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【書評】SONYフィナンシャル米株レポート

ソニーフィナンシャルホールディングス スペシャルレポート
”2021年の米株式市場 金融相場から業績相場へ移行し上昇持続 2020/12/2”
渡辺エコノミスト著

いいレポートなのでメモ用に感想を残しておきます。前提知識として2つシェアします。上の下線部からリンク飛べます。

1.このレポートはPERを予測に使うためにファンダメンタルズ項目に分解して再構成しています。なので、読めばPERの分解方法が分かります。

2.PER=1/(r-g)というタイプの数式は、EPSが成長率gで伸びていくとき、それを割引率rで現在価値にしたものを適正価値とする場合に正当化されます。これはDCFと同じ原理ですが、キャッシュフローと利益は似て非なるもので、企業価値の源泉はキャッシュフロー(FCF)です。本当はFCF/EPS÷(r-g)がPERなのです。したがってこの数式はキャッシュフロー/利益の比率の分だけPERを過大/過小評価します。

【要点】

〇PER=1/(実質金利-期待成長率)
〇財政ファイナンスで実質金利は下落
〇実質金利の下落⇒株高となる相場=金融相場
〇期待成長率やEPSの上昇⇒株高となる相場=業績相場

〇派生形PER=1/(名目金利-期待インフレ率ー(潜在成長率-信用リスクプレミアム))
〇FEDの流動性供給は信用リスクプレミアム低下と期待インフレ率上昇の両面に効く
〇おそらく金融相場は限界だが、業績相場へ橋渡しするところ(マルチプルの下落より業績の強さが勝つ相場)
〇2021年末には米GDP成長率は潜在成長率を上回る公算
〇米株はPE24倍を保ったままEPSが20%近く加速し、4300P到達が見込まれる

キラーチャートはこれです。これはかっこいい。

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【解釈と追加リサーチ】

派生形PER=1/(名目金利-期待インフレ率ー(潜在成長率-信用リスクプレミアム))を変形すると

1/(名目金利+リスクプレミアム-名目成長率)

となり、自分がいつも使っている数式に戻る。マクロの議論をするときはさきほどの式のほうが変数を取り込みやすく分析がはかどる。

個別企業を見るときは、リスクに応じた要求利回りの水準を推計すると同時に、名目成長率がいかにGDPに勝ち続けられるかを意識する。

長期の成長率は、GDP並みに落ち着くと言う人も多いが、すべての企業がGDP並みにしか成長しないという設定はどうなんだろうか。明らかにGDP以下しか成長していない企業がある一方でその逆もある。それはただ世代交代しているだけなのだろうか。私はそうは思わない。長期的にイノベーションを続ける力、築き上げた堀の中で価格決定力を維持できる会社、優れたガバナンス文化で常に新しいビジネスを興せる会社。長期的に”落ち着いてしまう”ことのない会社を探すことで、分母の右側=成長率を格上げできる。そうすると、あるべきバリュエーションが高くなる。

Damodaran先生のSP500モデルは名目成長率にリスクフリーレートの2%を使っている。要求利回りはピュアにリスクフリーレートに株式のリスクプレミアムを加えたものになる。正直、このへんの設定の仕方は分析の切り口で色々取れるが、最終的に相場予想に使おうと考えたら、両者の差が大事。すなわち、1/(〇〇-〇〇)の分母がいくつなの?という話。

渡辺エコノミストのSP500の試算は最終的には違う回帰モデルで説明されているので下記ブレイクダウンはレポート内には存在しないが、類推するに

・実質金利=▲1.2%(市場で観測可能)
・リスクプレミアム=8.5%(3%から逆算)
・潜在成長率=3%(決めの数字)

これで1/(-1.2%+8.5%-3%)=23倍になる。分母は合計で4.3%

これを自分が使っている数式に、期待インフレ率2%で変換すると

・株式要求利回り=リスク分8.5%+実質金利▲1.2%+インフレ2.0%=9.3%
・名目成長率=潜在成長率3%+インフレ2%=5%

1/(9.3%-5.0%)=23倍

納得。自分の相場観通りの数字。かねてからこの分母の引き算は4.5%を基準にしている。これは実は米株でも日本株でも変わらない。日本株は7.5%-3.0%だが。

ところで、ぐるぐる回るチャートがかっこいいので再現してみた。SP500だ。青が金融相場、緑が業績相場、赤が調整だ。

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・金融相場⇒業績相場⇒調整を繰り返しているのが分かる。
・背景によってパターンが変わる。例えばドットコムバブルだと実体が本当になかったため、真っ逆さまにPERだけ落ちた。業績はまったく回復せず。
・リーマン(GFC)は1回業績暴落後に金融相場的に上げた後で調整(EPSは低下せず)。その後、サイクルがリセットされたかのように、業績相場と金融相場が同時に到来。
・コロナは、実態の悪化が一時的であるというビューが支配的で、調整と金融相場が同時に発生。次の期のグロースを織り込みながら業績相場に移行中。

やはり鍵は、財政サポートによるEPSグロースの到達可能点と、実質金利押し上げ+信用リスク吸収の政策サポートの賞味期限。

実質金利1%上昇のインパクトは、-1.2%が-0.2%(本日で2月の底から+25-30bps)になるとして

1/(-0.2%+8.5%-3%)=18.9倍(△18% from 23倍)

EPSは比較的堅そうだが上のグラフのEPSは来年分も入ってるからそんなに1-2年の間に伸びない。190だとして190×18.9≒3600(3885pt対比-8%)か。 大した下げじゃないけど、フェアバリューが切り下がるときはアンダーシュートするリスクには注意。

米10年実質金利の推移

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コロナ前までの戻しという意味では+0.5%。道半ばか。コロナ前の水準であれば、PERは20.8倍までしか落ちない。約△10%。EPSが190まで伸びればむしろ+2%(3885対比)。

ここで、実質金利の影響を取っ払ったPERを計算してみる。(実質金利0%で固定するという意味)

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結構動く。実質金利以外のファクターがこれを演出している。中身としては、株式リスクプレミアムと成長率なのだが、結局これは投資家の楽観と景況感によるところが大きい。

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もうISM非製造業だけ見たらいいのか?重なりすぎる。ただし、株価は先行指標であるISM非製造業指数をさらに先行している。このあたりが深い。

仮説として、金融緩和による投資家の態度変化がリスクプレミアムを押しつぶしている、と思っていたが指数レベルでは、景況感の見通しが重要、という当たり前の結論に終始するのではないか。景況感が投資家の楽観度を決めるし、成長率の見通しにも慣性の法則でインパクトを与える。

ISM非製造業56ぐらいで実質金利0だと18倍、これは覚えておく。財政サポートが切れてISM巡航速度+インフレで金利先高観醸成(されるもののBEIはこれ以上上がらず)で18倍は普通に行く。そのときは190×18=3420(+アンダーシュート)を覚悟。12%-20%か。3500は当たり前に調整するとして、3100ぐらいまでの指数の下落は頭に入れておく必要がある。

おまけ

ちなみに、1/(r-g)×EPSで株価を出す方法は実は正確ではない。
利益だけでキャッシュフローを反映していない(利益=フリーキャッシュフローと想定している)ためだ。このあたりは、こちらを参考にしてほしい。

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