いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン⑦第伍話『レイ、心の向こうに』

 第伍話「レイ、心の向こうに」。英語タイトルだと「Rei Ⅰ」となっている、名実ともに綾波レイのメイン回です。ちなみにⅢまであります。

 ネルフ本部・第二実験場。22日前。エヴァ零号機起動実験。
 さて。エヴァ名物の回想シーンが冒頭から入るわけですが、ちょっと時系列を整理しましょう。
 第三使徒が現れ、シンジくんが呼び出される。色々あって、その三週間後に第四使徒襲来。その後、シンジくんが家出して戻ってきて、現在に至る。
 ……つまりこれ、最大でもシンジくんの来る数日前、下手すると前日とかの出来事です。

 そしてなんと、この時点のゲンドウ。ヒゲグラサンではありません。ヒゲメガネです。つまりコイツ、息子に会うためにイメチェンしたことがわかります。わざわざサングラス(色眼鏡)をかける辺り、なんとなくゲンドウがシンジを直視しづらいことが伝わります。

ゲンドウ「レイ!」
 珍しく、本気で驚愕した表情。この辺の解釈はなかなか割れるところではありますが、ひとまず保留としましょう。
 エントリープラグ内に身を乗り出すゲンドウ。この構図は、エヴァを通して使われる象徴的な構図の一つです。
 そして、LCLに浸かったことで歪み、罅が入るメガネ……この液体、ほんと大丈夫なんです?

 綾波レイのプロフィール解説。
 ここで敢えてネタバラシをすると、綾波レイはシンジの母親、碇ユイが初号機(とリリス)との接触実験でいなくなった後、サルベージによって得られた存在です。ユイとリリスをミックスした体に、リリスの魂が入っています(この辺の詳細はエヴァンゲリオン2を参照)。
 要は、綾波レイの外見はシンジくんの母親そのものだけど、内面的には別の存在、ということになるわけです。この情報の有無で、以後の見方ががらりと変わってしまいます。ちなみに、ユイの写真はゲンドウが根こそぎ処分し、シンジくんは母親の顔をはっきりとは覚えていません。

 零号機の暴走は「操縦者の精神的不安定」が原因とのリツコの分析。覚えておきましょう。
リツコ「でも……まさか」
リツコ「いえ、そんな筈はないわ」
 ……えーと、これについて解説すると、「リツコはレイに死ぬほど恨まれてる」と自分で思っています。が、レイからのリアクションは特に無いので、多分思い過ごしなんじゃないかな……

シンジ「これが……僕たちの敵なのか」
 やさぐれモード終了。やっぱり、前話の態度はわざとだった疑惑が強まります。
 使徒の動力源の話。後に明かされますが、S2機関と呼ばれる一種の永久機関に近い存在であり、その理論の提唱者は葛城博士……ミサトさんのお父さんです(エヴァ2等参照)。この辺の話は、後ですることになるので今は省略。
 余談ですが、このS2機関が後に四号機に搭載され、北米支部を吹き飛ばした可能性が高いです。

リツコ「信号の配置と座標が(以下略)」
 要するに、使徒が出るたびに「パターン青!」とか言ってるヤツのことです。旧劇などで、人間も「パターン青」に限りなく近い存在であることが明らかになります。
 ちなみに99.9%という数字についてですが、チンパンジーと人間の遺伝子の一致が99%。人間同士の他人の間で99.9%くらいだそうです。

 父さんのヤケドの跡に興味を示すシンジくん。そして、相変わらずのミサトさん。前回、ヤマアラシのジレンマで反省してたのでは……? シンジくんも怯えています。
 レイの実験の顛末について説明。シンジくんとしては、まだ父さんのことを解りたい、と思っていると思われるので、このエピソードは希望になった筈です。その良し悪しについては、後ほど。

 プールの綾波レイ。綾波レイと水、というモチーフは、今後もあちこちで出てきます。エンディングでも水中でクルクルしてますし。
 男子は女子のことを見てるけど、女子の方も男子の方をしっかり見てるよ、という描写。
 トウジからシンジへの呼び方は「センセ」で定着。年の割に大人びてると、こういうあだ名つけられることありますよね。クラスに1人はいる。

 レイを見ているシンジ。これも先述した通りのレイの出自から、「異性として気になってる」というより、「母親の面影を見出して気になってる」という方が濃厚そうです。
トウジ「ホンマは性格悪いんとちゃうか?」
 一見した描写と本来の意図(と思われるもの)が逆方向向いてることが少なくないエヴァンゲリオンですが、綾波レイ周辺については特にこれが顕著です。まず①「外から見た綾波レイのイメージ」があり、それとは別に②「レイに近付いたシンジ(視聴者)が受けるレイのイメージ」があり、それと別に③「レイ本人」が居る、という感じ。今回は①ですね。
シンジ「ほとんど口、きかないから」
 お気づきの人もいるでしょうが、前話、レイは一言も喋ってません。メインヒロインなのに、台詞も出番もなし。視聴者もレイがなんだかわからない……。

 ゲンドウに微笑みを向けるレイを凝視するシンジくん。
 これ、シンジくんにとっては「自分がこうなりたい」光景だと思うんですよね。この瞬間、漠然とした母親似の少女への興味から、ゲンドウと親しい存在として興味のレベルがアップデートされたものと思われます。そして、先程のゲンドウの感動エピソードも相まって、シンジくんはレイとの距離を詰めていくことになります。ヤマアラシのジレンマって知ってる?
 ……あと、「レイがこの時点で笑ってる」のは、割と重要なので、覚えておいてください。

 地獄のミサトさん食事当番。レトルトを原料に、しかもカレーを不味くするのがミサトさんの飯クオリティ。
 カレーと缶ビールを出されるペンペン。これ、動物虐待では?
リツコ「やっぱり引っ越しなさい」
 正論。
ミサト「シンジくん本チャンのセキュリティカード貰ったばっかりなんだから」
 単に発行に時間がかかっただけかもしれないですが、使徒を二体倒してようやくゲンドウがシンジがネルフに居ること(利用価値)を認めた、とみることもできます。サンプル回収シーンではご満悦でしたし。
 リツコがレイのカードを渡す任務をシンジくんに頼みますが、これも多分、リツコがレイを苦手としている(恨まれてると思ってる)ことによる描写と思われます。あの女のハウスには行きたくないらしい。

 ミサトさんもシンジくんもからかいますが、ここでもレイへの見方を誘導する台詞がこれでもかと仕掛けられています。
シンジ「不器用って何がですか?」
リツコ「生きることが」
 さて、そろそろお忘れかもしれませんが、この記事でのエヴァの基本原則を思い返しましょう。「他人への評価は自己言及」。というわけで、生きることに不器用なのは誰なのさ? というお話。
 レイは本当に不器用なのか? ゲンドウのアレさは不器用で済ませていいのか? というのは今後の課題です。

 さて、いよいよ出ました。あの女のハウスもとい、レイのアパート。
 これも、ぶっちゃけるとミスリードの塊です。第三新東京市建設時の作業員用宿舎を改造した物件。コンクリ打ちっぱなし風の殺風景な部屋。機能重視の無機質な空間……これが彼女の人間性……と、一見思ってしまうところですが
 第23話において、シンジたちは綾波レイの育った部屋を目にします。それはまさしく、このアパートと同じような空間でした。
リツコ「レイの深層心理を構成する光と水は、ここのイメージが強く残っているのね」
 ……これを意訳すると、「こういうところで育ったからこういう感じの部屋が落ち着く」という話になると思います。つまり、何が言いたいかといいますと。レイのアパートは決して機能重視の殺風景な部屋ではなく、こだわりの物件である可能性が高いわけです。単に育った環境のせいで趣味がおかしいだけ。こんだけ派手なビフォー・アフターやるの、こんな物件でもないと許可下りなかったんじゃないかな……。
 散らばった服や血だらけの包帯。無造作に見えますが、まぁ、一人暮らしなんてこんなもんですよね。さっき描かれた通り、破綻した共同生活を送っているシンジとミサトに対して、レイはまがりなりにも独り暮らしをしています。ここ重要。

 レイ登場。一瞬ムっとし、シンジくんのかけた眼鏡を回収しに行きます。
 そして、部屋に無断で侵入し、私物を漁り、家主を押し倒す。完全に刑事告訴されるレベルの乱行をしでかすシンジくん。でも「どいてくれる?」で済ますレイ。
 いわゆるラッキースケベの文脈を逆手に取った無感情キャラアピールに見えますが、さっき笑ってるシーンがあった通りレイは感情や表情がないわけではなく、後に「こんな時どんな顔をすればいいのか分からないの」と本人が言っているように、未知の状況に表情がブランク状態になるだけのようにも見えます。
 そりゃ、同級生兼同僚が知らんうちに部屋に侵入して私物漁った上に押し倒して来たら、どんな顔していいかわからんわ!!! 「……どいてくれる」までにフリーズしてますし。

 シンジの前で堂々と着替え始める綾波さん。シンジくんの弁明を聞き流す綾波さん。ついでにカードのことも聞き逃す綾波さん。
 そして、あんな乱行をしでかしたのに、部屋に居座り、あまつさえレイの後をつけるシンジくん。前話で逃げ出してたのに。
 どっちも、なんというか図太いですね……!
シンジ「今度は、上手く行くといいね!」
 シレっと距離を詰めてくるシンジ。こいつ、ヤバい……! ヤマアラシのジレンマって知ってる……?(二回目)
 好感度云々以前に、レイは警察に通報を検討した方がいいと思います。

 そして。
シンジ「ねえ、綾波は恐くないの? またあの零号機に乗るのが」
(中略)
レイ「あなた、碇司令の子供でしょ? 信じられないの、お父さんのことが」
シンジ「当たり前だよ! あんな父親なんて」
 ビンタ。シンジの行動をここまで振り返ると、ビンタやむなしと言えます。が、ここでなんでレイがビンタしたのか? というのは次の話と関係する部分のため、ここで詳細を語るのは避けますが、どうも「ゲンドウを馬鹿にしたから」というより「エヴァに乗ることを馬鹿にしたから」という話っぽいです。普通に読むと「ゲンドウと親しいからゲンドウを馬鹿にされて怒った」なんですけどね……。
 ……しかし、そうした思惑とは無関係に、シンジくんは前話で見た通り「叱られるのが自分への興味の証」という度し難い価値観の人間なので、おそらくここで完全に何かが噛み合ってしまいます。
 ヤバい。

 プラグスーツへの着替え。ゲンドウの台詞のリフレイン……なんですが、口調が全然違います。こちらでは落ち着いた言い方に。そして、リツコの台詞。これは完全に「レイが聞いた内容」じゃなく「シンジが聞いた話」なんですよね。その場にレイはいない。そして、微笑むレイ。でも、ゲンドウのほのぼのエピソードの時は真顔に見えます。この辺も次の話で。
 成功する起動実験。リツコの言葉が正しいなら(重要)、レイの心の問題が解決したのでエヴァとシンクロできるようになった、と見ることができます。が。
 一体、この話で何が解決したんだ……!?

 誰も見ていないエントリープラグの中で、ほっとした表情をするレイ。
 今まで緊張していたのか、それとも感情を他の人間に見せないようにしているのか。どちらにせよ、こいつが無表情ヒロインとか嘘やろ、というお話。

 そして、出現する第五の使徒ラミエル。第五の使徒は、第三使徒の能力を強化したビーム、第四使徒の飛行能力、そして本部への侵攻能力を備えたガチの使徒です。本気でリリスとの接触、人類のリセットを狙いに来ています。新劇第一作ではラスボスでもあります。
ミサト「だめ、避けて!」
 いつもの無茶ぶり。加粒子砲で焼かれるシンジくん。今話での振る舞いを考えるとやむなし。予告でも「甘えたこと言ってんじゃないよ」とフルボッコされるシンジくん。この辺の予告、登場人物に辛辣じゃありません?
 さて次回、ネルフはガチ仕様の使徒に勝てるのか? そしてシンジくんはいろいろと大丈夫なのか?いつレイは警察に駆け込むのか? といったところで、次回に続きます。

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