲームばかりしているアスカに特に何も言わないヒカリ。アスカとヒカリの友人関係、実際のところは「アスカの奇行をヒカリが上手いことスルーする」という感じで回っていたんじゃないですかね……。
 それでも、「アスカはよくやった」と言ってくれる人がいるのは微かな救いでしょう。

 リツコさんはリツコさんで、情緒不安定なところに実家の猫が死亡。

 ロンギヌスの槍の件でゼーレに追及されるゲンドウ。
 旧世紀版では宇宙から大質量物体を持ち帰る技術はないようです。新劇場版だとエヴァが宇宙まで行ったり来たりしてますが。
 計画の要であるロンギヌスの槍を雑に扱う件に至り、ゼーレも流石にゲンドウの叛意に気付きます。

 都合のいい時に使徒発生。今回はかなり巻きで話が進みます。ミサトさんのトンチキ作戦もなし。
 「使徒を肉眼で確認」、前に出てきたのはラーメン丼もといマトリエルの頃でしたね……。あの頃とは雰囲気が随分変わってますが。

 アスカのやる気ゲージはほぼゼロ。

 さて、今回の使徒、アルミサエルですが……形状モチーフは多分DNAとかの螺旋です。いよいよ終盤ともなると、使徒の形状も直球になってきます。人間のDNAも、普段は丸まった状態で格納されていますね。
 特徴としては、固定形態ではなく、侵食・融合能力を持つこと。そのためか、パターンオレンジ~青をいったりきたり。バルディエルのもととなった粘菌に近い感もありますが、何かに寄生せずとも動き回れる分凶悪です。
 そして、その能力を使ってとんでもないことをしでかします。

 侵食される零号機。しかもATフィールドごと。
 ……ということですが。そういえば、サキエル戦の初号機もATフィールドを侵食していました。似たような能力なのかもしれません。
 レイの救出でアスカのやる気が出る筈もなく。弐号機はリタイア。

 さて、ここで。使徒の目的を振り返ってみましょう。
 使徒の大半は、アダムではなくセントラルドグマのリリスを目指して侵攻しています。それは、リリスと接触し、人類をリセットするサードインパクトを引き起こすため……要するに、セカンドインパクトの人類と似たようなことをやり返そうとしているわけですが。
 サードインパクトの発動は、オリジナルのリリスではなく、エヴァ初号機でも可能、ということが後に判明します。そして、この場にあるのは……
①綾波レイ(リリスの魂)
②零号機(たぶんリリスベースのコピー)
③ATフィールドを貫通できる融合能力を持った使徒
 ということで、リリスの身体の複製と心が揃っており……アルミサエルくんから見ると、「おっ、サードインパクトここでできんじゃーん」という話になってしまうわけです。ヤバい
 少なくとも、レイと融合されたら色々詰むことは間違いないでしょう。

 融合を拒絶する綾波レイ。群体である人間と異なり、単独でしか存在しない使徒を「寂しい」と感じますが、「それはあなたの心よ」と言い返されます。レリエル戦のシンジくんと似たような状況で、使徒がレイの心を模倣している、という感じでしょうか。
 レイの心は悲しみに満ちている。そして、エントリープラグの中で涙を流すレイ。設定上はLCLが詰まってますが、今回は置いておきましょう。

(11/1追記)
 実はビデオ版だとこの後、「零号機から噴き出た何かが、今まで倒してきた使徒の複合体のようなカタチを取る」という重要なシーンがあります。文章だと説明しづらい。
 これは、恐らく「アルミサエルが今までの使徒の情報を引き継いでいる」ということでもあるのだと思われますが、断定は避けます。
 貞本版コミカライズでも再現されているので、気になる方はそちらかDVD等で確認を。
(追記ここまで)

 ゲンドウ、初号機の出撃を選択。「レイが敵に取られるのはヤバい」と判断し、極めてリスクのある判断をした、というところでしょうか。初号機が融合された場合、サードインパクトまっしぐらなので。
 ゲンドウのレイに対するスタンスは、ここに来ても割と謎の部分があります。

 使徒の攻撃をスルっとかわすシンジくん。パイロット技能が極まってます。このへん、ビデオ版だと戦闘シーンが増えており、使徒の一部がレイの形をとります。「レイと使徒が融合しかけている」という描写。
 レイの心について、ビデオ版の22話だと、普通にシンジとイチャついている(アスカ視点)シーンがあるので、流れがわかりやすいと思います。

 使徒を抑え込もうとし、脱出ではなく自爆を選択するレイ。ここの流れも、ビデオ版だと「初号機が侵食されかかっているので即座に使徒を殲滅しないといけない」という状況的にわかりやすいものとなっています。テレビ版だと、何故レイが自爆を選択したかが大変わかりづらいんですよね……。
 ビデオ版では、使徒をコアの中へ封じ込めるような形で抑え込み、その後自爆、という流れです。

 いまわの際、ゲンドウを見て涙を流すレイ。彼女が得ようとした「繋がり」の象徴なのでしょうか。
 そして、この後、ビデオ版では、零号機が天使の輪を纏った女性型の光る巨人となり爆発する、というシークエンス。恐らく、セカンドインパクト時のアダム同様、リリスとして覚醒しかかった、という描写ではないかと思われます。初号機やアダムと違い、羽根は出ていませんが。
(1/4追記)
 アルミサエルの狙いと合わせると、零号機の自爆でここまで破壊力が出たのは、劇場版26話の「サードインパクト直前に発生している物理的破壊」と同種のものだったからでは、と考えることもできます。単独で自爆できるなら、ゼルエル戦の時にやっていてもおかしくないですからね……。
(追記ここまで)
 零号機の自爆によって、第三新東京市は巨大なクレーターとなって消滅します。初号機は無事(シンジくんの心は無事じゃないけど)、零号機もエントリープラグは原型を留めて回収されているあたり、エヴァの頑丈さが伺えますね……。

 結局、シンジくんは目の前で母に似た少女が消える様を何もできず見守っていたわけで……。今後の精神が心配されます。
ミサト「生存者の救出、急いで」
リツコ「もし居たらの話ね」
 リツコさんもだいぶ限界のようです。

 ゼーレの会議。使徒の名前が出てきて「予定通りですよ」アピールしますが、どうなんでしょうね……。
 冬月を無事に返した、とか言ってますが、返したのは加持さんなので……。この秘密結社、わりとライブ感で駆動しています。
 「事実を知る者」とのことですが、何のことなのか。

 シンジくんは壊れかけ。そして、ここでミサトさん、女の武器を使う選択をします。
ミサト「寂しいはずなのに、女が怖いのかしら?」
 怖いのは女じゃなくてミサトさんだよ!!!!
 ミサトさんもだいぶ限界。誰もいいから寂しさを紛らわせたい。
 というところに、レイが生きていたという電話。まぁ、リスポンしてるわけですが。

 ビデオ版の追加シーンでは、この後、レイのリスポンに際し「レイは俺の絶望の産物でもある」と冬月が口にしています。このことから、ユイのサルベージ計画の指揮を執ったのは冬月なのかもしれません。

 ゲンドウは「三人目」の綾波レイには興味がない様子。レイ側も、ゲンドウの眼鏡をへし折ろうとしていたりと、ゲンドウへの思い入れは「二人目」のレイ固有のものだった、ということが強調されますね。
 さて……じゃあ、シンジくんへの思いはどうだったの? というの点については、後で取り上げます。

 レイのリスポンの時には記憶は引き継がないようですが、強く感じたこと等はぼんやりと痕跡がある模様。魂を引き継いでいるせいでしょうか。

 レイを要求した筈なのに、全裸のリツコさんが送り付けられて困惑気味のゼーレ。妙な品評会が始まりかけますが、「レイの代わりに差し出された」と聞いて反応を示すリツコ。

 加持さんの遺したチップを手に入れたミサトさん。加持さんは「真実の一部」と言っていますね。これを使って、ミサトさんはセントラルドグマに潜るようになります。

 返される赤木博士。「冬月とは違う」って冬月先生……。
 そういえば、劇場版で出てくる量産型エヴァはダミープラグを使用していますが、これはこの辺で赤木博士から流出したものなのかもしれませんね。
 ゼーレはエヴァを12体揃えたい、ということが明らかになります。これは、前回の考察通りなら「ゼーレのメンバーが12人だから」ということになりますね。「約束の日はその日となる」と言っていますが、結局、ゼーレはネルフ本部制圧に失敗し、なし崩し的に事を進める羽目になります。
 「我々人類の未来のために」と言っていますが、ここでの「人類」はゼーレを指すのでしょう。選民思想の秘密結社なので。

 シンジくんに「ガードを解いたから外に出られる」と連絡するリツコさん。寧ろ、普段どんな体制でガードされているのか気になりますが。
 少し前のシーンで、ゲンドウも「セカンド、サードは監視だけでいい」と言っていました。何かあったらゲンドウのところまで連絡が行く仕組みなんですかね。

 そして、リツコによってセントラルドグマに連行されるシンジくん。ミサトさんも合流しますが、ここでリツコの真意に気付けない辺り、ミサトさんも余裕がない。
 前にも言いましたが、ミサトさんが真実に迫ろうと思ったらリツコに吐かせるのが一番手っ取り早いので、遂にそれをやりだした、という話でもあります。

 レイの生まれ育った部屋。結構前にも言いましたが、要は、「綾波レイの部屋は本人の趣味でああなっている」というお話。
 エヴァの墓場。丹念にシンジくんのトラウマをほじくり返し、笑みを浮かべるリツコさん。
 ここのリツコさん、ゲンドウに捨てられた腹いせにシンジくんを虐めるモードに入っていると思われます。ヤバい。

 そして、レイが入っていることでおなじみの容器と、その周りのレイの肉体が浮かんだ水槽。
 レイの身体はレイのためのパーツ、魂の入れ物。そして、それを使って作られた疑似的な魂を宿したシステム、それがダミープラグという説明。

リツコ「人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だから罰が当たった。それが15年前。せっかく拾った神様も消えてしまったわ。でも今度は神様を自分たちで復活させようとしたの。それがアダム。そしてアダムから神様に似せて人間を作った。それがエヴァ」
 はい、この台詞、重要です。主観混じりではありますが、「セカンドインパクトは半ば人為的に起こった」ということを明確にしています。覚えておきましょう。そして、人間、というよりゼーレの目的が「神(アダム)の人為的な複製(エヴァ)を使い、神を手に入れること」であることまで明確にしています。
 正直、ここまで言っちゃうとゼーレに消される気もしますが、捨て鉢のリツコさんは気にしません。
 親友の決死の告白です。ミサトさんはこの台詞をよく覚えておいてください。

 ちなみに、ビデオ版では、台詞内容は同じなんですが映像に関係ありそうな絵や写真が沢山出てきます。中には、ユイの実験時のものもあり……そして、「リリスと繋がっているエヴァ初号機」という重要なカットもあります。
 レイの水槽の上にかかる感じなので、本編だと見づらいんですが……実は、お手軽に確認する方法があります。
 Youtubeにある、KING RECORDS公式の『残酷な天使のテーゼ』MUSIC VIDEOです。https://www.youtube.com/watch?v=o6wtDPVkKqI
 これの1:45から1:54。発掘されたアダム、初号機と繋がったリリス等、ビデオ版のこのシーンに使われていたイラストを綺麗な状態で見ることができます。必見です。

 ここでガフの部屋について。ヘブライ人の伝承にある「魂の在り処とされる部屋」です。世に生まれてくる人間は、ここで魂を詰め込まれてくる、という感じ。レイのボディは魂がないので空っぽ。
 ここだけ聞くとリツコさんの比喩なのですが、実は21話ビデオ版、セカンドインパクト時のビデオ映像に「ガフの扉が開くと同時に、熱滅却処理を開始!」というセリフがあったりします。どうも、アダムやリリスには「ガフの部屋」に相当する何らかの何かがある、と考えられるのです。
 次回出てくる渚カヲルがアダムの魂を宿しているのも、多分、そこから回収した、ということなのかもしれません。
 リツコさんにとっては「エヴァには人の魂が宿っているので人間」。だからエヴァは「人造人間エヴァンゲリオン」なわけです。そしてこれは、リツコさんがレイを人間扱いしない理由付けにもなっています。人間の形をしていても、入っているのがリリスの魂なので人間として扱わない。一貫しています。
 ……ん? ということは、リツコさんにとっては、MAGIは母親の魂が宿っている扱いなんです……? こ、怖い……

 そして、「憎いから壊す」とレイの身体を破壊し、ミサトさんに殺してくれると嬉しい、と頼むリツコさん。ミサトさんは敵味方の区別ができる鎌倉武士なので撃ちませんが。
ミサト「エヴァに取り憑かれた人の悲劇。私も……同じか」
 赤木母子が取り憑かれたのは、エヴァと言うより魔中年ゲンドウなんですが! 全然同じじゃないんですよね! 今、作品の核になる大事な話してたんですけど!!
 ミサトさんはどこまでもミサトさんです。まぁ、ミサトさんも父親に振り回されている点では近いと言えないこともないですがが。

 そして、次回予告。遂にヤツが出ます。いろいろ解説・考察してきましたが、エヴァの謎にも多分粗方片がつくと思います。乞うご期待。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?