いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン㉕第弐拾弐話『せめて、人間らしく』

 シン・エヴァンゲリオンの公開日が決まりましたね。来年1月……それまでには、本連載も完結したいところ。特報を見るだけでも「わかる」ポイントが沢山出てくるのですが……本編を見てから記事にするかもしれません。

 それでは22話『せめて、人間らしく』、行ってみましょう。
 今回はアスカの話。ということで、アスカの生い立ちや背景を振り返るところから。

 セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー。日本とドイツの血を引くクォーターですが、国籍はアメリカ。でもドイツのネルフ支部に長らく居たようです(ドイツ配属時代のミサトと面識がある)。搭乗機の弐号機もドイツ(ユーロ)製。
 幼い頃からエヴァのパイロット候補として育てられてきたようで、そのためエヴァに乗ることに誇りを持っています。ただ、使徒のキルスコアはあんまり高くない。単独撃破はサンダルフォンくらいでしょうか。特に、このところはいいとこナシ。シンクロ率でもシンジに抜かされ、精神に不調を抱えています。

 で、彼女が何故エヴァに乗る事に執着するのか。アスカの実の母親は、惣流・キョウコ・ツェッペリン博士。エヴァとの接触実験によって廃人となり、娘を娘と認識できなくなります。
 アスカは「母親に認めて貰いたい」という心からエヴァパイロットの道にのめり込むものの、最終的に、母親は娘と思い込んだ人形を道連れに自殺。そしてどうやら、アスカもその様子を目撃していたようです。このことから、アスカは一人で生きていこうと考え、エヴァに乗ることに己の存在意義を見出し、「人形」が苦手になります。
 ツェッペリン博士が亡くなったのは2005年。廃人になっていた期間を考えると、実験はユイと概ね同時期でしょうか。この時期、エヴァと人間の接触実験を盛んに行っていたことがわかります。犠牲者を出しているにも関わらず。なんで? というのは、ゼーレの計画にも関わるので、後ほど。
 アスカの母親の魂(の一部)は、初号機同様に弐号機の中に保存されており、だからこそアスカは弐号機のパイロットに選ばれたわけですが。アスカ本人はその事実を知りません。

 アスカの父親は、妻の入院中に女医さんといい感じに。お相手が同一人物かはわかりませんが、現在は再婚している様子。だいぶ家庭環境が複雑です。

 ちなみに、新劇場版のアスカはパペット人形を持ち歩いており、この辺の背景がだいぶ異なるものであることが暗示されています。性格もだいぶ素直(アスカ比)。苗字が違うのも理由がある、というお話。

 以上。というか、アスカの話は本筋にあんま関係ないので、今回これで終わりでもいいんですけど……

 本編をちょっと見ていきましょう。冒頭3分くらい(OP込)飛ばしまして。

 アスカのシンクロ率は下がる一方ですが、じゃあ、エヴァのシンクロ率ってそもそも何? というお話。以前、パイロットが「エヴァにやる気を出させる要員」では、という話をしましたが……エヴァ本体のやる気ゲージみたいなもの、と考えるのが実はしっくり来るのではなないでしょうか。
 つまり、アスカとエヴァ(に宿ってる母親)の関係性の問題よね、というお話でもあります。

 エヴァーを前に述解するミサトさん。
ミサト「生きるためには自分達を滅ぼそうとしたものをも利用する。それが人間なのね」
 この台詞は大事なので覚えておきましょう。まぁ、それ初号機なんでアダムベースじゃないんですけど……。
 エヴァを仇認定したり、この時期のミサトさん、加持さんを喪って迷走気味です。もっと元気に滅茶苦茶な作戦で使徒を倒して……。

 さて、エヴァ13号機までの建造が極秘裏に開始、とのことですが。このエヴァンゲリオンが極秘裏に建造されているのは、ぶっちゃけると「使徒の殲滅を目的としているわけではないから」です。

 というより、後に出てくる量産型、S2機関を持ちアダムの魂のコピーによって動かしているので……エヴァというよりほとんど人間の形してるだけの「人造使徒」なんですよね。だから、ああいう異形感あふれるデザインになってるんじゃないかと。弐号機とパーツの互換性はあるようですが。
 まぁ、そういうことなので多分コレ、使徒殲滅にはそもそも使えません。
 じゃあコレ、何?

 ヒントは人間の形をしていること。旧劇場版では人類補完計画の儀式のための部品として機能していますが……本来のゼーレの野望からは、別の使用目的が推察されます。
 以前書いた通り、ゼーレの目的は、アダム・カダモン……不老不死の神に近付くことですが。実は、まだその先があります。お馴染みエヴァンゲリオン2から引用。

"人類補完計画とは、不死を目指す計画である。エヴァは、ゼーレにとって重要な存在で、神への道を開く一つの鍵だった。なぜならそれが、神にもっとも近いアダムのコピーだったからである。まだ足りないものこそいくつかあるが、その部分さえどうにかすれば、人は神か、あるいはそれに限りなく近い存在を手に入れることが出来ると思われた。それは人の足りない部分を補完することで、「神への道」が開かれるというゼーレの教義でもある。
人は神を拾ったら、何をするか。
自分も神になろうと思ったのである。"
『エヴァンゲリオン2』 ゲーム内機密情報より

 つまり、ゼーレの最終的な目的とは、自分達も不老不死になることです。
 では、それをどうやって叶えるのか?
 答えは、既に出ています。S2機関を持ち、人の魂を宿した不滅の肉体。そう……エヴァンゲリオンです。

 要するに、エヴァ量産機と言うのは、コレ、多分ですが、ゼーレの新しい身体です。なので、本来は建造も委員会ではなく恐らくゼーレ主導。
 ざっくりまとめると、ゼーレはみんなでウルトラマンになろうとしていたということになりますね。13号機、というのは、ゼーレの人数とも概ね符合します(たまに15人になるけど)。

 ということで。ユイやキョウコ博士をはじめとする人間とエヴァの接触実験が行われていたのは、ゼーレがエヴァの肉体を得るために行われていた実験、という意味合いが強いでしょう。
 そして、さっきもミサトさんが言ってた「使徒(アダム)の力を使ってまで生き延びる」が、全く別の文脈が乗るんですよね。
 合ってるんだけど間違ってる。もはやミサトさん、ミスリードの女王と言っても過言ではないでしょう。

 ……ところで、ゼーレの目指す不滅の存在、そのための身体であるアダムや量産型エヴァですが。唯一弱点があります。それは第一始祖民族が作り出したアダム用制御装置、『ロンギヌスの槍』です。前回、ゲンドウ達がゼーレの計画を阻む立場にある、という話になったわけですが……そうなると槍の存在はキーアイテムになります。
 それをどうするのか? というのが今回のお話。

 本編に戻りましょう。
 ミサト家のなごやかな食卓(なごやかではない)。ギスギスしている、というのはわかっても、それをどうにかしようとはしないミサトさん。この辺が、家族ごっこのごっこたる所以でもありましょう。
 が、ここでアスカに電話。

 会話の内容はわかりませんが注目すべきはアスカは加持さんが死んだのを知らないこと(シンジくんは知ってる)。そして考えるべきは、「何でわざわざ国際電話がかかってきたの?」というお話。しかも、アスカが調子を崩してる時期に。
 シンジの対応からして、そう頻繁にかかってくるわけではないでしょう。
 まぁ、ミサトさん(おとな)もやることやってるんだろうな、というお話です。元ドイツ支部だからその辺の伝手もありそうですし。アスカに電話に出るよう仕向けましたし。
 ただ、「家族と話せば元気になるだろう」的な考えに至ってしまうのがミサトさんというか……。

 シンジくんもアスカの煽りに突っかかっていかなくなるあたり、関係性が変わっているというか。アスカはやっぱりその辺が不満なようですが。
 長電話の間、ずっとアスカを見てるシンジくん。正直ちょっとどうかと思うぞ。
 しかし、表層的な不和はさておき、家族のことを話せるくらいには心を許している、というお話。
アスカ「アンタなんかに同情されたらこの私もおしまいだわ!」
 この後本当におしまいになります。

 ミサトとリツコの会話。
 リツコが目を背けたのは「猫で寂しさを紛らわせてたわけではないから」でしょう。むしろ紛らわせてなかったというか。実家の猫との距離感も複雑だったようですし。気に掛けてはいたけど一方通行。ゲンドウとの不倫(?)関係もそんな感じ。

 アスカ、子供というより家族に対する苦手意識が見え隠れします。
 そしてレイとの遭遇。苦手だけど自分から避けるのも負けたみたいで嫌、という感じなのか、一緒のエレベーターに乗り込みます。
レイ「心を開かなければ、エヴァは動かないわ」
 レイのアドバイス。マイペースさが限界突破しているだけで、アドバイスとかもする子です。エヴァに心がある、というのはアスカ以外皆さんご存知なわけですが。このアドバイスの主語は何なのさ? とか、その辺は次回にでも。
 明日は雪かしらね、とのことですが、セカンドインパクト後の日本は常夏なので雪は降りません。ドイツだと降るのでしょうか。

 シンジが戦えば自分達は何もしなくていい、と拗ねるアスカ。実際には、アスカがシンジを助けた場面もあったわけですが。
アスカ「シンジだけがいればいいのよ」
 ポロっと本音めいたものをこぼします。この辺、劇場版の「あんたが全部私のものにならないなら、私、何もいらない」に繋がるわけですが。
 これを、よりによってレイにぶちまけてしまうあたりが、もう……。
 とはいえ、シンジだけでなくレイとも本音をぶつけられるくらいには信頼関係を築いていた、という話でもあります。アスカもレイも多分わかってない気はしますが。

 しかし、それでも。アスカにとってのレイの認識は「人形みたい」というところで止まっています。トラウマと紐付いているから仕方ない部分もありますが、ここまで丁寧にエヴァを見てきた皆さんなら、レイがどういう人間なのかおわかりかと思います(忘れている方は、前の記事を読み返してね!)。
 レイの回答を翻訳すると、レイがエヴァに乗るのは絆のため(これもアスカは知りません)で、自分の命より大切なもの、人との繋がりがあって、ゲンドウを信じているからこそ、「死ねと命令されれば死ぬ(覚悟がある)」という回答だと思われるわけです。人形、というより武人キャラじゃないかなこの人。ドイツ人に武士道の理解は難しかったようですが。

アスカ「みんなみんな大嫌い!」
 この台詞、次の話では「でも一番嫌いなのは私」と続きます。
 自分を肯定できなかった嘗てのシンジくんと同じ問題をアスカも抱えているわけですね。

 ということで、今回の話はアスカが既に得ていた関係性に気付かず、自分を追い詰めていくお話です。仕舞いには、エヴァに向かってちゃんと動け、と声をかけに行く始末。ゲンドウみたいなことしてるな……
アスカ「なんで兵器に心なんて要るのよ。邪魔なだけなのに」
 兵器じゃないから心があるわけですが。「エヴァに心がある」ということはアスカも認めていることがわかる台詞です。

 さて。少し横道にそれる話。最初の頃の記事で触れましたが、実はエヴァは「ビデオ版」があります。初期のLD等はこの「ビデオ版」で、前回……21話あたりから本編との差が大きくなっているのです。現在では入手・視聴ともに困難。一部シーンは劇場版(総集編のほう)に引き継がれています。
 なるべく今回の連載では触れないようにしているのですが、今回だと、アスカがより直接的にレイ(と仲良くするシンジ)に嫉妬する様子が出てきたりと、恋愛面のわかりやすさがかなり違います。アスカの印象は、どのエディションを見るかで変わってくるかもしれません。
(実は、海外版だとビデオ版収録のDVDが出てます。リージョンコード違うので、入手出来ても見るのは少し大変ですが)
※訂正
21〜24話については、2003年版以降のDVD、ブルーレイにはビデオ版が含まれています。勘違いしてました。


 閑話休題したところで使徒、襲来。今回の使徒は衛星軌道に出てきたアラエルくんです。精神攻撃しかしてないので目的・能力ともに不明点が多いです。
 余裕をなくしたアスカは独断で発進。この辺、レイへの対抗意識がある、と考えるとスッと嵌ると思います。
 ミサトさん、アスカをエヴァから降ろすことも考えに入れていることがわかりますが……結局、旧劇場版でもこの決断が実行されない辺りに甘さがあります。初号機は凍結中。

 アスカが楽しく戦えてた期間って、「シンジと共闘してた期間」とほぼイコールでもあるんですよね……。

 アラエルの心理攻撃。以前から出ていた、「使徒が人間の心に興味を持っている」という推測が大当たりします。ATフィールドを用いて相手の精神に干渉する、かなり特殊な攻撃です。
 特筆すべき点として、射程がメチャメチャ長い。そして同時に、「人間が動かしている」というエヴァの脆弱性を突いているわけで、こんな使徒正攻法では倒せません。
 というか、ここはラミエルの初見殺し同様、引き摺ってでも弐号機を退かせる場面だと思うんですが……。ミサトさんが余計なこと言ったせいで、引っ込みがつかなくなってる感もあります。というか、最悪、汚染された弐号機が敵に回る可能性もあるわけで、あまりにも悠長です。

 アスカのフラッシュバック、目につく文字は「Tod(死)」「Nein(いや)」 など。この辺もエディションでの違い等小ネタがあるんですが……ネットフリックスだとコマ送りができないので省略。
 アスカは撤退を拒否。

 流石にミサトさん達も無策ではなく、ラミエル戦で使用した陽電子砲を持ち出してきます。ミサトさん、戦自に返してなかったの……?
 まぁ、ヤシマ作戦のような停電もなく使用できているあたり、ネルフでコピー・改良した可能性もありますが。それでも尚、出力不足。

 アスカの受難は継続。ということで、「実の母親が自分(と思ってる人形)と心中するところを見てしまった」というのがアスカのトラウマの核の様子。英語タイトル『Don't be』は「死んでちょうだい」に掛かってるのかなぁ……。余談ですが、テレビ最終回でかかるOPアレンジのBGMタイトルが『Good, or Don't Be』なんですよね。
 トラウマを引き摺り出され、蹲るしかないアスカ。

 シンジの出撃を拒否するゲンドウ、冬月。S2機関を搭載した初号機が侵食され暴走した場合、外から止める手段ありませんからね……
 ロンギヌスの槍使用を決断するゲンドウ。
ミサト「アダムとエヴァの接触は、サードインパクトを引き起こす可能性が!」
 ここでミサトさん、見当違いの発言を繰り出します。地下の巨人はリリスだし、零号機のベースも多分リリスです。そもそも、アダムベースのエヴァがアダムと接触しても、何も起きないと思われます。
 が、多分、ここで見当違いの心配をしたことで、ゲンドウ達は「ミサトさんは何も知らない」という判断をした可能性も高いです。加持さんの気遣いが活きた瞬間でもあります。
 セカンドインパクトの真相は、前回前々回の連載参照のこと。

 さて、ここで前半に書いたゼーレの野望へのスタンスについて。ゲンドウの台詞をもとに考えてみましょう。
 委員会、というよりもゼーレは自分達の肉体であるエヴァシリーズの量産を開始。そして、その思惑を物理的に挫けるほぼ唯一の手段がロンギヌスの槍です。エヴァシリーズはアダムベースなので、このロンギヌスの槍(アダム用)があれば、使徒同様、恐らくほぼ確実に葬ることができます。
 そのために必要なロンギヌスの槍を確保し続ける口実が「使徒への使用」というお話なのではないかと。

 リリスはしばらく槍ホルダーになっていたわけですが、アダム用ロンギヌスの槍でもちょっとは効いていたらしく、槍を抜いた時点で失った下半身が生えています。

 零号機の投擲したロンギヌスの槍は、使徒目掛けて飛んでいき、衛星軌道へ。これは、投擲のパワーというより槍そのものが自分の意志で使徒に向かって飛んで行った、というお話と思われます。
 つまり、人類に回収できなくても、自力で戻って来るのは可です。
 自分にもゼーレにも手出しできない場所に行った、という時点でゲンドウ的には成功でしょうか?

 アスカは今回の件で精神に大きく傷を負います。シンジに掛けられた言葉も払いのけるわけですが、「レイに助けられた」というのが堪えている様子。この辺も、ビデオ版とで見え方が変わると思われます。

 次回予告も絵コンテになり、雲行き怪しいエヴァンゲリオン。止め絵シーンが多かったり、進行がギリギリであることが透けて見えますが、これからもっとギリギリになります。次回は久々のレイ回。これまたビデオ版との差が大きいので、どうしようか考え中です。
 ではまた次回。 

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