いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン⑮第拾参話『使徒、侵入』

 お待たせしました。第拾参話「使徒、侵入」です。英語タイトルはガリバー旅行記由来。
 今回はエヴァンゲリオンの出番ほぼナシの赤木博士回です。なので始まる前に、赤木リツコ博士についてのおさらい。母親の赤木ナオコ博士のプロジェクトを引き継ぐ形でネルフに入社した才媛で、ミサトの大学時代からの友人。エヴァンゲリオン開発計画、いわゆるE計画責任者ならびにネルフの運用を支えるMAGIシステムの開発者。そして、碇ゲンドウの愛人でもあります。ちなみに、母親のナオコ博士(故人)もゲンドウと付き合ってました。お前んとこの職場、人間関係ズブズブやんけ。

 こういった事情もあり、何事もオープン、というよりは蛮族なミサトと違い、彼女は自分のことをあんまり話しません。とりわけ親との人間関係は、その辺拗らせた人の多いネルフの中でも、ややこしさ一等賞です。ついでに職務上、ミサトにすら言えない機密情報を幾つも握っています。具体的には次回いよいよ登場する秘密結社「ゼーレ」と、計画の鍵である「リリス」について。後々触れますが、この二つについては、結局最後までミサトさんは知らないまま終わったっぽいんですよね……。ミサトさんが世界の謎に本気で迫ろうと思ったら、リツコに一服盛って吐かせるのが一番早かったと思います。

 長くなりましたが、リツコについては
①エヴァとMAGIの開発者
②色々秘密は知ってるけど言わない
③母親ともどもゲンドウの愛人
 という三つのポイントを押さえましょう。いよいよ本編です。

 エヴァ本体は前回の破損から修理中の様子。アポトーシス、というのは細胞の自死作用のこと。名探偵の方のコナンで有名ですね。人間の体でも細胞分裂の後にアポトーシスで組織の形を作る、という工程が見られるので、多分似たような処理で修理をしているのでしょう。エヴァンゲリオンも生き物、というお話。今回はコンピューターのお話ですが、生物系の用語がたくさん出てきます。本筋とはちょっと外れますが、密度が濃いです。
 ついでにMAGIもメンテナンス中。コード入力はマヤよりリツコさんの方が早いのは、覚えておきましょう。
 他人のコーヒーに手を付けるミサト。相変わらずの倫理観です。定期検診は127回目、ということで、恐らく月イチ以上のペースでやっているのでしょう。
リツコ「母さんは今日も元気なのに」
 はい、ここ重要。赤木博士は、母親の造ったMAGIを死んだ母親と同一視しています。これ単体だとただのマッドサイエンティスト要素なんですが、エヴァとMAGIの対照関係を考えると、あながち笑えないところ。

 エヴァパイロットは超クリーンルームでオートパイロットのためのシンクロテスト。何故か全裸のサービスシーン。通常のクリーンルームだと人体はゴミの塊みたいなものなので、むしろ裸で入れるのは論外なのですが。
 プラグスーツの補助なしにシンクロするのが目的、とのことで、アスカの頭のアレも外れてます。細かい。

 というか、裸の三人の間に仕切りが無いように見えるんですが……まぁ、エヴァパイロットみんな裸は見たり見られたりの関係だし……(そういう問題ではない)。映像モニターは切ってある、とか言いつつ、ONになるカメラ。大人って汚い。
 ちなみにこの辺の洗浄工程は何故か新劇でも別目的で再現されています。

 シンクロ中、シンジくんだけ股間パーツが付いているのが気になる。
 今回のテストで使うのは、模擬体と呼ばれる頭のないエヴァンゲリオン。今話しか出てこないのですが、後に登場した零号機の廃棄素体が頭+脊髄だったこと。エヴァ初号機は頭部破損で初暴走していたこと等、「頭の有無」はエヴァにとってウェポンラックと同じくらい大事っぽいです。
 あ、シンエヴァンゲリオンに出てきた量産型エヴァも頭部ありませんでしたね。

 さて。「オートパイロット」と言っていますが、実際には後に登場するエヴァの無人操縦「ダミーシステム」に関連する実験、と見るのが自然かと思われます。模擬体を間に挟んでエヴァとシンクロさせることで、ハーモニクス等の情報を記録しているんじゃないですかね。
 前にも触れましたが、このダミーシステム、エヴァンゲリオン本来の目的と密接に関わっている計画です。

 「初実験の時は一週間」ということで、実はこの実験、初めてではないことがわかります。アスカは反応的に初参加のようなので、レイやシンジが犠牲になっていたのでしょうか。こういったデータもMAGIに蓄積されています。

アスカ「右腕だけはっきりして、後はぼやけた感じ」
 模擬体について。覚えておきましょう。

 MAGIシステムは三系統のコンピュータによる審議制。いまどき流行りのマルチコアというより、三系統で推論させて相互にチェックするという冗長系の意味合いが強そうです。人類の命運が掛かっているので、判断には慎重を期したいところ。そういえば、ネルフの電源も三系統でした。

 ミサトは知らないことが多い。そもそもエヴァンゲリオンは使徒と戦うのがメインの目的の存在ではないので、使徒と戦う仕事の彼女には情報はあんまり回ってこないのでしょう。本人の性格もある気がしますが。

 タンパク壁に侵食。タンパク壁というのはよくわかりませんが、タンパク質でできた壁……? エヴァンゲリオンとかいう巨大なナマモノを扱ってる以上、有機素材を用いた設備があるのは自然と言えば自然でしょうか。
 ネルフの施設、科学の結晶という割に地味なトラブルが多いです。前々回の停電しかり。リツコさんも「また水漏れ?」と言っています。
 ゲンドウが五月蠅いのでさっさと処理するよう告げる冬月。そして、ゲンドウが五月蠅いからと実験を継続するリツコさん。このテストのゲンドウにとっての重要度がわかりますが……こういう判断は事故のもとです。上司との適切な距離感。コミュニケーション。そういったものが異常の報告を生み、事故を未然に防ぐのです。今回は悪い例。

 模擬体をエヴァ本体と接続。ヨクトというのは、10の−24乗のこと。シンクロするだけでもごくごく微弱なATフィールドは発生しているようです。

 エヴァ本体と模擬体を接続した途端、タンパク壁の侵食が増殖。周囲のパイプをも汚染し、壁伝いに拡大。最終的に模擬体に到達します。
 ポリソーム、という言葉が出てきます。本来の意味はタンパク質を合成する細胞内の器官、リボソームの集合体のことですが……多分今回はレーザーつきの潜水ドローンの名前だと思われます。冬月が言っていた「処理」も、侵食部をレーザーで焼くことだった様子。

 勝手に動き出す模擬体(真っ先に動いたのは右腕ですね)。発生するATフィールド。ということで、今回の使徒、イロウルの登場です。
 右腕の激突で罅が入ったガラスが徐々に割れる演出が細かい。
 イロウルの正体は、急激な増殖と進化を行うナノマシンサイズの使徒。少し前に「巨大な使徒が突然現れる」という話題がありましたが、これももしかすると、ナノマシンサイズの使徒が急激に増殖している、という可能性が考えられます。

 さて。問題なのは「コイツどうやってネルフ本部に侵入したの?」という点。使徒というのはもともと地球の上のあちこちに存在していて、それがセカンドインパクトを切っ掛けに活動し始めた、という話の様子(同じパターンの使徒が後でまた出てくるので、詳しくはそのうち)。なので、偶然建材に紛れ込んだ、とも考えられます。材料が少なすぎるので人為的か否かは保留。

 しかし、使徒にドグマ地下まで侵入を許したとなれば責任問題。ということで、ゲンドウは使徒の存在を隠蔽。この辺から、ゲンドウと委員会は必ずしも一枚岩ではないことがわかりますね。コンプライアンスと無縁の組織、ネルフ。
 場所がアダムに近すぎる、ということで、イロウルの発生地点はドグマの割と深い場所であることがわかります。ここでは「アダム」と言っていますが、恐らくはリリスのことです。
 そして、真っ先に模擬体を狙ったことから、イロウルの目的がエヴァの汚染である可能性も高い。ということで、エヴァを真っ先に退避。今回のゲンドウ、滅茶苦茶有能です。また、初号機をとりわけ重要視していることも示されていますね。
 加持さんはドグマ深く(セントラルドグマ・レベル28)でバイト中。使徒が発生したのはアダム(リリス)の近く、ということで、恐らくリリスを探しに行っていたのでしょう。その成果は15話にて。
 今回ゲンドウは有能ですが、一方の冬月先生、
冬月「さて。エヴァ無しで使徒に対し、どう攻める?」
 ということで、なんもわかっとらんのかい。

 使徒は酸素やオゾンの多い場所には増えない。ということで、オゾンを注入して使徒退治。
冬月「よし、オゾンを増やせ」
 冬月おじいちゃん、口を出したがる割に指示がちょっとアレ。しかもフラグ。ということで、使徒がオゾンを吸って再増殖。
 この辺は、生物の嫌気性→好気性への進化をなぞっていると思われます。当時猛毒であった酸素を使えるようになることで、生物は爆発的なエネルギーを手に入れたわけですね。というか、38億年前ならまだしも、現代の地球に生きてて酸素に適応してないって……イロウルくんは今まで何してたんですかね……。熱水噴出孔にでも居たの?
 あと、使徒はS2機関が動力の筈なので、酸素は呼吸というより体の構成材料とかに使っているのかもしれません。

 さて。大深度施設を占拠したイロウルは、ネルフ本部へのハッキングを開始。攻防が始まります。
 疑似エントリーの「エントリー」というのは、恐らくハッキング時のエントリーポイント(脆弱性)のことですね。つまり、疑似的な脆弱性を作って相手を引っ掛けよう、みたいな対抗手段でしょうか。「防壁」については、攻殻機動隊とかの影響が強いかも。
 イロウルはシステムにアクセスし、16桁ものパスワードを瞬時に走査します。えーと、英字大小+数字+記号の場合、組み合わせは10の31乗くらいのオーダー。イロウルの演算能力が、現代のスパコン基準でも超絶していることがわかります。
 そして、イロウルの目的はMAGIへの侵入。えっ……アダムとかリリスじゃないの!?

 MAGIのI/O(インプット・アウトプット)システムをダウンしろ、と指示を出すゲンドウ。要はシステムからMAGIを切り離せば侵入できんやろ、という話。しかし失敗。
 そして、MAGIの一基であるメルキオールを乗っ取った使徒の行動は……まさかの自爆。Why? というか、ネルフ吹っ飛んだらイロウルくんも諸共死ぬのでは?

 ……と、一笑に付したいところなのですが。この時のイロウル、軽く人間を越える計算速度に加えて、ネルフ保安部のデータバンクを総ざらいしてるんですよね。つまり、ネルフの本来の存在目的等についても情報を得た上で、「人類を滅ぼす」とかではなく「ネルフを自爆させて消去する」という結論を下したわけです。
 後々わかることですが、ネルフ、というかゲンドウは使徒殲滅の裏で人類全体を巻き込む人類補完計画を企んでいます。これは人類どころか使徒にとっても多分好ましくない。で、その補完計画のトリガーとなりうるモノ(アダム、リリス、ロンギヌスの槍)は13話の段階で全部ネルフ本部内に存在します。あとついでに、ロンギヌスの槍は使徒に特効の超兵器です。つまり、ネルフを消去するというのは、実はウルトラ大正解です。イロウルくん賢い。ついさっきまで酸素で死に掛けてたとは思えない……。

 MAGIは三系統のシステムによる合議制なので、一基が乗っ取られただけでは自爆しません。冗長系って大事。そして、MAGIによる相互ハッキング。画面の頻繁な切り替わりで緊迫した雰囲気を作る演出が上手いです。
 で、リツコさんはシンクロコードを15秒単位にすることでハッキングの速度を押さえます。これはどういうことかというと、多分、MAGIの三つのコンピュータ間の通信頻度を落とすことで、MAGI同士のハッキングの進行を食い止める、という応急処置ではないかと考えられます。勿論、通常の処理にも支障が出そうですが、そういうこと言っている場合ではない。

 敵はマイクロマシンサイズの進化する使徒、というお話。そんな使徒に対するミサトさんの作戦は……
ミサト「死なばもろとも。MAGIと心中してもらうしかないわ」
 というわけで、「死なば諸共」という、奇しくも使徒と同じ結論を出すミサトさん。怖い。
 ただMAGIシステム、別に本部にあるものが唯一というわけではなく、松代にもある他、最終的にドイツ、中国、アメリカにも同型が複数あります。そんな中、なんでオリジナルにこだわるのか? というのは尤もな話。
①リツコの個人的感傷
②表に出せない(バックアップもとれない)データを山ほど溜め込んでいるから
 といった辺りでしょうか。リツコは「本部の破棄と同義」と却下しますが、じゃあ、なんでそもそも本部を破棄したらいかんの?(使徒と戦うだけなら本部に拘る必要は薄いのでは?) というのは、今回は追及されません。リリスがあるからなわけですが。
 じゃあ、どうするの?
ゲンドウ「進化の促進かね」
 今回のゲンドウは有能。忘れがちですが、ゲンドウはネルフの前身、人工進化研究所の所長です。相応の専門知識はあるんでしょう。別に台形ポーズしながら「構わん」って言うだけが仕事ではないのです。あと、開発者親子と不倫関係になっているのも理由としてあるかも。

ゲンドウ「進化の終着地点は自滅。死、そのものだ」
 これ、多分後で触れますがゼーレの教義絡み(人類限界説)に関連する発言でもあります。
リツコ「使徒が死の効率的な回避を考えれば、MAGIとの共生を選択するかもしれません」
 殲滅ではなく共生。地味に重要っぽいので覚えておきましょう。
 というわけで、使徒の進化促進プログラムを作り、カスパーで使徒に逆ハックを仕掛けて打ち込む、という作戦が決まります。

 ネルフ本部からD級勤務者は退避。
 MAGIはそこ開くんかーい! という感じ。内部は開発者のいたずら書きだらけ。「のるなへこむ」「碇のバカヤロー!」等の落書きもあります。繰り返しになりますが、リツコの母親、赤木ナオコ博士はゲンドウの愛人でもありました。

 MAGIの基本システムは、人格移植OS。第7世代の有機コンピュータに個人の人格を移植して思考させるシステム、だそうです。
 第七世代コンピュータ、というのは、今を遡ること四半世紀、第五世代コンピュータという、大雑把に言えばAIを作るためのプラットフォームである並列推論システムを作ろう、というプロジェクトがあったんです。結果的には大失敗しましたが、「第●世代」というのは多分これの名残。
 人格移植OSについては、
ミサト「エヴァの操縦にも使われている技術よね」
 とのことですが、エヴァは「パイロットの母親の魂そのもの」が使われてるので、移植とはちょっと違う。要は、ミサトさんのエヴァ理解度はこんなもの、というお話です。
リツコ「言ってみれば、これは、母さんの脳味噌そのものなのよ」
 違うよ!! あと有機コンピュータだからって脳ミソそっくりにすることないだろ!! リアクションに困るわ!
 ちなみに後の21話によると、人格を移植したのもリツコではなくナオコ博士本人の模様。完成と同時期に自殺したことが、リツコのMAGIと母親の同一視に拍車をかけている感があります。
リツコ「母さんのこと、そんなに好きじゃなかったから」
 ミサトさんは多分「私と同じか」って思ってる。

 そして、使徒のハッキング再開。
リツコ「大丈夫、一秒近く余裕があるわ」
ミサト「一秒って……」
リツコ「ゼロやマイナスじゃないのよ」
 ここ、前回の「万に一つもないわ」「ゼロではないわ、」と対になってるのが巧いですね。
 そして、ギリギリで使徒が自滅。人類は勝利をおさめます。裸のまま放置されてるチルドレンが今回のオチ。瞑目しているレイはちょっと武人っぽいさがあります。

リツコ「もう年かしらね、徹夜がこたえるわ」
 30手前の徹夜はきつそうです。ミサトさんはコーヒーでもメシマズ。
 MAGIの持つジレンマの話。
リツコ「実はプログラムを微妙に変えてあるのよ」
 とのことですが、何処をどう変えたのか? についてはよくわかりません。話の流れからして、「リツコから見た母親」という視点を加えたのかもしれません。
 科学者としては尊敬し、女としては憎んでいた、というのがリツコから見たナオコの評価。母親としては、そもそも会ってなさすぎてわからない、という感じでしょうか。だいたいゲンドウが悪いと思います。
 そしてカスパーは女としての自分、というお話。だいぶ後ですが、カスパーは再び牙を剥くので覚えておきましょう。
リツコ「ほんと、母さんらしいわ」
 MAGIと母親を同一視するのやめろ。……まぁ、結局最後まで治らないんですけど。

 そういえば、使徒にリプログラムされたMAGIをどうしたの? というお話ですが、前話で松代にバックアップを取っているので、それを使って復旧した可能性が高そう。
 あと……イロウル、結局は「殲滅」の宣言はされていない上に、MAGIシステムと共存している可能性も示唆されています。ちょっと覚えておきましょう。
 現実における進化とは適応という平衡状態に至るための過程です。よって、終着点は必ずしも死とは限りません。ですがそもそも、エヴァ世界では「不完全な群体生物としての人間は限界」という人類限界説に基づいて人類補完計画が立案されているので、今回、よりによって使徒が群体という在り方を選択し、結果袋小路に陥って自滅した、というのは世界観の上で重要な示唆と言えます。

 という感じのリツコ掘り下げ回でした。
 さて、本放送時はこの回が年末、次回が正月にあたるわけですが、なんと昔のアニメによくあった総集編です。エヴァの最低視聴率0.9%を叩き出した回でもありますが、こういう総集編に案外「エヴァっぽさ」が詰まっていたりもします。ちなみに、今回も年末なので視聴率は低めだった様子。
 そして遂に、あのモノリス……エヴァンゲリオン世界の黒幕が言及されます(まだモノリスじゃないけど)。

 というわけで次回、「ゼーレ、魂の座」。何をサービスするんですかミサトさん?

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