FCFの計算とCF計算書の見た目は違う?
株価評価には"標準化"FCFが重要
M&Aや戦略投資は、財務諸表でいえばキャッシュフロー計算書の投資キャッシュフローの中に入っています。なので、上の図で投資キャッシュフローとM&Aが別々になっているのはおかしいという指摘はごもっともです。
しかし、FCFを企業価値評価に使うには、それが"標準化されたもの"である必要があります。毎年恒常的に発生するものを見極め、ワンオフ(一過性)のものを弾かないと、将来予測には使えません。
もともとはこんな見た目になっています。これを、1コ上の形に組み替えています。くらべてみてください。2つのことに気づくと思います。
①戦略投資が後回しになっていること
②負債返済と、現金の次年度への持ち越しが1つにまとまっていること
①なぜ戦略投資を後回しにするのか
FCFの計算過程は、戦略投資が後回しになっています。これは、戦略投資は往々にして繰り返さないからです。数年に一回しかないこの支出を恒常的な支出だと認識してしまうことは明らかに問題です。
上のグラフから、6年目のFCFを予測するためには、
1)5年目のFCFが少なかった原因であるM&Aが単発であること
2)1-5年目のビジネスモデルと外部環境が、6年目も変化がないこと
を確認する必要があります。1は決算発表資料や決算短信に答えがあります。2は、継続性の確認です。過去は将来を保証しませんが、強く暗示します。
この例では、1-4年目のFCFは、すでに標準化されています。1)の作業は5年目を標準するためのリサーチですが、そのおかげで見た目がきれいになり、「この会社は安定していて、常にFCFを成長させている会社だ」と目で見て納得できるようになります。
キャッシュ・フロー計算書の項目をそのまま使うと、このきれいなチャートを書くことはできません。これが標準化が必要な理由です。
ここでは、簡略化のために戦略投資を例に説明しました。しかし、基本的に、繰り返さないものや、本質的ではないアイテムは、分析者の責任において取り除くべきだと思います。
②負債と純負債
1番上の図では、負債返済と持ち越しが合算されて、次年度へ持ち越しになっています。これは、現金と有利子負債を合算(相殺)して、「純負債(Net Debt)」として考えるといろいろと便利だからです。
たまに勘違いしてしまうのですが、手持ち現金でどんなに借金を返済しても財務はきれいになりません。ネット(相殺後)で考えると、借金は減ってないからです。負債と現金をセットで考えていいということです。したがって、手持ち資金で負債を返済することと、そのまま現金で持ち越すことは実質同じなのです。特に金利が極めて低い今のような環境だと、借金を積極的に返して手元資金を失うことのデメリットもありますので、現金は残りがちです。
ちなみに、日本では負債/資本比率で財務の健全性を測るケースがまだ主流です。しかし、負債水準をコントロールするという概念が当たり前の欧米では、よりダイナミックな純負債/利益比率(NetDebt/EBITDA ratio)でみます。「純」負債が、「利益」に対してどれくらいあるかを評価します。収益性が高ければより大きい負債が許容されます。手持ちの現金も当然考慮されます。基本的にはいつでもそれで借金を返せるので、仮で返したとして計算するのです。負債だけを見ても、財務構造は見えてきません。
まとめ
この順番でキャッシュフローを考えることで、経営者の視点に立つことができます。今年のビジネスからFCFがのこりました。それと前年度までで貯めたキャッシュフローの中から、次年度以降の事業展開や、現在の事業環境・金融環境を考慮して、資源を配分します。ここでの決断の質が数年後に効いてきます。
そして重要なことは、DCFで使うFCFは将来のCFです。過去をどう解釈するかで将来予測に差が出ます。標準化フィルターをしっかりかけて、質の高いFCFを見ながら将来を妄想しましょう。