いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン㉓第弐拾壱話『ネルフ、誕生』Part.1

 21話「ネルフ、誕生」。英語タイトルは"He was aware that he was still a child."由来は本編中の台詞。

 シンジくん達置いてきぼり、大人たちにフォーカスが当たり、諸々が、明かされるようで明かされない回です。しかしそれではなんなので、今回は本筋と無関係の部分も合わせてガッツリ掘り下げていこうと思います。
 ガッツリ掘り下げるので、今回は連載初の二回分割となります。

 まずは本編。加持さんの電話、最後に出てくる留守電はここから吹き込まれたものだとわかります。留守電、「たった数分の録音、しかも編集なしでメッセージを伝える」というのも今では失われつつある慣習という感がありますね。

 今更ですが、ネルフのマーク。人間の『知恵の実』と関わりの深いイチジクの葉、周りの文字は「神は天にしろしめす、世はすべてこともなし」。『ピッパが通る』という詩劇のうち、「春の朝」という詩の一節。『赤毛のアン』にも引用されていました。
 エヴァだと重苦しいモチーフの一部として用いられていますが、原典では何気ない日々への感謝、赤毛のアンでは明日への希望を感じさせるフレーズではないでしょうか。
 この辺、ユイの思想に通じるところ(「太陽と月と地球がある限り~」)もあるので、想像ですがもしかすると文言のチョイスは彼女のセンスなのかもしれません。

 そんなこんなで、冬月副司令が拉致。犯人は無論加持さんです。
 ゲンドウがぜんぜん言うこと聞かないので、ゼーレが仕組んだことの様子。「ゲンドウ抜きで冬月がゼーレと接触する」という事実でゲンドウを揺さぶろうとしたアクションという感もあります。多分ゲンドウは気にしないけど。

 そして、お馴染みのモノリス、遂に登場。キール議長以外声にフィルタかかってます。メンバ―は不明。
 このモノリス、今更言うまでもないですが、超名作SF『2001年宇宙の旅』において生命の進化を促した石板、モノリスが元ネタと思われます。新劇場版編(できれば)で触れますが、新劇の方のゼーレはオマージュ元の色が濃いですね。
 旧劇のゼーレは、前に触れたように宗教団体であり、その教義は不滅の存在(神的なもの)に近付くこと。よって、「神に近い存在となったエヴァンゲリオン初号機がゲンドウの手に入った」ということに危機感を抱いています。
 なので「我々は、新たな神を作るつもりはないのだ」というのは、「(思い通りにならぬ)新たな神」というくらいの意味合いでしょう。ゼーレの本来の計画としてはアダム・リリスを利用する感じだったようなので、旧来のアダム・リリスと対比したエヴァ初号機を「新たな神」と呼んでいるのかもしれません。結局はアダム・リリスがゲンドウの手に落ちたので、エヴァ初号機を利用する形になるのですが。お前んとこの管理ガバガバやんけ。

 ゼーレの咎は後で追及するとして、この状況で堂々と回想に入れる冬月先生も大物です。
 冬月コウゾウの経歴について。セカンドインパクト前は京都大学で教鞭をとっており、セカンドインパクト後はその真相を探るためゲンドウについて調べる中で関わりを深め、ゲヒルン(後のネルフ)の副所長となります。趣味は将棋。
 ところでこの回想、登場人物の顔がほぼ出てきません。当時のボスである教授すら顔が半分しか出てこない。顔が出てくるのはユイとゲンドウ。物語の演出という部分もありますが、この二人の存在が冬月の人生において如何に大きかったか、というお話。

 大学では悠々自適な研究生活……というわけでもなく、付き合いの悪さから苦言を呈されることも。生徒から声がかかるあたり、人望はあるようですが。象牙の塔でも人間関係は大事、どころか、閉じた世界だからこそ人間関係が重要になることってありますよね。
 ここ出てくる「碇君」はゲンドウと見せかけてユイ。「形而上生物学」は冬月の専攻分野。どういう学問なのかはよくわかりませんが、想像すると、分析哲学等の哲学的手法を生物分野に適応しようとする学問、という感じでしょうか。生物工学の話も出てくるあたり、現実世界における生物哲学(Philosophy of biology)に近いのかもしれません。(説明すると長くなるからググって……)

 碇ユイは当時、大学の学生。この時点(1999年)でゲンドウと出会っているかは不明ですが、研究ではなく家庭に入ることも考えている様子。この辺、「冬月視点」なので巧妙に核心の情報が出てきません。

 ゼーレは神に近い存在になってしまった初号機について延々と似たような話をしている模様。
ゼーレ「碇ゲンドウ。信用に足る人物かな?」
 信用に足る訳ないだろ!!!!!
 既に補完計画のトリガーとなるリリス、アダム、初号機を全部押さえ、ゼーレの意志を軽んじる態度をとっているのに、まだこんなことを言っています。前も言いましたが、ゼーレは割とライブ感で動いている節があります。

 この時のゲンドウ、人間関係を重視しない冬月の耳に入ってるということから、多分学生なんだとは思いますが……キラキラキャンパスライフを送ってるゲンドウ、人類の想像力の限界に挑戦することになりそう。
 警察からの連絡で冬月のテンションが妙に上がっているあたり、冬月の側もなんか気に掛けてた節がありますね。
 引き取りに行ってみたら意外と安っぽい男だったので幻滅する冬月。
 ゲンドウの言う「期待した通りの人」、何を指しているのか。推測ですが、「人間と付き合い倦んでいるのに他者との触れあいを求める人物」というところでしょうか? 社会的なステータスや専門知識なら直接会わなくてもある程度わかるでしょうし、人間性にまつわる話のはず。
冬月「そう。彼の第一印象は嫌な男だった」
 BLの導入じゃん(偏見)。

 そして、ユイと二人でハイキングに来て、お付き合いの報告を聞かされる冬月。冷静になると、これどういうシチュエーションなんです……?「紅葉狩り行かない?」って冬月が誘ったの……?
 ユイ曰く、ゲンドウは「かわいい人」とのこと。また、「あの人に紹介したこと」と言ってるので、冬月とゲンドウを引き合わせたのもユイであることがわかります。
冬月「面白い男であることは認めるよ」
 これって、いわゆる「おもしーれやつ」、じゃん……!

 さて。話が明後日に逸れそうなので、ユイの背景について振り返りましょう。彼女はゼーレ有力者の家の出身です。そのため、ゼーレの教義・計画についても触れる立場にありました(エヴァンゲリオン2より)。冬月に目をつけたのも、その辺の事情があるのでしょう。
 ゲンドウはそれを目当てにユイに近付いた、ということですが……ユイも利用されるような人間はないような感もあり。一種の共犯関係、と考えるのが自然かもしれません。
 問題なのは、彼女が、というより彼女とゲンドウが何を目指していたのか、ゲンドウとの間に何があったのか、です。

 冬月先生、あっさりとユイのバックボーンやゼーレの名前に辿り着いてますが、普通ならここまで行くだけで一苦労の筈です。地味にすごい。
 2001年。「21世紀最初の年は地獄しかなかった」ということですが、セカンドインパクトに起因した混乱によって戦争が勃発。日本も東京に新型爆弾を投下され、長野の第二東京に遷都を余儀なくされています。

 そして、2002年、南極。「冬月教授」と呼ばれているので、この3年の間に出世したようです。セカンドインパクトの調査隊に参加。ゲンドウも結婚。ユイが冬月のファン、というのは覚えておきましょう。あと、ゲンドウがセカンドインパクト前日に南極を離れている点。
 セカンドインパクト調査隊はゼーレの息がかかっています。恐らくですが、ゲンドウが以前獲得したアダムのサンプル、そして渚カヲル(アダム)の魂も、この調査隊で回収したものと思われます。ロンギヌスの槍だけは回収に時間がかかったようですが。
 思ったことをすぐ口にしてしまうのが冬月の悪癖です。人づきあいは普通にできるので、ゲンドウに対してだけかもしれませんが。
 しれっと調査に連行されているミサトさん。この頃は心身ともにズタボロです。ゼーレとしてはアダムを回収したい筈なので、目撃者の彼女も連れて来たかった、という辺りでしょうか?

 光の巨人、アダム。メタ的な元ネタはウルトラマンのようですが。
 そして、セカンドインパクト真相隠蔽の陰には、ゲンドウやキール議長の影が見え隠れしています。ユイとの結婚やセカンドインパクトの隠蔽工作の協力によって、ゲンドウは組織内での立ち位置を上げていったのでしょう。

 さて、2003年。後のネルフ、人工進化研究所。この時点で冬月はセカンドインパクトのあらましを掴んでいる様子。さっくり流してますが、「真相を知りたくなった」でアッサリここまで行けてしまう辺り、冬月の調査能力は滅茶苦茶高いです。
 アダムの存在を隠蔽し、セカンドインパクトが起きることを知っていたかのような挙動を取っていたゲンドウ。
 建設中のネルフ本部。この時点で計画はアダムの眷属である使徒の襲来を見越して動いていることがわかりますね。
 赤木ナオコ博士はMAGIの構築中。高校生のリツコもいますが。エヴァ世界の科学者、現場に子供を連れてき過ぎ!!!
 エヴァのプロトタイプ。零号機……の失敗作でしょうか。脊椎と腕から作り始めているのが面白い。さて、ここで冬月も「神のプロトタイプか」と言っていますが、正解です。
 エヴァンゲリオンは元々、アダムの復活、その過程の複製としての役割が大きく、戦闘兵器としての役割は二の次なわけですね。
ゲンドウ「冬月。俺と一緒に人類の新たな歴史を作らないか……」
 冬月がどうしてこの誘いに乗ったかは描かれません。

 リツコの回想。ゲンドウは「調査隊の生き残り」としてはカウントされていないっぽいですね。親子仲は良好に見えます。

 そして、2004年。ユイの初号機とのシンクロ実験。この実験でユイは初号機に取り込まれるわけですが……果たして、この結果がどこまで事故だったのか、それとも予定通りのものだったのか? というのは、かなり難しいところです。多分、ユイの予定通りではあるのですが、ゲンドウは知らされていない、と考えられます。
 ユイの最終的な目的は、不滅の存在となって人類の生きた証を遺すことですが。その目的に至ったのは、シンジが生まれて間もない時の様子(旧劇の冬月との会話)。しかし、「明るい未来を見せておきたいんです」で息子に自分が消える様子を見せるのはどうなん!? シンジのトラウマになるわ!!! ということで、もしこれが思惑通りなら、ユイはやべーやつであることがわかります。よくこの両親から真人間に育ったなシンジくん……。

 あと、この時、ユイがシンクロしたのは「エヴァ初号機」なわけですが。そもそも、エヴァ初号機はリリスの下半身を株分けして作られた機体です。そして、ユイが溶けた後のサルベージでは、リリスの魂を含有したレイがサルベージされています。
 つまり。ユイがシンクロしていたのは、初号機というよりもリリスそのものであることが伺えるわけです。ネルフ内でもリリスの存在はかなりの機密事項のようなので、カバーストーリー的に「エヴァとのシンクロ」という扱いにしたのでは、と邪推することもできます。
 思惑通りに成功したら、ユイとリリスが同化していたか、ユイがリリスの身体を手に入れていた、ということになるのでしょうか。
 南極のセカンドインパクト時もアダムへの遺伝子ダイブ実験が行われていたようなので、多分コレ、滅茶苦茶危険な行為です。やっぱり、ユイはやべーやつじゃねーか!!!

 さて。ではこの時、どうしてサードインパクトが「起きなかった」のか? というのは、セカンドインパクトの真相、そしてエヴァ世界の真実に至る上で、非常に重要な疑問です。ゼーレの計画は、以前記述した通り、死海文書……アダム・リリスや槍の運用マニュアルに基づいて行われています。なのに何故、アダム相手では大爆発し、リリス相手では爆発しなかったのか?
 せっかくのタイミングです。ここで、「セカンドインパクトの真相」を整理してしまいましょう。

 ここで、以前のノートを参照します。
 以前記した通り、長い時の中でゼーレは一度、その教義本来の意味を忘れています。つまり、「現代において発見されたもの」を死海文書と対照させて名前を付け直している、ということになるわけです。即ち、ここに誤りが入り込む余地があります。

 そして、ゼーレの教義≒旧約聖書の中身においては、人類の始祖はアダムとイブなわけですが。エヴァ世界ではアダムは使徒側の祖、リリスが人類側の祖になっています。

 つまり。ゼーレは、間違えてしまったのです。アダムリリスを。

 エヴァンゲリオン2によれば、アダムとリリスが地球に落着した際、リリスの入れ物が月(衛星)となり、中身が現在のジオフロント……「黒き月」となりました。これがエヴァ世界におけるファーストインパクトなわけですが……同じエヴァンゲリオン2の機密情報に、興味深い記述があります。
 『リリスが落ちたのは、今で言う南極付近であったと思われるが、そのあとのプレート移動によって、最終的には日本の箱根付近にまで移動することになる。』
  つまり、「リリスの当初の落着地点」と「アダムの発見地点」が同じ、と言っているわけです。これは間違える。

 というわけで、これが作中でリリスがアダムと呼ばれていた理由になります。ちなみに、リリスの発掘はセカンドインパクトに前後して行われていたようです。下手をすると、セカンドインパクト時にはゼーレはリリスに気付いていなかった可能性があります。少なくとも、確認順に付けられる使徒のナンバリングの中で、アダムが「第一使徒」、リリスが「第二使徒」となっていることから、リリスが後に発見されたのは間違いないでしょう。
 そして、そうとは知らず、ゼーレは不老不死の神、アダム・カダモンに近付くべく実験を行い、大変なことになってしまったわけです。

 要するに。セカンドインパクトの真相は恐らく、「リリス用のマニュアルを間違えてアダムに使っちゃった事件」ということになります。

 ……しかし。少なくともゲンドウ(とユイ)は、ほぼ間違いなくセカンドインパクトが起こることを知っていたわけです。彼等が何を考えていたのか? 何をしようとしていたのか?
 続きは後編で。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?