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知識の記録方式(31) 承認・保留・問題

 グローバルな人材流動においても、常に知識は企業の財産として保有しつづけ、管理されるような取り組みをすべきであると考える。企業の管理者は目前の問題解決、業務遂行に関心はあるが、その問題を解決した材料やデータ、業務遂行に活用した知識などはその個別問題と業務の完了と共に失われることに関心を示していない。
 その問題が再発し、類似業務の遂行の必要がある時には、その知識を持つ担当者を探して、その過去の振り返りを行う。Know-whoという言葉がエンジニアの中で語られ、IT化にあたり、Know-whoが分かればよいという意見も聞く。人は異動することを考えれば、このような仕組みに効果がないことは言うまでもない。
 Know-who依存したエンジニアリングこそを抜本的に改革する必要がある。上位の管理者であればある程、エンジニアリングの全体を把握する必要がある。その細部が人に依存し、あるいは外部の企業に依存し自社の製品が生産されていることに心配を持つのが普通の感性であるはずだ。
 国内で良い品質のものが納入される前提で、企業の仕組みができているが、グローバル生産において、良くない品質のものが納入される前提で企業の仕組みを構築する必要がある。
 これまで、日本の企業は、ものづくりが不安定になる可能性のあるポイントを管理することで、製品の品質を維持してきた。これからは、原点に戻り、ものづくりで守るべき品質の整理と明確化が求められる。海外の地域、企業の持つ固有技術のレベルにより、品質管理対象は適切に選択されなければならない。
 多くの優秀なサプライヤに支えたれた国内生産と全く異なる意識が必要である。品質の問題が発生すると、何故その問題が発生したのかを、改めて1から調査し直すことが必要な仕組みではグローバル生産は不可能である。常に、守るべき品質と守らなければなにが問題となるかを共有する生産運営でなければならない。
 では、この共有をどのように実現するかである。製品が生まれるプロセスにおける知識を蓄積するが一番効率的である。製品設計、解析、実験、生産技術などのどの組織機能のエンジニアであっても、最終製品の品質、性能に問題は無いかという視点でものの構造や加工法を考えている。
 その考えている中には、従来と同じであるので、大丈夫であるという承認と、少し、従来とは異なるので判断ができないという保留と、このままでは問題であるとはっきり言える問題との3つに頭の中で考えているはずである。
 保留と問題は解決をしなければならない点であるので、課題管理などのシートに記載され、マネージメント対象になる。しかし、承認はどこをだれが承認しているかの記録はされず、設計完了後に改めて、自工程が必要な加工や作業をリストアップすることから仕事をスタートさせている。
 この暗黙の承認は海外の生産には通用しない。海外の生産の場合には、この暗黙の承認を含めて、共有しマネージメントする必要がある。つまり、国内では問題なく生産加工できることであっても、海外の現地メーカではその生産加工の経験が薄い場合があるからだ。
 出図した図面に対して、現地メーカの経験が薄い箇所はどこであるかを事前に知ることはできない為、設計側が守るべき品質の全てを現地メーカに示す必要があるからだ。実は、この事は、国内のエンジニアにも有益な知識となる。
 これまでは基礎的な知識はエンジニアがOJTで獲得している。管理も問題点の管理が主体であるので、問題だということは言いやすく、問題なく可能だと宣言する承認はベテランでないと難しいのである。
 したがって、承認点を共有することはエンジニアが問題ないとの判別の事例と理由を知ることができ、一人では経験のできない多くの判別の事例と理由を知識として身に付けることができるのである。問題であることを知っている知識と問題でないことを言える知識とは知識の範囲が異なり、それぞれを身に付けることで、より深い知識を身につけることができることになる。

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