最後


そうして1ヶ月が経過した。


夏も本番に差し掛かり、蝉たちは命をこれでもかと燃やしている。死んだふりをするのだけはやめてもらいたい。できれば最期まで木にくっついていてください。

彼女は、こんなに暑いのに、そんなこと気にも止めるでもなく夏という季節を満喫しているようだった。
その姿は、まるで夏に全てを賭ける蝉のようだった。こんなこと伝えたらきっと怒られる。


だが、その姿を見ていると夏も悪くないと感じてきた。


彼女は本当に凄いと思う。
どんな時でも楽しむことを忘れない。しかもそれを周りに伝染させる。

そんな彼女だから、僕は大好きなんだ。


浴衣、買いに行こう。


彼女が言うように浴衣は気分を上げるだけのものなのかもしれない。でも、気のせいかもしれないけど、彼女の少しでも悲しむ顔は見たくない。

僕はとても未熟な人間だ。
僕がどれだけ彼女を好きでも、愛想を尽かされるかもしれない。それでも精一杯この人を大切にしようと思った。


この浴衣を、僕が買う最後の浴衣にしよう。
毎年これを着て、彼女と夏を満喫しよう。

彼女の笑顔を見て僕はそう誓った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?