いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン⑧第六話『決戦、第3新東京市』

 第六話「決戦、第三新東京市」。今回は陸じゃなく六です。エヴァって難しい。英語タイトルだと「Rei Ⅱ」ということで、レイのメイン回継続です。
 前回はレイに対するシンジくんの距離の詰め方がちょっとヤバいこと、そしてレイ本人は世間一般で思われているような無感情ヒロインとは程遠いものの、何を考えているかは結局よくわからないことがわかりました。

 あと、どうでもいいですが、本連載の略称は「いわ新(しん)」になりました。今後ともよろしく。

 さて、再びラミエルに炙られる初号機。粒子加速する時のラミエル表面に雲が映っていることから、本来は体は鏡面になっている模様。青一色なのはテレビでの表現上の限界だったようで、新劇場版ではちゃんと景色が映るようになっています。
シゲル「目標、完黙!」
 「完全に沈黙!」の略でしょうか。取り調べ用語だと「完全黙秘」の略ですが、使徒に尋問するわけが…………まぁ、24話に出てくる『アレ』のことは一回忘れましょう。
 そして、病院送りになるシンジくん。エヴァはシンジくんいじめのアニメなので、ちょっといいことがあると、すぐしっぺ返しが来ます。なくても来ます。

 ラミエルはエリアに侵入した外敵に自動反撃する仕組み。この能力、後にシン・ゴジラにも搭載されます。ATフィールドも強力のため、通常兵器は効果なし。第三新東京市直上に陣取っているため、N2兵器を使うと天井都市が抜けると思われます。
 零号機は、フィードバックにまだ誤差が残っている模様。
 初号機の損害は意外と大したことナシ。この辺はまだシステムが未熟なのか、パイロットがよくダメージを食らっています。基本的には神経接続による間接ダメージのようなので、後半になるとシンクロカット等の技術が発達していきますが。生エヴァンゲリオンで少なくとも数秒の照射は耐えられるようです。覚えておきましょう。

 この使徒に対してミサトさんは、「ATフィールドを中和せず高火力狙撃ゴリ押し」という脳筋プランを立案。ただ、この作戦、本来はエヴァじゃなくてもできるんですよね……。「使徒はエヴァじゃないと倒せない」という根本の前提を揺るがしかねない作戦だと思うんですが、ゲンドウは認可。なんで?
 NERVのポジトロンライフル(後に実戦投入されます)では出力不足なので、NERVの天敵ともいえる組織、戦略自衛隊の研究所からプロトタイプを徴発。ここがミソで、ゲンドウが認可したのも恐らく、「NERV以外で使徒に対抗できる可能性がある兵器」を潰せるためであると思われます。この辺の利害対立は、次の7話でも絡んでくるところです。
 ちなみに徴発のくだり、新劇だとミサトさんのコネということになっています。謎が多い存在ですねミサトさん……。

ミサト「可能な限り原型を留めて返却するよう努めますので」
 と言っていますが、このポジトロンライフル、22話でも出てきます。あの……ちゃんと返したんですよね……? 返したと信じたいけど、ミサトさんだしな……。努めますとは言ったが返すとは言っていない。

 重機代わりに使われる零号機。初出撃がこれなんですけどいいんですか?
 しかし、使徒を貫くには一億八千万キロワット(180 GW)の電力が必要。そんな電力をどこから?
ミサト「決まってるじゃない。日本中よ」
 常なる人の発想ではない。現実世界だとだいたい、2010年のピーク時供給力がたしか一億七千万キロワットくらいだった筈。
 いいセンいってますが、この世界だとセカンドインパクトで人口が半減、沿岸部が水没(火力・原子力が壊滅)していることを考えると、かなり過大な供給力という感もあります。セカンドインパクトの影響で常夏だから、冷房需要が大きいのかな……
 まぁ、エヴァの世界はイフ世界なので、初期の企画書によると核融合が実用化してるみたいですし(N2リアクターもある模様)、なんとでもなるのでしょう。

 超電磁コーティングされたSSTOの盾。17秒は持つそうです。新劇だとエヴァ専用装備でしたが、テレビ版はDIY感あふれる覗き窓がついています。
 そして、命名&発令、「ヤシマ作戦」。

 ちなみに、さっき発電量のくだりで2010年のデータを出したのもちゃんと意味があります。2011年の東日本大震災において、東京電力福島第一原子力発電所を筆頭に東日本の発送電設備が大打撃を受け、電力供給量が大幅にダウンしました。その時、計画停電や節電に対する非公式のキャンペーンとして、エヴァの「ヤシマ作戦」の名前が使われました。
 良い作品は時を越え、時に現実すらフォロワーにしてしまうことが往々にしてあるものです。それは善きにつけ、悪しきにつけです。
 閑話休題。

 シンジくん回復。ミサトさんはノリノリですが……
リツコ「でも彼、もう一度乗るかしら」
 当然の疑問。
ミサト「二子山決戦、急いで」
 スルーするなし。

 シンジのところにお見舞いに来るレイ。前話のくだりがあるので、ミサトさんあたりが気を回したんでしょうか? ……いや、でもミサトさんだしな……
レイ「寝惚けて、その恰好で来ないでね」
 ジョークも言えるレイ。いや、本人が家を裸でうろつく裸族っぽいのでジョークじゃないのかもしれませんが。前話で裸を見て、今度は裸を見られる辺り、因果応報感がありますが。

シンジ「また、あれに乗らなきゃならないのかな」
レイ「ええ、そうよ」
 無慈悲。レイにとっては、「エヴァに乗ること」が当たり前のようです。まぁ、シンジくんはいきなり実戦に放り込まれてるので、だいぶ前提が違います。
レイ「じゃあ、寝てたら」
 これ、多分重要な台詞で、レイがシンジの事情を聞いて「エヴァに乗らないこと」に理解を示したシーンと思われます。レイはエヴァに乗るのが絆だから乗る。シンジは違う、エヴァに乗ることが辛い。
 なら、エヴァに乗らなきゃいいじゃん。という、ひどく当然の発想。当然なんですが初めてのことなので、シンジもびっくりしています。一応、家出回のトウジ達の「どういう決断をしても肯定する(なんも言われへん)」の流れがあるので段階は踏んでいますが。
レイ「さよなら」
 ここの「さよなら」も解釈が別れるとこです。
①単なる別れ際の挨拶(また後で、みたいな器用なことは言えないので)
②シンジがエヴァを降りたらもう会えなくなるので「さよなら」
 どっちかな……

 夕陽の黄昏の中、友人たちの歓声に見送られて出撃するエヴァンゲリオン。まるでエヴァがロボットアニメみたいですが、これもシンジのこれまでの積み重ねあってのものでしょう。
 増設された変電所。全てが間に合わせですが、それでも作戦は進みます。
リツコ「これは、シンジくんと初号機のシンクロ率の方が高いからよ」
 さっきはフィードバックに誤差がって言ってませんでした? と言いたいところですが、ものは言い様。ここはシンジくんをヨイショしておくのが正解です。
シンジ「まだ練習してないですよ」
 さっきまで寝てましたからね!! そりゃね!
 普通に考えれば訓練時間がとれるレイの方がマシだと思うので、やっぱり機体の都合、ということのようです。今回が顕著ですが、ミサトさんの作戦はだいたいぶっつけ本番一発勝負です。
リツコ「今は余計なことを考えないで」
 だそうです。
 レイの役目は初号機を護ること。

 雑な作りの更衣室。まぁ、お互い裸を見た仲ですけども、もうちょっと何とかならなかったんか。
シンジ「これで、死ぬかもしれないね」
レイ「どうしてそういうこと言うの」
シンジ(無言)
レイ「貴方は死なないわ、私が守るもの」
 レイは自信たっぷりです。エヴァに乗ることを当たり前だと思っているし、まだ初陣ですからね……。実戦経験はシンジくんの方が豊富なのです。
 あと、ここのシンジの発言も覚えておきましょう。

 日本全土の明かりが消えるシーン。大陸側の海岸線も結構形が変わっている様子。
シンジ「綾波は、何故これに乗るの?」
レイ「絆だから」
シンジ「父さんとの?」
レイ「みんなとの」
 そして、他に何もないと語るレイ。
 レイの出自は前回話した通りですが、親も兄弟もなく(自分の複製体はいっぱいいるけど)、天涯孤独の身の上。中学校に行くものの友達も居らず、エヴァに乗ることが全ての彼女の前で、シンジくんはエヴァに乗ることを軽んじたわけです。そして、父親との絆も軽んじた。それが、レイの逆鱗に触れていた……というのが、前回のビンタの答えだと思われます。
 あと、絆なのは「みんなとの」ということで、別にレイにとってもゲンドウが特別ではない、ということの様子。これは、恐らく後々のシンジの行動で強化されたことでしょう。
 ここでも「さよなら」ということで、どうも①みたいですね……。

 日本中のエネルギーを託されるシンジくん。ミサトの「がんばってね」にも、もはや微塵も動じません。何をどう頑張るのか、明確だからでしょう。
 レイは今回が初陣ですが、シンジにとっても、今回は初めての真っ当な戦場と言えるかもしれません。

 スパークする変圧器。煙を吹くケーブル。そして、ラミエルの砲撃と相殺する第一射。
 ポジトロン(陽電子)はプラスの電荷を帯びており、同じく帯電している加粒子砲と激突した場合、互いに影響し軌道を捻じ曲げることになります。
 ……ちなみに、大気中だと陽電子はすごい勢いで対消滅して崩壊しますが、まぁこれは今回置いときましょう。空想科●読本でも突っ込まれてたし。一応、解決策とかも思い付かないことはないですが、それだけで「いわ新」が一回潰れるので、泣く泣く省略します(※どうしても気になる人は……拙作『黄昏のブッシャリオン』を読んでね!(宣伝))。

 そういえば、エヴァの企画書時の設定では使徒の動力源は「陽電子機関」だったんですよね。それを踏まえると「陽電子砲」の意味も当時は違ったのかもしれません。

 さて、「今は余計なことは考えないで」と言われていた「余計なこと」が起きてしまったわけですが、それでも第二射の準備をするシンジくん。間違いなくスーパーパイロットでしょう。
 そして、身を挺して初号機を護るレイ。

 第二射は、ラミエル射撃中にも関わらずまっすぐ飛んで当たります。ラミエル炎上&ドリルも停止。ドリルの先端、ビームだったんですね……

 そして、シンジは自分を守ったレイを助けるため、ハッチをこじ開けます。奇しくも、ゲンドウと同じ構図です。
 泣いているシンジ。
シンジ「自分には他に何もないって、そんなこと言うなよ」
シンジ「別れ際に『さよなら』なんて、悲しいこと言うなよ」
 名シーンですが……お前、さっきまで「これで死ぬかもしれない」とか自分で悲しいこと言ってただろ!!!!
 あと、「さよなら」は普通に再会できると思われる状況でも使ってたので、別に悲しいこと言ってるわけではないです。

 ……えーと、まぁ、家出回でのトウジとのやり取りと同様、他人の好意・献身によって自己評価最低のシンジくんがバグった、というのが、この辺の本当のところなのではないでしょうか。
 でも、ここでシンジくんが泣いているのはとても大事なので、後々まで覚えておいてください。

レイ「なに泣いてるの?」
 びっくりした顔のレイ。意識を取り戻したら、他人のエントリープラグに頭突っ込んで同僚が号泣してたら、それはこうなります。
レイ「ごめんなさい、こういう時どういう顔すればいいかわからない」
 これ、本当にどういう顔すればいいか分からない、というより、「シンジをどう慰めたらいいかわからない」という文脈ですよね……。
シンジ「笑えばいいと思うよ」
 この言葉に、ゲンドウ(めっちゃいい笑顔)とシンジを重ね、何かに気付くレイ。そして、微笑むレイ。
 さて、ここで前話を思い出してください。そう、ゲンドウと笑いながら話していたレイです。つまりこれは、「ゲンドウだけに向けていた微笑みを、ゲンドウとシンジを重ねてシンジにも向けた」、というシーンなんです。
 つまり、重要なのは「レイが笑った」ことではなく、「シンジが笑みを向けられたこと」なんです。
 そしてシンジの行動は同時に、レイにとってもゲンドウは特別な存在ではなかった、ということを示しています。

 このシーンの読み解きの参考として、公式が出している新劇エヴァのあらすじムービー「これまでの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』」(現在EVA EXTRAアプリにて配信中)でも、「過酷な運命を背負った少女の姿は 閉ざされた少年の心を開いた」と明言されています。

 ……エヴァンゲリオンの特徴として、このように「名シーン」として取り上げられる場面でも、読解によってほぼ真逆に受け止められるシーンが多々ある、ということが挙げられるでしょう。ちなみに、まだ序の口です。

 さて。これで「新世紀エヴァンゲリオン」の物語は一区切りを迎えた、と言えるでしょう。
 シンジくんはエヴァに乗って初めて一緒に戦う仲間ができた。戦う意味はまだわからないかもしれないけれど、自分に好意を捧げてくれる人がいることを理解し、心を開くことができた。
 レイも、親しくしていたゲンドウが別に特別な存在ではないことに気付けた(この時点で、ゲンドウの計画は半分くらい崩壊している気がします)。

 レイについてのストーリーはここでほぼ消化。後に1話で壮絶なシンジ攻略RTAを繰り広げて散る存在が出てきますが、実のところレイもスポットライトが当たっているのはここ2話くらいでこの進み具合です。
 これにて大団円。LRS(※古語)大勝利! 新世紀エヴァンゲリオン・完。
 そういうわけで、次回からは新番組、重工業ジェットアローンがはじまります。

 ……23話? 「Rei Ⅲ」? なんのことでしょう……?

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