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【DCFのキホン⑥】成長がない場合のディスカウント計算

1年先の100円の価値

まずこちらの内容を思い出しましょう。最初にディスカウントを取り上げたことを猛烈に後悔しています。結構しっかり書いちゃったから、、、改めて内容を整理すると、

①将来のフリーキャッシュフローには「リスク」がある
②したがって、リスクに見合うリターンを要求する必要がある
③その際、金利を高く設定するか、(リターン金額が固定される場合)安く投資する、の2通りのリスクの反映方法がある
④適正株価の算出には後者の方法をとる(将来のFCF予想を、固定されたリターンと解釈するため)
⑤安く投資した度合いをディスカウント幅と呼び、年率で表したものをディスカウント・レートと呼ぶ(その意味合いから、要求利回りや期待収益率も同じ意味で使われる)

ということでした。キャッシュフローリスクの意味について少し掘り下げて解説しているのでこちらも参考にしてください。

さて、収集した情報から
A)1年先のFCFが100円であること
B)リスクを検討した結果、8%のディスカウント・レートが妥当であること
を結論づけましたとします。

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ここで注意が必要なのが、現在の価値は92ではないことです。「8%ディスカウントする」であれば92かもしれませんが、「8%ディスカウントする」だと92.6になります。計算式は100/1.08です。ディスカウントレート=要求利回りのイメージは、投資金額Xが、1年後に8%増えないなら投資しない(8%のリターンを要求する)ということです。(1+8%)を掛け算したときに、ちょうど100になるようにしたいので、100 ÷ (1+8%)にすればいいわけです。

このように、ディスカウント=割引は、読んで字のごとく、対象となるCFを「割って」計算します。

2年間になったら

2年間になっても話は変わりません。

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85.7を年利回り8%で2年間運用します。2回運用するイメージで、
85.7 ×(1+8%)×(1+8%)=100 という増え方になって無事100にることを確認しましょう。85.7のところが分からなければ、100 ÷(1+8%)÷(1+8%)で計算できます。

3年モデルを計算してみる

ここまでは、「1年分」のFCFを「複数年分割引く」方法をみてきました。
少し発展させて「3年分」のFCFを「現在まで複数年分」割り引いてみましょう。

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1年後の100円の現在価値=100 ÷ 1.08       = 92.6
2年後の100円の現在価値=100 ÷ 1.08 ÷ 1.08            = 85.7
3年後の100円の現在価値=100 ÷ 1.08 ÷ 1.08 ÷ 1.08 = 79.4

これらを合計すると、257.7です。将来のFCFは300あったはずなのに、目減りしてしまいました。これが割引のパワーです。あなたが、8%の利回りが必要だと決めたので、それぞれの年のFCFが、利回り8%でちょうどそれぞれの年で100になるように「現在時点での」価値を計算しますから、遠い未来の100円は何年も運用された後に100円になるわけです。よって、現在時点では小さい金額でも将来100円になります。

遠い未来の100円の価値 < 現在の100の価値

永久モデルを計算してみる

ちょっと誇張しましたが、上図の左側の積み上げている棒グラフは、上にいくほど寄与が小さくなっていきます。これがどれくらい小さくなっていくか示したのが、下のグラフです。年がたつごとに影響力がなくなっていきます。

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ここで、無限回ディスカウントすると0になってしまいますから、このグラフのいきつく先は0ということです。ということは、100円のFCFが永久に続く場合も、どっかでその合計値には終わりがくる=足しあげることができる。ということになります。エクセルでパワープレーしてみましょう。100年分を足しあげてみます。

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どうやら1249.4ぐらいまでは積みあがるみたいです。しかし、100年目の100円の現在価値は、0.0455円しかないので、もうこれ以上はほとんど動かなそうです。

さて、エクセルがない場合はどうしたらいいでしょうか。正直別にエクセルでやっつけてもいいと思いますが、念のため算数のテクニックで、ピシッと計算できる方法を書いておきます。これはいろいろなサイトで解説されているので、証明等はそちらを見てください。

永久に続くFCFの現在価値の合計=1年目のFCF ÷ ディスカウントレート

で計算できます。100÷0.08=1250ですね。さすがエクセル。あってました。しかし、ここで重要なのは、実際の計算方法だけではありません。

FCFの価値は手前の方が高い=設備投資等で「今」使うお金は非常に重い

これを理解していない会社は未だに多いです。DCFの面白さの1つは、この「重力」ともいえる遠い将来のきついディスカウントです。もちろんコンサルタントや社内のプロジェクト担当者は、IRRやROIC、回収期間などいろいろな指標を計算していることでしょう。DCFの枠組みであれば、簡単な例で「重力の恐ろしさ」が確認できます。やってみましょう。

DCFで理解する「手元のキャッシュの重み」

今、先ほどの100円を生み出し続ける会社が1年目に70円の工場投資をすることを発表しました。

これにより、現在価値ベースで92.6% × 70 ≒ 64.8円分 の価値を失いました。もともとの将来のFCFの現在価値合計は1250円だったので、株価にして5.2%分のキャッシュフローを失うことになります。

通常、投資が普通の利益水準を生み出すのに3年かかるので、3年後から7年間一定のキャッシュフローを生み出すとします。さて、いくらのキャッシュフローを生み出せば、投資の効果がプラスになるでしょうか。

ケース1 投資が失敗してまったく回収できないケース
      ⇒5.2%分の価値を無駄に使ったので、企業価値が▲5.2%下落

ケース2 7年で投資金額の70円を回収するケース
      ⇒投資金額分のFCFは取り戻したものの、現在価値ベースでは
       取り戻せず、企業価値が▲2%下落。

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ケース3 7年で投資金額の70円を大きくこえる110円を回収
     ⇒大成功と思いきや現在価値ベースでトントン。株価±0。

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ケース4 7年で投資金額70円の実に3倍、210円を回収
      ⇒現在価値ベースで超過キャッシュフローが発生。株価+4.7%。

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なお、最後のケースでは、この工場投資だけで(工場投資前にあった売上は不変、工場の利益率も投資前と変わらない前提)、10年間で売上が平均3-4%ぐらい伸びるインパクトがあります。投資金額の3倍をキャッシュで回収して、売上も大幅に増やして、それでもやっと経済価値が生まれてくるレベルです。いかにディスカウントの威力がきついかお分かりいただけたでしょうか。このような理由から、大型の設備投資をしている会社に出会ったときは以下の4つを確認しましょう。

①何を作るための設備投資なのか、メンテナンスか拡張か新設か
②投資金額/想定売上額/想定利益額などの絶対数値
③収益を生み出せる年数(いつからいつまで)
④投資前の企業と比べて要求利回りが上がるか下がるか

①-③は、リターンのイメージを描くのに必要な情報です。
①については、メンテナンスでは大きな新しい売上(ひいてはFCF)を作るのは難しいでしょうから、かなり不利です。新設で利益率の高い新製品を量産するようなケースであれば、企業価値にプラスかもしれません。
④については、かなりマニアックですが、もともと8%の要求利回りだったわけですが、この投資によってそれが変わるか気にする必要があります。例えば、この投資が非常に安定した需要に対応するためのものであれば、低い要求利回りでもいいと考えられ、ディスカウントの重力を和らげることができます。

設備投資額が大きいのに、その詳細が全くディスクローズされていない会社は地雷かもしれません。まずはどれくらいの価値を失ったのか計算してみて、それを取り返せるシナリオを描けるか確認してみるべきです。

まとめ

①ディスカウントに使うレートは、リスクを加味して自分で決める(参照
②ディスカウントレートは年率なので3年後の数値は3回割る
③1年目のFCF ÷ ディスカウントレート=永久に続くFCFの現在価値の和

次回は、FCFが永久に成長していく場合の計算方法と、架空の会社の企業価値計算をやってみたいと思います。

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