いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン⑯第拾四話『ゼーレ、魂の座』

 第拾四話、「ゼーレ、魂の座」。本連載も今回で折り返しです。
 ……の前に、前回の補足から。赤木博士について、「猫好き」という情報をすっかり入れ忘れてました。母親の実家でも結構な老猫を飼っている様子。でも、本人は猫を飼ってないんですよね。忙しすぎて飼えないことがわかっているからなのか、グッズ集めに終始している様子。実際にペット(?)を飼ってるミサトとはこの辺正反対です。
 余談ですが、企画書だと盆栽とパンクロックが趣味でした。

 本編については、今までの話のおさらいなので、ゆるーく見ていきましょう。あらすじとしては、ゲンドウが前回の使徒隠匿の件で人類補完委員会に呼び出され、今までのあらましを振り返る……という感じな模様。
 ちなみに今まで出てきた使徒の名前、「サキエル」とか「イスラフェル」とかは、便宜上既に出してしまっていましたが実はこの話で初出です。なので、新劇場版の使徒には名前が無いんですよね。

 サキエル襲来、「同事件における被害者の有無は公表されず」とのこと。第1話を見る限りかなりの広域避難を行っていたようですが。ネルフの隠蔽体質が透けて見えます。トウジの妹の件もあるので、被害ゼロとはいかなかった模様。
 シャムシエル襲来。ミサトの報告書やトウジの作文はいいとしても、なんでヒカリの手記とか持ってきてるんですかね。エヴァパイロット候補だから……? 「使徒襲来前から避難訓練等を行っていた」と思しき記載がありますが、セカンドインパクトを受けた防災意識の高まりからなのか、第三新東京市本来の目的に準拠したものなのかは不明。
 シャムシエルのサンプル分析に関する最終報告は提出されず。推測ですが、ゲンドウ(の意を受けたリツコ)によるサボタージュと思われます。使徒の構造、とりわけS2機関に纏わるデータは、ゼーレ側の補完計画……要するにエヴァ量産機の完成を早めることになるからです。
 ケンスケの個人資料からも抜粋。綾波について「ペシミズムとも違う何かを、彼女はすでに持っていると思う。同じ14歳とは思えないほどに」との言及。コイツの方が14歳とは思えないんですが……。ペシミズム(厭世主義)は、実は『いわ新⑤』で既に言及しています。ヤマアラシのジレンマとも縁のある思想ですね。レイが自身の存在を希薄に感じている、という指摘は的を射ていると思います。

 ガギエル戦でようやく委員会(キール議長)のツッコミが入ります。シナリオから少し離れた事件、というのはガギエルが第三新東京市を狙ったわけではないからでしょう。実際にはアダムを狙っていたわけですが……この時点で委員会が「ゲンドウの手にアダムのサンプルが渡っていること」を把握しているかどうかについては、疑念の余地があります。
 結果は予測範囲内、というのは、「エヴァによって使徒が倒された」ということでしょう。「エヴァ以外によって使徒が倒される」のが一番ネルフにとっては不味いので。あと、シンジくんの同乗については完全スルーです。
 人類補完委員会は国連の機関であるため、(少なくとも表向き)各国の代表によって構成されています。艦艇喪失に苦言を呈したのは、アメリカ代表でしょう。人類が滅びることに比べれば、だいたいの犠牲は幸運。

 イスラフェル戦、エヴァの敗退シーンはなかったことにされてますね……。報告書っぽい編集。アスカの活躍については委員会は沈黙を守ります。

 第11使徒。使徒がネルフ本部に侵入するのは「早すぎる」出来事のようです。つまり、いずれ然るべきタイミングで侵入するのは良い、ということでしょうか。よく覚えておきましょう。
 そして、使徒がセントラルドグマに侵入すると「人類が滅びる」ではなく「すべての計画が水泡に帰す」。つまり、委員会の目的は、人類の存亡よりも彼等の重視する計画……即ち人類補完計画の遂行であるとわかりますね。
 しかし、ゲンドウは使徒侵入の事実はない、と言い張り続けます。この横柄な態度が許されるのは、ゲンドウ自身がゼーレにとって替えの効かない存在であり、そして今のところ計画のための材料を粗方手元に置いているからであると思われます。この辺は、セカンドインパクトの真相に関わるため、いずれ然るべきタイミングに。

 初登場の「死海文書」。エヴァのオープニングの最後に映る文書でもあります。
ゲンドウ「すべてはゼーレのシナリオ通りに」
 ということで、委員会とネルフの上部組織、「ゼーレ」に初言及。キール議長が被ってるせいで委員会とゼーレは同じ組織と混同されがちですが、(少なくとも表向き)別組織です。

 ゼーレと死海文書については、ぶっちゃけこのままエヴァを見進めてもぜんぜんわからないまま終わるので、ちょっと長くなりますがこの辺りで整理してしまいましょう。情報源のメインは毎度おなじみエヴァンゲリオン2。
 ゼーレとは、ネルフのスポンサーであるだけでなく、エヴァンゲリオン世界を背後から支配する秘密結社です。元々は宗教団体であり、中世暗黒期に秘密結社へと姿を変え、20世紀中頃に「人類世界を裏から支配する隠然たる勢力」(エヴァンゲリオン2での表現)になります。
 で、死海文書は彼等が己の宗教的なルーツを求めて遺構を発掘する過程で出てきたシロモノです。これは、アダムやリリスを作り出した存在である第一始祖民族の造ったアダム・リリスやロンギヌスの槍の運用マニュアルを、宗教団体(ゼーレのご先祖様と思われる)が自らの教義に合わせて写本したもの、だそうです。
 要するに死海文書、というのはゼーレの教典の大本でもあるわけです。現実世界の死海文書というのはキリスト教・ユダヤ教の聖典である旧約聖書の写本の一つでもあり、ゼーレもエヴァンゲリオンの企画書段階では「エッセネ」と呼ばれたことから、ユダヤ教のエッセネ派との関連が示唆されています。
 どうみても昔懐かしのユダヤ陰謀論です本当にありがとうございました。

 ……で、死海文書のうち重要でないものは公表され、重要な……実際の運用マニュアルに関わる部分はゼーレによって隠匿され続けることになります。これが裏死海文書です。これの何が大事かと言うと、ゼーレの持つ教義自体は、今の、いわゆる旧約聖書と大差がない、という点です。
 そしてゼーレは、この死海文書の発掘によって、長い時の中で失われた、宗教団体としての本来の教義実現に立ち返ります。それは、アダム・カダモン……不老不死の神に近い存在、完全な生命へと至ることでした。

 つまり、アダム・リリスという命名や、使徒の名前等が(旧約)聖書等に基づいて付けられているのは、要するに死海文書に基づいてゼーレが付けている、という可能性が高いです。
 そして、第一始祖民族によるアダム・リリスの運用計画は今も(ゼーレの手によって)動き続けており、だからこそ、その計画書、マニュアルである死海文書は預言書とも言える……というのが、ゼーレと死海文書にまつわる真相のようです。

 さて、ここまでが前提です。長い時の中でゼーレは一度、その教義本来の意味を忘れています。つまり、「現代において発見されたもの」を死海文書と対照させて名前を付け直している、ということになるわけです。即ち、ここに誤りが入り込む余地があります。
 これは、セカンドインパクト、ひいてはエヴァ世界の根幹に関わるとても重要なポイントなので、覚えておいてください。
 現時点だとこれ以上は情報過多になりそうなので、今回はヒントだけ。……旧約聖書だと、最初の人間ってアダムですよね?

 本編に戻りまして、Bパート。初号機に初めて乗ったレイの独白から始まります。
レイ「水。気持ちのいいこと。碇司令」
 意味深……だけど、ゲンドウと一緒にいるのが心地よい、という話ですよね……?
 花、については、レイ自身(同じものがいっぱい)の喩えと思われますが……こういう心象風景や比喩にいちいち突っ込むと、嘗ての謎本と同じ轍を踏みそうなので流します。
 重要なのは、水は気持ちいいけど赤い色の液体、血のにおい……要するにLCLは嫌い、という独白ですかね。レイ=大地母神リリスなので、LCLって要するに自分の体液なんですけど。解釈のしようによっては、「綾波レイ」が「リリス」としての在り方を嫌っているようにも見えなくもない。まぁ、人間も血塗れで気持ちよくなる人はめったに居ないですけど。
 血を流さない女。赤い土から作られた人間。これは多分レイ自身のことですかね。レイの出自は本編では明確に語られませんが、複数の事実を突き合わせると、エヴァ初号機に消えたシンジの母親、碇ユイをサルベージしようとした結果生まれたもの、と考えられます。余談ですが、ユダヤ系の伝承で「アダム(最初の人間)は赤い土から作られた」というものがあります。
 レイとシンジは同い年だけど、ユイが消えた時にはシンジはもう3か4歳。ということで、実は活動期間ベースだと最大で10歳か11歳くらい。しかも、一度リセットがかかってるのでもっと短い。これが要はレイに纏わる「過去の経歴は抹消済み」の正体です。レイが自分の存在を希薄に感じている、というのもたぶんこのへん。そして同時に、レイにとってはエントリープラグこそが「今の自分」の生まれた場所でもある、というお話。

レイ「エヴァ、人の作り出したもの」
 ちょちょちょい待てーい! 後々詳しい話をしますが、エヴァ初号機というのはリリスを物理的に二つにちぎって片方をエヴァンゲリオンにしたものです。セントラルドグマの巨人に下半身が無いのは、片方を初号機にしたからなんですね。
 で、その……それって「人の作り出したもの」判定でいいの……? まぁ、本人(?)がそう言うなら、いいですけど……。新劇だとマーク6とかいう更なる手抜きゲリオンが出て来るし……。

 レイの出自は上記の通りなので、レイにとってはエントリープラグは魂の座です。地味にタイトル回収ですが、「ゼーレ、魂の座」って、「ハリーポッターと賢者の石」的な、「ゼーレと魂の座」という意味っぽいですね。

 で、エヴァ初号機は元々の自分の体(リリス)の分身でもあり、その中には自分のオリジナルの半分とも言える存在であるシンジの母親がいるので、エヴァとシンクロするとレイは自分がなんだかよくわからなくなるわけです。最後の「あなた誰?」で出て来るのも、初号機の中の碇ユイの気配と思われます。まだ彼女は完全には目覚めていないので、レイはエヴァ初号機とシンクロできる模様。

 とまぁ、この辺のややこしいくだりをレイの言語化フィルタを通すと、
レイ「碇君の匂いがする」
 この一言になるわけです。はしょりすぎ。無口だけど喋る以上に色々感じて考えてるよ、というお話。

 パーソナルパターンは零号機と初号機が酷似。これは、零号機と初号機がアダムではなくリリスのコピーであることに起因すると思われます。なのでレイが初号機に乗れるわけですね。

アスカ「知ってるわ。だからバカなのよ」
 苦笑いするミサト。アスカもシンジを理解して、そのうえで色々言っている、ということがわかるシーン。だいぶ理解が進んでいる。

 エヴァ弐号機の互換性が効かない、と真顔になるミサトさん。パイロットの母親が機体に宿るという原理上、互換性が効く方がおかしいんですよね。弐号機の方が普通。

 さて。レイは初号機に乗れるけど、シンジくんは零号機に乗るとどうなるの? というお話。
 その前に、零号機について。エヴァ原則的には母親の魂をコアに宿らせる、という原理ですが、レイは出自上そもそも母親がいません。じゃあ、零号機のコアはどうなっているかというと、空っぽっぽい。
 ……つまり、レイだけは素のエヴァンゲリオンに乗っているわけです。これが以前触れた、零号機がいまいち安定しない理由です。
 シンジくんを乗せた結果は、もうちょっと後に。

 さて、リツコとマヤの会話でダミーシステムという単語が出てきました。これはざっくり言うとエヴァのオートパイロットですが、その正体は「人工的な魂」を作ってエヴァを動かそう、というシステムです。ただ、原料にちょっと問題がありまして、綾波レイのクローンボディを原材料にしています。だから、初号機にダミーのオリジナルであるレイが乗れるのかを確認する必要があったわけですね。
 そして、恐らく材料を知っているマヤは、あまり気乗りしない様子。それに対してリツコ。
リツコ「潔癖症はね、辛いわよ。人の間で生きていくのが。汚れたと感じたときわかるわ、それが」
 とのことですが、これ、いつもの自己言及セリフブーメランですね。このセリフのせいでマヤは潔癖症扱いされることが多いですが、どう見てもリツコの自分語りです。

アスカ「どお、シンちゃん。ママのおっぱいは? それともおなかの中かな?」
 というわけで、アスカ、大正解。まず間違いなくアスカ本人は真相を知らないんですが、何故かちょくちょく当ててくるんですよね……(「本物のエヴァンゲリオン」とか)。エヴァに母親が宿っている、というのをアスカは知らなかったが故に色々大変なことになったことを考えると、実に皮肉です。
アスカ「みんなしてシンジばっかり甘やかしちゃってさ」
 今のはアスカが地雷踏んでたんですが、この不平等感が後に火を噴きます。そういえば、前々回の「よくやったな、シンジ」も、彼女にとっては「なんでシンジだけ誉められるのさ」というポイントだったんですかね。

 さて、シンジを零号機に乗せたらどうなるの?
 こたえ:暴走します。当然といえば当然。
 さて今回の話、「レイを初号機に乗せる」は必然性がよくわかるんですが、「シンジを零号機に乗せる」はよくわからないんですよね……。
 「コアの無い零号機を起動できるようにする」というのは、人工的な魂であるダミーシステムに通じるところがあります。今回、シンジくんはその被験者にされてしまったのかもしれません。もしくは、単にゲンドウのいやがらせ

 零号機を見据えるレイと、レイめがけて殴りつける零号機。
リツコ「また同じなの? あの時と。シンジ君を取り込むつもり⁉」
 リツコ、ここで重要機密をポロっと漏らしています。シンジくんの母親が初号機に取り込まれた件ですね。なお、幸いミサトは聞いてなかった模様。ミサトさん……

 レイの行動は、零号機を制止しているようにも見えます。零号機は、魂のある初号機と違って、より直接的にレイ(リリス)の分身なので、後々のカヲル君を見ると、頑張れば自由に操れるのではないかと考えられます。
 そして後々(23話)に触れられますが、レイはシンジと一つになりたい、という心がある様子。その部分が零号機の暴走(ひいてはシンジの吸収)を引き起こそうとし、それをレイ(本体)が制止した、という構図ではないでしょうか。ダイナミックな自己の葛藤。

 まぁ、零号機もだんだんこういう暴走はしなくなるので、恐らくはダミーシステムの成果のフィードバック等によって普通のエヴァと同じように使えるようになっていくものと思われます。「普通のエヴァ」……というより、エヴァ各機の詳しい位置づけ等は、3号機が出てきた時にでも。

 リツコとミサトの会話。
リツコ「零号機が殴りたかったのは、私ね。間違いなく」
 というのは、リツコの思い込みでしょう。前も言いましたが、リツコは自分がレイに恨まれていると思っているので。こういうことするから話がややこしくなるんだよ!!

 寝転ぶアスカ。背後のラジオでは、南沙諸島をめぐるテロの話題。エヴァ世界、なかなか物騒です。
アスカ「ファーストって、どんな子なの?」
 今更レイに興味を持つアスカ。いい兆候ではありますが、これ、レイ自身に興味があるというより「シンジに関わりがあるから興味を持った」という感じですよね……。わかりやすい……。
 一方のレイも、シンジを通じて他人に興味を持つ様子が後々描かれたりします。

 ゲンドウと冬月。冬月は一人で将棋を指していますが、ゲンドウは無視。相手になってあげたりはしないのが、ゲンドウらしさ。
 ゲンドウ曰く「切り札は全てこちらが擁している」というのは本当のことです。こんな男の運営する組織に計画を一任したのが、ゼーレのガバガバさと言えるでしょう。
 結局、後にゼーレは直接計画をコントロールするために乗り出すことになるのですが……。ゲンドウはどうにもゼーレを侮っている、というか挑発しているような節さえ見られます。

 ゲンドウの口にするシナリオ、「我々のシナリオ」、というよりゲンドウのシナリオです。冬月に対しても秘密が多い男。零号機の事故原因についても冬月に伏せている模様。そして、
冬月「レイに拘り過ぎだな碇」
 この一言で、冬月はゲンドウの計画については全然知らないことがわかります。レイはゲンドウの計画において、極めて重要なパーツです。具体的には、裏切られると一瞬で詰むくらい。なので、拘るのは当然。

 アダム計画は、以前回収していたサンプルの修復作業のことでしょうか。あのサンプルは最終的にゲンドウの右腕に埋め込まれるので、そのための準備等の話かもしれません。一応、この時点では「リリス」もアダムと呼ばれている節があるため、リリス絡みの計画という可能性も高いです。

 そしてロンギヌスの槍、登場です。輸送時から形状が変わり、見慣れた二股になっています。このロンギヌスの槍(とゼーレが呼んでいるもの)、アダム、リリスの制御装置で、この槍はアダムとセットになっていたものです。エヴァンゲリオン2によれば、リリスの増殖を一時的に抑えるため、リリスにアダム用の槍を刺した、という話の模様。
 レイが槍を刺すのは、「自分で自分の体を処刑している」というモチーフでもありますね。

 さて次回は、「嘘と沈黙」。珍しく使徒の出ない回です。

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