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さんぽ 岩永いわなの「初出し」――初の著書「深夜の救世主」はこうしてつくられた編



「初出し」とは――


「どこにも話してないココだけの話」をコンセプトに、「初出し1テーマ」×「30分」で、狭く、深く、掘り下げるインタビューシリーズ。

インタビューを受けることで、取材対象者が「印税」を受け取ることができる仕組みへの挑戦。 

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あの映画と、このマンガで、僕の本はできている


――岩永さん、素敵な作品「深夜の救世主」をご執筆いただきまして、ありがとうございました。まずは、初めての本、初めての自伝を書き終えた今の感想から教えてください。

本当に書き終えてよかったです。それに集約しちゃう感じがしますね。

漫画家や小説家の人が締め切りに追われて逃げ出すとか、旅館に缶詰になるみたいなエピソードってよくあるじゃないですか。あれを何度も思い出しました。

今、(版元・編集の)廣田さんはどういう気持ちなんだろうって(笑)。全然進んでいない状況があって、この状況知ったら嫌な顔するかな、どうなんだろうとずっと思っていました。だから書き終えてよかったというのが一番です。

――書くのに苦労されたんですね?

そうですね。

というのは、僕は普段、本をほぼ読まないのでどういう風に書いたらいいかわからなかったのと、手本にするもの、ひな形みたいなものも特にないじゃないですか。そこが苦労して。

それに僕は売れてない芸人で、成功した人生でも何でもないので、どこに向けてやっていけばいいのかが一番迷った部分でした。

読んでる人もなんでこれを読んでるんだっけ?ってなるのが嫌だったので、その方向性を定める作業みたいのを最初のほうでがんばったのを覚えています。

――方向性はどういう風に固めていったんですか?

僕は映画をたくさん観てきて、映画紹介のYouTubeもやっているので、映画を参考にしようと思いました。

参考にしたのはクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」、エルトン・ジョンの「ロケットマン」などですね。あとは「シグルイ」というマンガです。あれは最初にクライマックスからはじまって、どうやって行きつくのかみたいな物語をやっていたりするので、そういう感じにしようと思って。

それで僕の本も最初に「オールナイトニッポン0をやりました」というのを書いて、そこにどうやって向かうかという構成を意識しました。

だから僕の本は「シグルイ」と「ボヘミアン・ラプソディ」でできてます(笑)。

――面白いですね。僕も映画をたくさん観るので、岩永さんの原稿を読んだときにまさに「映画的なストーリーだな」と思ったんです。最初にラジオに助けられたという伏線が出て、最後に回収する、完璧だな、映画じゃんと。映画をたくさん観られているからこういうストーリーづくりが当たり前にできるんだなと思って、衝撃を受けました。

ははは(笑)、姑息ですよ。そこは姑息に点を取りにいったというか。

これはつくっている側のあれですけど、読者が本の中の中学生ぐらいの頃のラジオの話のところで、「タイトルの意味ってこれなんだ」と勘違いしてくれたらいいなと思ったところはあります。

ただ、実際はタイトルが最後のほうまでずっと決まってなかったので、こういう形に決まってよかったと思います。

――「深夜の救世主」というタイトルがまた素晴らしい。

本当にありがたいですけどね。

本の中で東海ラジオの話をしてるときにディレクターさんの話が出てきたじゃないですか。「深夜の救世主」って僕に言ってくれたディレクターの人なんですけど、そこの最後の文章ではプロデューサーになってるんですよ。出世してるんです。

ここ読んだ人、気づいた人いるかなぁ~、この変わり方、気づいた人いるかなぁ~(笑)。

――そこは気づきませんでした(笑)。年月が経っているところもそこに現れているわけですね。何度も読んだら他にもいろいろ発見がありそうで、そこもまた面白いですね。

それを気づいた人は凄いと思いますけどね(笑)。

“長めのnote”からの脱却


――改めて制作過程を振り返らせてください。まず、去年9月にマネージャーの白井さんから「さんぽ岩永さんが面白い」とメールをいただいて、その後、3人で対面で打合せをして、12月に単独が終わってから書きはじめるというお話でしたよね。だから3か月ぐらいで全部書かれた形ですか?

そうですね。単独が終わって1か月は何もしたくなかったので、ただひたすら横になって寝ていて。でも何となくはどういう構成にしようかなと考えていたぐらいですね。

それから最初の1、2か月ぐらいで1、2章ぐらいまで書いて。

いや、でもこれじゃ“長めのnote”だな、と思って。

どうしようかなとずっと思っていて、急激に進んだのは最後の1か月ぐらいですね。それまで3分の1ぐらいまでしか進んでなかったんですよ。

その頃から「あ、もっと自分の気持ちを書いて、芸人としてあまり見せない部分をしっかり見せたほうがいいんだろうな」と思って書きはじめたら、みんなが読みたいものはこれだし、俺もこのほうがいいと思ってる、というすり合わせができた気がして、そこからはガーッと進みました。

――“長めのnote”と今回の自伝の違いは、感情をさらけ出す、というところですか?

うーん、なんですかね。

それこそ僕の中では“長めのnote”になっちゃっていた部分って、面白みを足そうとしていたんですよ。

芸人としてのスタンスみたいな部分が強くて。楽しませ方の違いというか。

そうじゃなくて、自分の心の、なんだったらまだ傷が癒えてないぐらいのところを見せないと、読者はあまり納得してくれないだろうなと思ったので、そういう部分をより見せるようにしたら“長めのnote”からは逸脱できたかなと思いましたね。

――なるほど、まさにこの売れてない芸人(金の卵)シリーズ自体も、岩永さんの原稿も、そこが面白いところで、本当は出したくないけど……というところを出していただけた感じが原稿から伝わってきました。そこのブレイクスルーは何があったんですか?

腹を括った感覚のほうが強いですね。

これをもっと面白くするには、もっと読んでる人の心情、気持ちみたいな部分を揺さぶるにはどうしたらいいんだろうと思ったときに、より個人的な部分を見せないとダメだなと思ったので、より個人的な部分を見せるように意識したという感じです。

僕の考えの1個であるんですけど、より個人的であればあるほど、結果的に凄く広い人に伝わると思ってるんですよ。

パブリックイメージのふわっとした表面の人間のあるあるの部分を見せるよりかは、耳の裏の匂いの細かいディテールのほうが共感できたりするじゃないですか。

そういうことなのかなって。より自分の個人的な部分を見せたほうが結果的に共感を得られるんじゃないかと思って、そういう形にしましたね。

――そこに思考が至るにあたってはこれまで観てこられた映画の存在があったり。

それが一番強いと思いますよ。

僕は音楽も好きでたくさん聴いてきたんですけど、音楽でいうと、わかりやすいところでは銀杏BOYZとか、恥ずかしいぐらいに自分の気持ちをさらけだしたりするじゃないですか。

同じようなことを映画「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督も言ってましたよ、確か。より個人的な部分を見せたほうがいいみたいな。

そういう自分が今まで見てきたもの、聞いてきたものが、ここに生きてきたのは凄くうれしいですね。

――今回の原稿はそれが詰まってますね。そうすると3か月の制作期間で、1か月ぐらいで構成を考えて、2か月ぐらいで執筆をした感じですね。

だいたいそんな感じですね。

書けそうな日にガーッと書いて。あと、忙しかった時期も真ん中ぐらいにあったので、その時期は進めてなかったですけど、落ち着いたときに自分の思いついた方向性に向かって一気に進めていく、という形でしたね。

だから最後のほうがスーッと進んだので。方向性も定まって。

最後のほうは明らかにうまくなってるから進むじゃないですか(笑)。そうすると最初のほうのテンションとまるで違ったので、最後のほうのテンションに合わせるように前のほうを徐々に変えていったのもあります。

――そこは最後に調整されたんですね。

そうです。「別人じゃん」となっちゃったんで(笑)。別物みたいになっちゃったので。

――個人的にはそのままの別人バージョンも見てみたかったですね(笑)。人って時間とともに変わっていくと思うので、書いている過程でどう心情が変化していったかというところも面白そうで。

そうですよね。ただ、グラデーションにあまりなってなかったんですよね。

電気のオンオフぐらい明らかに変わったんですよ。合間のぼんやりした光がなかったんです。

だからぼんやりした光を入れないといけないなと思って、徐々にスライドできるようにしたんです。急激に暗い話になったりするから、それは読みにくいなと思って。

当初はギミックを入れようとしていた


――最初の打合せでは岩永さんから「原稿の中にギミック、遊びの仕掛けを入れたい」というお話があったんですよね。僕はそんなことを言われたのが初めてだったので、なんて面白いんだろうと思いました。ギミックの部分、実際にどんなことをしようと思っていたんですか?

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