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夏の色/0814針金鳥

 人肌よりも温い風は水気を含んで重く、肺が上手く膨らまない気がする。どんどんと丸まっていく背を、思い出したかのように伸ばして深呼吸をするばかりが、夏だ。昔はこんなに暑くなかったように思うのだが、今や外で遊ぶのも危険な季節になってしまった。ニュースで繰り返し流れる、熱中症に気を付けろという文字は今日も赤い。

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 青々とした空に、真白い雲。日差しは刺すようにきつく、影が濃い。それを受けた花も野菜も確りと強い色ばかりで店頭に並んでいる。トマトの赤は太陽の暑さを思い出させ、胡瓜の瑞々しい緑は色濃い。茄子の深い黒にも見える紫は影のようだし、作り物めいたパプリカの黄色と赤は元気あふれる子供の玩具のようだ。
 外に出れば背を伸ばす向日葵だって、緑の葉っぱに黄色くて太陽みたいな花が全開で咲いている。道路脇に植えられた木々も青々と濃い緑で、そのまま見上げれば空の色とのコントラストが激しい。アプリで彩度をきつくしたような、はっきりとした色味の主張は眩しい。
 色の主張が激しくなれば、夏がやってきたのだと思う。ありとあらゆる色が濃く、鮮やかなのだ。色彩とコントラストが美しい世界は、力強さと生命力に溢れている。心の底がワクワクと落ち着かなくなり旅に出たいなと思いつつ、まぁ大抵は暑さと日差しに負けて死ぬのが常ではあるが。

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 両親が旅行の好きな人達なので、子供の頃はよくキャンプだなんだと夏休みには出かけていた。川遊びが好きで、網を片手にメダカだとかヨシノボリを捕まえるのが楽しかった。ずっと川を覗き込むものだから、一日経つと背中が焼けてべりべりと皮がめくれてしまった。水を至近距離で見ているぶんには、眩しさを感じることはない。楽しくて、子供の頃は旅行の楽しみはいつもそれだったように思う。

 暑さも日差しも、嫌いではない。楽しい思い出もある。が、どうにも疲れてしまう。何もせずに眺めるぶんには、光が強すぎるのだろう。今はもう春から秋の初めまで、直射日光の下にいると小一時間ほどで伸びてしまうので、出来れば外に出たくない。エアコンは偉大な発明だなぁと部屋に閉じこもっていたい。
 しかし外に出ないと、ストレスが溜まる。生き物の匂いがする重く湿った空気といえど、新鮮なものは閉じた部屋では得難いものだ。よって、日傘とサングラスを片手に出掛ける他無い。昔はこんなものいらなかったのになぁと、薄らと暗く、どこかノスタルジックな色した視界でぼんやりと夏の色を眺めていた。

 そんな夏ばかりを、最近は味わっている。



お知らせ
8月いっぱいまで展示をしています。よろしければご覧ください。

針金鳥個展「未知に発つ」

https://twitter.com/hariganedori/status/1277443113309462528?s=21

古書Gallery月(東京・月島)http://www.koshotsuki.tokyo/
[予約制]
月・木・金 15-21時
土曜日  11-21時
日曜日  11-19時
※火、水曜日は休廊

ご予約は、ご来廊ご希望日の前日21:00までにギャラリー様へメール、TwitterのDMにてご連絡をお願い申し上げます。
Email : kosho.tsuki@gmail.com

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