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S&P500のPERファンダメンタル分解

以前このレポートを紹介しましたが、今日はこのレポ―トに近いフレームワークを使って実証メモを作りました。

このnoteの狙い

今回は、バリュエーション公式と実際のデータを用いて、実際のSP500の株価バリュエーションを分解し、相場予測への示唆を導きます。

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まずこれが分析対象のPERです。上がり続けています。これがみんながバブルだ!と言っている理由です。でもその中身も知らずにこのチャートだけみて、株は高すぎる!というのはどうなんでしょうか。今回はこの枠組みを使います。

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この枠組みは参照先のレポートと似通っていますのでそちらも目を通してください。基本的には実質ベース(名目値ーインフレ率)で、PERを表現しており、これが正解です。

※込み入るのでここでは深追いしませんが、この形の数式(payout/(r-g))はインフレがある世界では誤っています。これは全く知られておらず危険なので別途記事にします。

元記事との違い

このnoteでは、分子に配当性向を持ってきています。こちらの方が正確です。基本的にX/(r-g)という形は、Xがg%の速度で伸びるとき、要求リターンr%で将来のX全体を割り引いた合計値を表しています。このXに利益ではなく配当を使います。DCFではFCFを使いますが配当で問題ありません。DDMってやつです。なぜ、利益ではなく配当を使うかを、両者の関係から説明します。

配当=利益ー内部留保

シンプルですが、配当は利益の一部です。そしてこの内部留保は成長のための投資に回ります。したがって会計上の利益は全額を回収することはできません。これを回収してしまうと成長できませんので、前提としている成長率gを達成できません。理論的には利益より配当を使って時価総額を計算すべきです。

時価総額=配当/(r-g)
とすると、PERを出すには両辺を利益で割ればいいので、
PER=時価総額/利益=配当/利益÷(r-g)=配当性向/(r-g)
となるのです。分母は基本的に元記事にならっていますし、理論的に間違いがないと思います。

代理変数の設定と観察

名目金利=米国10年債利回り
期待インフレ率=米国10年BEI
実質金利=上2つの差
潜在成長率=FED "dot plot"のlonger run-2%
配当性向=80%

とします。それぞれを図示するとこのような状況です。詳細な解説は詳しいブログやニュース記事等をご覧ください。長くなりすぎてしまうので。

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Dot-Plotのlonger runは長期的に経済をバランスさせる(完全雇用と物価安定を両立させる)名目中立金利ですが、これを見ると、サマーズのsecular stagnationの議論があった2013年から足元までずるずると下がっています。この推計ではインフレ目標である2%を差し引き、実質ベースにしています。

また、配当性向は現実の世界では30%程度ですが、長期の世界ではROEが15%程度であることを考えると、80%配当しても3%は成長できることになります。一旦ここでは80%を使っています。これは利益を分子としたPER計算式(元レポート)とくらべて本来あるべきPERは8割程度の水準となることを意味します。

パズルの最後のピース

これで残った変数はリスクプレミアム(Equity Risk Premium:ERP)だけです。先ほどの数式をリスクプレミアムを中心に整理するとこうなります。

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右辺はすべて判明しているので早速グラフを書いてみます。

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これを見ると、市場が株式投資に求める追加リターンであるERPは2012年以降下落を開始して、2018年には下げ止まっています。

これは驚きました。普通、この場合のERPのように、「変動要素の残りを全て負わせる」ともっと極端な動きをするものです。しかし、コロナショックによる大幅なEPSの切り下げ=PERの切り上げの影響も全くありません。

これは裏を返せば、実質金利がすべて吸収しているということです。

ここで分母にあるすべての要素を合算してみましょう。

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これはPER/配当性向の逆数です。いわゆる益利回りというやつです。私は、この数字を常に頭に入れてます。「今は3.5%か。」といった具合に市場の楽観度をリターンの形で表現してます。

ちなみに有名なYaleのロバート・シラー教授が計算するCAPE(サイクル調整後PE)は35.54xです。これは逆数を取ると2.8%です。CAPEはEPSを過去10年平均を用いることで景気サイクルの影響を平準化し、さらにCPIでインフレを控除しています。実際にファイルを見て触ってみると分かりますが、EPSの変化はほとんど影響しません。

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指数の上昇は中期的には期待薄か

日本株で今年に入ってから全く別の2通りのアングルから計算しても4.5%でした。ただ、米株ではそれが今では3.5% 近傍まで下落しているということです。日本株に換算すれば割引率6.5%-成長率3.0%といったところでしょうか。これだと優良銘柄の割引率は5%弱程度でも全然ありです。これは5%弱の金利でお金を貸すような感覚です。優良企業だったら5%弱のリターンで株を買っていいのでしょうか。まあそれは私が決めることではありません。私が決めるのは、「自分も」そのレートで投資するか。ということだけです。市場は市場です。

これを要素別に表示するとこうなります。

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実質金利がすべてをコントロールしていることがわかります。実質金利の底打ちを前提とすれば、それを打ち消すにはERPのさらなる深堀か、longer-termのプロットの引き上げが求められます。後者は短期的には動かないでしょう。ここまで横ばいのERPが3.5%水準を割ったらピークアウトへのカウントダウン開始と言えるかもしれません。

さらに、なんらかのショックでFEDに対する信認が揺らぐと、この3%も6%に向けて戻り始めるかもしれません。最悪シナリオは実質金利とERPの同時上方です。上昇幅とバリュエーションの関係は以下の通り。

1% : 3.5%/4.5%-1=-22%
2% : 3.5%/5.5%-1=-37%
3% : 3.5%/5.5%-1=-46%

EPS成長はだいたい25% と言われていますので、

1% : 1.25×0.78=97.5%(株価-2.5%)
2% : 1.25×0.63=78.8%(-21.2%)
3% : 1.25×0.54=67.5%(-32.5%)

ということで、1%の分母の上昇はもう許容できないことになります。1%とは実質金利が-0.5%からコロナ前の0.5%に戻るだけです。それ以上は、水準の大幅訂正を余儀なくされるわけですがそれはFEDが阻止する、、、と全員思っているのが怖いです。



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