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対談 渡邉良重×宮田識 /「渡邉良重の原点、そしてこれからも続いていくもの」後編

(この記事は、2021年11月5日にD-BROSの公式HPに掲載したものです)

話は、良重さんがいつからカレンダーを作り始めたのかという話題へ。

渡邉 私がD-BROSに参加するのは1997年なんですが、カレンダーはまだD-BROSの商品になる前に、ドラフトの中でカレンダーのコンペをやってたんですよね。やっぱり広告の仕事をやっていると自分の表現っていうのをそんなに出す場もないから。カレンダーのコンペは投票して決めるので、私絶対作りたい!と思って。最初の年は、私が選ばれて作ったんです。それで2年目も作りたいと思ったんですけど、私には票が入らなかったんです。票が入らなかったけど、宮田さんが「これも作ろうか」と言って、作らせてもらったのがカラペのカレンダーです。

カラペというトレーシングペーパーに類似する薄い紙を重ね、色の美しさを追求したカレンダー。紙がとても薄いためオフセット印刷では対応できず、シルク印刷で一枚ずつ丁寧に刷り上げている(『Paper Talk』1997年ADC賞受賞)

宮田 あのカレンダーはものすごく出来が良かったね。

渡邉 でもカレンダーとしては、なかなか……。すごく薄い紙でつくったので繊細で商品としては。

宮田 でもあれは、買わなきゃ損だったと思うよ。

渡邉 それをきっかけに1997年からはD-BROSとして毎年作り始めたんです。最近2年くらい作ってない年があったんですけど、それまでずっと。2つ作った年もありました(笑)。

宮田 あはは。表現の欲が深いから(笑)。

渡邉 『ブローチ』という絵本になったカレンダーがあるんですけど、その年はたくさん絵を描きたくて。

宮田 僕が「日めくりにしたら?」って言ったんだよね。

渡邉 そうでした? それで、「そうだ、日めくりにしたらたくさん絵が描けるんだ」と思って、最初は日めくりを考えました。でも、それはあまりにもコストがかかり過ぎてできなくて、週めくりカレンダーにしたんです。そのあと絵本にすることもできて、私の中では記念すべきカレンダーになりました。 

2004年カレンダー『BROOCH』

宮田 あれも贅沢なカレンダーだったね。

渡邉 ホントに。今思い返してもD-BROSでいろいろと実験的なことをさせてもらって、だから今でも自分のこれまでの仕事を見せる場では必ずカレンダーは出しています。しかもたくさんあるので、私の表現として代表的なものです。D-BROSがあってよかったなっていつも思っています(笑)。

宮田 違う絵を12枚描くカレンダーというものは、やっぱり誰でも辛いよね。丁寧に自分が気に入るまで筆を動かせれば、いいものもできるけど。

渡邉 そういう訓練もさせてもらったというか。

宮田 12枚でも苦しいけど、週めくりは1年間52週で52枚描いたんだもんね。

渡邉 まあ、でもその時間も与えてもらったっていうことなんですよね。だけど、すごいスピードでやりました。入稿の日にちが決まってて、そこまでに絵を描いてデザインもするから逆算して、ここまでにこれをしないといけないからって考えて。例えば、最初の『ブローチ』も全部のストーリーを作り上げてからでは間に合わない。あれは紙が薄くて、次のページがちょっと透けて面白いっていう仕掛けで、あるブロックごとで作っておいて、描き始めるんですね。


渡邉 それで、とにかく描いて描いて、そしてその間を繋いでいくっていう作業をして。じゃないと間に合わない……。結構、勢いよく描きました。とはいえ、その時間を使わせてもらってるんで、ありがたい時間でした。

宮田 良重さんのイラストを描く時の集中力はちょっと凄まじかったよね。描き方というか、描く方法やリズムを自分で作ってからは特に。

渡邉 そうですか(笑) 。

宮田 D-BROS展をした時の小さなお花のやつ。

渡邉 ああ、あれですね! あれは描いているというより塗っているんですけど。あの時はまだそれぞれをくっつけてはいなかったけれど、進化した形で、今でも作り続けているものです。

無数のレースペーパーの中から使いたいモチーフのみを切り出し、マジックで着色してから、またつなぎ合わせることで、広がっていく花畑のような世界を表現した作品

宮田 だからすごいよ。ふつうはできない。嫌になるもの。それで絵にムラが出てバランスが取れなくなる。それがずっと同じパターンで同じリズムでできているのですごい。

渡邉 ありがとうございます。

宮田 このカレンダーの世界観とかは別だよね。1月の絵なんか紐1本で表現しているわけじゃないですか。ふつう風景あるよね。でも風景は何にもない。この垂れ下がってる紐とこの子たちの表情と動きで世界観が広がっている。表現が完成されてる感じ。

2021年カレンダー『BOY’S & GIRL’S &』

渡邉 この絵は最近描いたわけじゃなくて、30代なんですけど。うわ、すごく昔(笑)。ラコステの仕事で透明水彩買ってから、しばらくして描いたもので。今回カレンダーを作るにあたって、今でも好きなこの絵を何か形にしておきたいなと思ったので、カレンダーにさせてもらったんですけど。かと言って、あまりしみじみとかしたくなくて(笑)。それで、この額のデザインを箔で押させてもらったり、ここの部分をデザインしたり。

カレンダーのタンザックと言われる紙を綴じている部分にデザインをした


渡邉
 カレンダーという私がずっと作り続けているもので、この絵も残しておきたいと思って作りました。

宮田 これは良重さんの原点だと思うよ。 

『BOY’S & GIRL’S &』の中に収められた原点とも言える12枚のイラスト。2022年の1年間はカレンダーとして、そのあとは渡邉良重の作品として長くお楽しみください。



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