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人生をともに歩む1冊/0913 陽風

 読書の秋ですね。9月のお題は本ということで『永久保存版な1冊』、つまり「人生をともに歩んでくれる1冊」ということですよね。好きな本、影響受けた本がたくさんあるので1冊を選ぶのは難しいけれど、それでも強いて選ぶらならば『ゲド戦記Ⅰ 影との戦い』(アーシュラ・K・ル=グウィン)を挙げたいと思います。
 幼少期の絵本に始まり、児童図書やジュニア小説、児童文学、SF小説、外国の名作...と子どもの頃から本が好きで順調に読み進んで育ち、そんななか中学生になって出会ったのが『ゲド戦記』シリーズでした。この物語の何が特別なのか。それまで読んできた物語の主人公たちはいわゆる「イイもん」要素たっぷりで、「ワルもん」と戦ったり、どちらかというと清く正しい思想を漂わせている物語が主で、物語とはそういうものだと思っていました。なのに、『ゲド戦記』の主人公ゲドは自分の魔法の能力を過信する傲慢な若者として登場して魔法学院の仲間への妬みや憎しみの心から禁止されている死者を呼び出す魔法を使ってしまい、破られた天地の裂け目を守るために学院の大賢人の命が犠牲になり、自分も大怪我をし、この時に一緒に呼び出してしまった影から追われることになります。(読んでない方、内容書いてしまいます。ごめんなさい)
 私の当時の本の楽しみ方として、物語の世界に入り込んで一緒に冒険した気になったり、わくわくを味わうのが醍醐味のひとつだったのに、この本は読み進めるのがどきどきして苦しくて、、。
 自分の誤ちを認め、学院を出て魔法使いとして歩み始めながらも影から逃げ続ける日々を送っていたゲドは、ある時、魔法の師匠の助言に従って影から逃げるのではなく逆に影を追って対峙することを決意します。そして、ついに影を追い詰めたゲドは影を自分の中に取り込みひとつになるのです。
 多くの物語は自分に影(闇、悪、邪、負の自分と言い換えてもいい)の部分をみてとれば、追い出そうとしたり、戦って勝とうとしたりしますが、『ゲド戦記』はどちらでもなく、影も自身を構成するものとして融合し完全な自分になる。それまでに経験したことのなかったストーリー展開に私は驚くとともにとても共鳴しました。自分の中にある影の部分が、その存在を許された気がしたのかも知れません(悪いことや嫌なことをしてもいいって意味ではなく、、)。
 光と影、生と死、破壊と創造、、、自然の摂理として、あらゆるものは両極が同時にあると思います。私の中にも善を希求する心と邪悪な心が同時にあり、それは、実は結構危うい線上で理性と感性(感覚)が均衡を取りながら自分を生きているのではないかという、そんな人生イメージが私にはあるのですが、ゲドの物語は、私の中の影を意識させる存在としてずっと心の中にある気がしています。その気配は私の人生のステージに合わせて小さくなったり大きくなったり変化しますが、時々「いま、自分は均衡を保てているか?」と訊ねてくるのです。「闇の方へ引きずられない自分でいるか?」と。
 思春期だった自分のアイデンティティ形成に深く影響し、30年以上経った今も大事な1冊。(Ⅱ以降の物語も読み応えあり、大好きなシリーズです。)きっと、死ぬまで一緒に生きていく物語になると思います。


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