いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン⑥第四話『雨、逃げ出した後』
第四話「雨、逃げ出した後」……この回は「第肆話」じゃなく「第四話」なんですよね。エヴァって難しい。
八時起きのミサトさん。シンジくんが居なければ真人間の時間帯に起きられるっぽい。
というわけで、前回の「電話に出ずにシンジくん何してるん?」の答えは、「家出」でした。リツコさんの処世術考察とは……やっぱり自己言及なんです?
あと、あの……ネルフID置いてってますし、家出っていうより、帰ったのでは……?
そして、シンジが電話に出ないのでおうちまで謝りに来るトウジとケンスケ……なんで住所知ってるん!? ストーカー? まあ、古き良き時代なので、先生に聞くとかケンスケが親父のファイルを覗く(違法)とかあるのでしょうが。
ミサト「シンジのバカー! ばか……」
おまいう。と言いたいところですが、ちょっとは自責の念を感じて……いるのかな……ミサトさんだしな……?
シンジくんのモノレール。第三新東京環状七号線、ということで、環状線が幾つも走っていることがわかります。
余談ですが、エヴァ世界の鉄道路線図は、後にロボットアニメ「シンカリオン」とのコラボ時に登場しています。こっちも面白いよ。
まぁ、環状線なので、ずっと乗ってても何処にも行けません。巻き戻されるテープもそれを象徴するかのよう。
電車乗り降りする人。「町を守る」ということは、こういう人々の営みを護ることでもあるのですが、シンジくんに気にする余裕ナシ。
環状線なのに「とうげんだい」で回送になる電車。未完成なのか、使徒襲来の影響で不通なのかは不明
シンジ「帰らなきゃ」
……どこに?
シンジくんは私物一式を持ってきている様子。後に登場するチェロなどは持っていない様子のため、家出なのか戻らないつもりなのか判断がわかれるところ。普通に考えれば、「先生」とやらのところに戻るのでしょうが……彼はどこにも帰らず、レイトショーの映画館に向かいます。
やっている映画は、セカンドインパクトもの。席にはくたびれ、疲れ果てた大人たち。なかなか象徴的な絵面でもあります。中身は「亜光速の極小隕石が衝突して甚大な被害が!」というもの。後々出てくる新聞などから考えて、これが一般向けのセカンドインパクトのカバーストーリーと考えられます。
ハイライトの消えた目で映画を見るシンジくん。前の席でカップルがイチャつくのを見て、目に生気が戻るシンジくん。お年頃……というよりは、人のぬくもりが恋しいのかもしれません。
鑑賞(どっちの?)後、自販機の前のベンチで寝るシンジくん。あの……薄々思ってたんですが、これ「天気の子」じゃないですよね!? 環状線といい、見覚え有る絵面が結構出てくるんですけど!?
などと、エヴァの影響の大きさを痛感しつつ、翌朝。
朝の都会の独特の空気。爽快さと不気味さ。シンジくんは不気味さの方を感じたのか、耳を塞いで逃げます。というかこれ、ミサトさんの「貴方の守った街」のくだりのせいでは……?
辿り着いたのは、バス路線のはずれのド田舎。神奈川の山奥のどこかでしょうか。そして、まさかの登山。第三新東京市を見下ろします。
遠くに逃げるわけでもなく、元居た場所に帰るでもない。一体、彼の家出は何が目的なのでしょうか?
今更な正論を吐く大人たち。
ミサト「14歳だもんね」
ちなみにミサトさんの14歳の頃は、ちょうどセカンドインパクトの時期にあたります。世界崩壊級の災厄の爆心地に居た、ただ一人の生存者。下手するとこっちのが濃いよ!!
ミサト「別に。戻らないならその方がいいかも」
普通に鑑賞するとしんみりくるシーンですが、ここまで深読みしてきた我々は、「本当にそうだよ!!」以外の感情を失っています。
そして。更にミサトが命令違反を問い詰めていたことが家出の原因と明かされます。
ミサト「どうして命令を無視したの?」
ミサト「アンタね、何でも適当にはいはい言ってりゃいいってもんじゃないわよ!」
いわゆるダブルバインドの一種ですね。命令を無視すれば叱られ、命令に頷いても叱られる。どうせいっちゅーねん。
そもそも、シンジくんの命令無視の元凶は「無理矢理な状況でエヴァに乗せたこと」、「訓練不足で実戦に送り出したこと」が尾を引いているのだ。ミサト「そうやって表面だけ取り繕っていれば楽でしょうけどね、そうやってエヴァに乗ってたら、死ぬわよ」
シンジ「いいですよ、そんなの」
シンジがやさぐれているので売り言葉に買い言葉に見えますが、コレ多分マジで言ってるから始末に終えないんです。この辺のシーン、子供を叱る大人に一見見えますが、二人の温度差が酷いのです。
ミサト「エヴァに乗ることが苦痛でしかないのなら、もう乗らない方がいいわ。絶対死ぬもの」
ミサトさんはただの復讐鬼ではないので、そういうことがカンでわかる。多分ただの蛮族ではなくグレーター蛮族・鎌倉武士か何かだと思う。
ケンスケの一人芝居。戦争を趣味とすることは揺るがない。ただ、遊びは遊び、と割り切ってもいるのだ。大人である。
シンジ「やめた方がいいよ、お母さんが心配するから」
そして、ケンスケにも母親がいないことがわかる。
ケンスケ「碇と一緒だよ」
なんで知ってんの!?
そして、「本物には太刀打ちできない」という話をした直後、襲来する本物ことネルフ保安諜報部。どう考えてもネルフがカタギの組織ではないことを匂わせます。いや……トップがアレ(ヒゲグラサン)な時点で今更か……。
シンジ「叱らないんですね、家出のこと」
シンジ「当然ですよね、ミサトさんは他人なんだから」
シンジくんにとっては、「叱ってくれるのが家族」という認識のようです。達観しているのか闇が深いのか。これも地味にポイントで、「ミサトがシンジを叱るシーン」というのは、今後も慎重に避けられています。ゲンドウについても言わずもがな。全体を通しても、少し前の口論のシーンがほぼ唯一ではないでしょうか。
さて。ここで不明だったシンジの家出の目的について、シンジの家族観に基づいて考えると、命令違反について「叱ってくれたミサトさん」が、自分を追いかけてくれるか、或いは家出についても叱ってくれるか試したのではないか、という推測が成り立ちます。シンジくん視点だと、自分で家族アピールしてるんだから、それくらいやってくれるよね? となるわけです。
しかし、追い掛けてきたのはネルフの黒服で、ミサトさんは叱りもしなかった。そう考えると、今話のシンジくんがここまでやさぐれた態度(全編通しても珍しい)を取り続けるのも、「叱って欲しいから」という推測が成り立ちます。
……ちなみに、後で触れる予定ですが、こういう試し行動、実はゲンドウにもあちこち見られる特徴です。なんだかんだで似たもの親子。
さて、本編。シンジくんの都合で態度がやさぐれていますが、言っていること自体は、
「自分には向ていない、でもレイに全部は押し付けられない。だからみんなの期待を背負ってエヴァに乗る」
というお話。立派な覚悟だと思うんですが、ミサトさんは「アンタみたいな気持ちで乗られるのは迷惑よ」と切って捨てます。
シンジくんのやさぐれた言い方とキレるミサトさんで話が拗れる……!
ゲンドウ「マルドゥック機関の報告によると、フォースチルドレンはまだ見つかっていない」
後に明らかにされますが、マルドウック機関は実在しない組織、その選定はネルフの意向なので、つまりゲンドウの発言は「パイロットを補充するつもりはない」ということになります。
裏でダミープラグを開発しているため、人間のパイロットはそのうち用済みになりますし、ゲンドウの野望的には初号機のコアは変更できない。そして零号機はレイ以外に動かせない仕様なので当然。
引き留める様子もないあたり、やはりゲンドウ的にはレイが復帰するのでこの時点でシンジは用済み、という感じでしょう。
忘れ物を届けにきたトウジとケンスケ。ネルフ保安部も荷物ぐらい回収してあげよう?
そして、エヴァにあるまじき肉体言語コミュニケーション。後ろの保安部の人も苦笑い。
ここで、「シンジの決断を咎めない」と言い切る二人。あまりのことにシンジくんフリーズ(多分)。
ケンスケ「勘ってやつだよ」
ホントかな……ケンスケの情報源は謎が多い。
シンジ「僕は卑怯で、臆病で、ずるくて、弱虫で」
トウジとケンスケに「そんな価値のある人間ではない」と吐露するシンジ。「トウジ(とケンスケ)に比べれば」という話に見えますが、どうもこれは正直な自己評価っぽい。シンジくんの特徴として、この自己評価の低さもあります。自分の悪口、こんなにスルっと沢山出てくる……?
ミサト「身をよせるほど相手を傷つける……こういうことか」
どういうことなんだよミサトさん!?
ミサトさんにとっては身をよせる=自分を重ねる、なところがありますが、この件は「家族になろうとした」という辺りについてでしょうか。
ミサト「あの子、ああいう言い方でしか自分の気持ちを伝えられないんだわ」
そんな……ミサトさんが遂に人の心を……!?
一方、列車に乗り込む寸前、「がんばってね」の言葉に怯えたようにハッとするシンジ。 やっぱトラウマになってるんじゃないですかやだー!
シンジを見つけるミサトの芝居が細かいです。
ミサトはシンジの気持ちに少しだけ気付いた。
けれど、シンジが踏みとどまったのは呪い故だった。
結果として逃げ出さなかったシンジの願いは少しだけ叶い、両者は何も問うことなく「ただいま」「おかえりなさい」とだけ言葉を交わす。
まぁ、根本的な問題は何も解決してません。しかし、シンジくんのたどたどしい「ただいま」に対して、ミサトの「おかえりなさい」が感極まった演技なのがこれまた……。
あ、「強羅行き」電車がやたらと来ますが、エヴァの世界だと絶対防衛線がある最前線だそうです。
総評として、シンジくんが「逃げちゃだめだ」の呪いから少しの間だけ解き放たれる回、そしてみんなと絆を深めようとする回と言えるでしょう。ええ話や……。
結局は元鞘なわけですが、それでも友達との絆が深まった分は一歩前進。この頃はまだ一歩あゆめば半歩ぐらいは進んでいたエヴァンゲリオンなんですよね。そのうち全力後退しはじめますけど、それはまだまだ先の話。
さて、次回は「レイ、心の向こうに」。「彼女が心を開くのは、碇司令だけだった」だそうですよ?
遂にエヴァンゲリオンの代名詞とも呼べるキャラ、綾波レイが登場します。レイにまつわる話は恐らく滅茶苦茶長くなるので、自分は死を覚悟しています。
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