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しみしみ、ほろり。/1002 ほの花

食欲の秋・・・本当はみなさんにも食べていただける美味しいものをシェアしたかったが、食について思いを巡らすと、たどり着いたのは、私の祖母のナオミ(一応仮名ということにしておく)の料理だった。みなさんが絶対に食べられない味。対極になって申し訳ない。
秋の涼やかな風がより一層、郷愁を誘うのだ。

ナオミとは、実家で同居していた(形態としては2世帯)。手先が器用で、料理も、裁縫も得意。私にちゃんと遺伝して欲しかった。裾直しなんてチョチョイのチョイ。私が小さい時は、母がお気に入りの布を買ってきたら、夏のワンピースを縫ってくれた。ナオミの部屋には年代物の足こぎミシンがあって、新学期に小学校に提出する雑巾を作るために、家のボロタオルを縫わせてもらったりした。(今は雑巾なんて100均とかですぐに買えちゃうもんなあ)
料理も、多分作ることが楽しい人なんだと思う。自分自身は歳もとって素食だが、作っては子世帯にせっせと料理を届けてくれる。なので夕食は、母の料理と祖母の料理が並ぶ。年齢的にも、作るもののテイストが違うので、被らないし、飽きなかった。子どもは煮物をあまり好まないイメージがあるが(うちの弟がそうだった)、私はそのおいしさに早くから気づいていたので、小さい頃から祖母の料理をモリモリ食べて育っている。
実家を離れ、そんな祖母の料理を食べられることが日々の当たり前でなくなってから、しばらく経つ。実家を離れて歳を取れば取るほど、祖母の料理が生きる力となって私の身体を構成している割合はどんどん小さくなっていく、その事実は切ない。しかし、記憶には残っている。香り、味、食感。
その記憶を頼りに、なるべく伝わるようにと努力をして、ナオミの味3選をご紹介。


天ぷら

世の中の天ぷらで必須の評価項目である「サクサク感」はあまり持ち合わせていない。けど、どの天ぷらより、優しい。
その秘密は、ホットケーキミックス。うちのばあちゃんの天ぷらは、天ぷら粉にホットケーキミックスを使っているらしい(inしている作業工程はちゃんと見たことがないが)。程よい甘みとしっとり感。中の具材は色々あるが、あの衣と一番相性がいいのはサツマイモだと思っている。ぶっちぎりで1位。そのままでもあまみがあって美味しいが、天つゆよりも、カゴメのとんかつソースが合う。


かぼちゃの煮付け

世にかぼちゃ料理はあまたあるが、「かぼちゃ」と聞いて、私の口の中に広がる味はあの、醤油ベースの、ほろ甘いかぼちゃの煮付けの味だ。出汁にひたひた、というよりは、かぼちゃのほっくり感が最高潮に生かされている、どちらかというとほろろねっとり系。煮物の塩気を引き算して、何かひとアレンジを加えれば、何かスイーツにでも展開できそうな。
したがって、汁物がないとちょっと食べづらいところはある。だけどそれも、愛。


里芋、ぜんまいを中心とした煮物(正月ver.)

わが家(実家)には、有名店のお取り寄せや、年明け前から念入りに作り込んだ重箱に入ったような、派手なおせち料理を食べる風習はない。
海寄りなので魚で出汁をとったお雑煮(この味がとっても好き)、伊達巻、黒豆、紅白かまぼこ、栗きんとん、昆布締め、、、諸々。ベタなやつらが勢揃い。安心の顔ぶれ。東向きの部屋で、家族揃っていただく新年の朝食は、1年で365回いただく朝食の中で、一番平和を感じる。(東向き、と言ったが、まあ冬晴れが珍しいエリアなので、初日の出が見られる確率はかなり低いのだが。)
そのお正月メニューの横に並ぶのが、ナオミ渾身の煮物の盛り合わせである。正直言って、他のどの正月メニューよりも仕込みに時間がかかっている(と、想像している)。年が明ける前から、出汁を取り(昆布メイン)、ぐつぐつ煮込まれ、いったんさむ〜い廊下で寝かされ、きっとその間に味がしみしみになる。そして、新しい年がやってくる。煮物たちも、新年を迎えるのを心待ちにしているのだろう。
煮物の具材はというと、里芋とぜんまいが主役である。脇を固める、大根と昆布。年明け前から仕込まれただけあって、本当にどの具材も芯にまで味がしみていて、やさしい。食感も、ほど良くやわらかい。
この煮物は、私のいとこたち(つまりはナオミの孫)も大好きで、お正月に親戚が揃う場でも振舞われる。テイクアウトも可能。そこを見越した量で、仕込んである。
煮物は、お世辞にも見た目に華やかさはない。人参が、文字通りの「紅一点」なくらいだろうか。だけど、わが親族みんなの心を掴んで離さない、ここに帰ってきたくなる味なのだ。

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この味は、かなり高い、自然な確率で、私が生きているうちの「いつか」、食べられなくなる。
悲しいけれど。
だから、何度かその味を習おうかとも気持ちだけ試みたが、もともと私が特に料理を得意ではないのと、絶対に同じ味を再現できるはずがないのとで、諦めて、現在に至る。
その分、食べられる間の時間を、全力で愛おしもうと思う。

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2021年の元旦は、別に初日の出を見たいだなんて贅沢は言わないから、どうかあの食卓をみんなで囲んで、平和に里芋を頬張れますように、と切に願う。
ただ、それだけ。


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