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ChatGPTに法律相談してみた。

こんにちは。

東京で弁護士をやっており、ほとんどが企業法務案件を扱っていて、海外のクライアントや弁護士から相談を受けることも多くあります。

Noteを使って情報発信してみようかなと思っていたところ、少し前からChatGPTが気になっていて、使ってみましたので、感想をまとめてみます。


どんな質問にしようかな?

テーマは、
・Japanese Employee Termination Reasons(日本で企業が従業員を解雇するためにはどのような理由が必要か)
・Law Firm Know-How Sharing(法律事務所の所内での効果的なノウハウ共有の方法)
としてみました。
質問文を入れると、ChatGPTがテーマも作ってくれて、テーマごとに質問と回答を保存してくれます。

一つ目は、海外との比較において特に日本の特殊性が強く、説明するのに丁寧な説明を要するという印象が強く、かつ何度も受ける相談です。

二つ目は、おそらくどの法律事務所でも定期的に話題になる所内マネジメントのissueだと思うので、「法律相談」ではないですけど、世界中からアイデア拾えれば楽しいなと思い、併せて聞いてみました。


実際の回答は?

そして、回答はこんな感じ。
まずは、一つ目。

Q: What reason is required for a Japanese company to fire an employee?
A: In Japan, there is no specific law that requires a company to provide a reason for firing an employee, as long as the termination is not based on discrimination or other illegal grounds. However, many companies have their own internal regulations and may provide a reason in order to maintain good relationships with the employee and to maintain a good reputation in the market.
引用元「OpenAIのAssistant」

日本の労働法実務なんていう、世界的に見ればニッチな話をしてるのに、割といい線いってる気がします。

次に、二つ目。
Q: What are effective ways for law firms to share know-how internally?
A: There are several effective ways for law firms to share know-how internally, some of which include:
⑴ Knowledge management systems: Law firms can invest in a centralized knowledge management system that can store and categorize information for easy access and retrieval by staff.
⑵ Mentoring programs: Pairing more experienced lawyers with junior staff can be an effective way to share know-how and transfer knowledge and skills.
⑶ Internal training sessions: Law firms can organize internal training sessions to share best practices, case studies, and legal updates.
⑷ Regular team meetings: Regular team meetings can be used to discuss challenges and share information, experiences and knowledge.
⑸ Written reports and memos: Encouraging staff to write reports and memos on cases they have worked on can be a valuable way to share knowledge and experience with others in the firm.
⑹ Cross-departmental collaboration: Encouraging cross-departmental collaboration can lead to the sharing of different perspectives and knowledge across the firm.
These methods can help ensure that the knowledge and expertise within a law firm is effectively shared and utilized.
引用元「OpenAIのAssistant」

一つ目の様な、リーガルサービス的な知識集約供給方の回答だけでなく、むしろ二つ目の様なアイデア出しが得意なのかもしれないという印象を受けました。
私の所属する事務所でもいくつか既に取り入れていましたが、さらなるアイデアはいつでもほしかったので、さっそく所内共有しました。


今後使えそう?

特に一個目については、もちろんこれで質問に対する回答にできるはずないんですが、期待含みでメリットも感じます。
だいたいこんな感じでしょうか

① 正直、アソシエイトの出来が悪かった時のドラフトより筋がいい。
相談をお受けした場合、単に法律や判例がどうなっているかというだけではなく、実務のナレッジやノウハウの集積の部分を追記していく必要があって、弁護士はそこでお金いただいているわけなので、当然このChatGPTの回答もそういった観点で大幅に直すというか、最初から書き直さないとダメなシロモノではあります。(その意味では少なくとももう少しの間は、まともな弁護士であればAIにとってかわられずに済みそうかなとも思います。)
ただ、骨格はわりと綺麗だし、足りない部分が明確なので、修正するべきファーストドラフトと捉えると、(かつての私みたいな💦)考えすぎて何が言いたいかよくわからないアソシエイトのドラフトをもらうより、正直整えていく作業がラクな気がしました。
なので、今後は、法律事務所にとって、新人を採用するということが、人材を確保して戦力にするという要素がより薄まり、OJTで育てノウハウを継承しないと未来の社会にプロの弁護士と呼べる人材がいなくなるからという公益的な要素が強くなるのではないかなと思いました。
企業様から見れば、今後、顧問の事務所の出来のいいアソシエイトくらいの存在にはなる可能性はあるのではないかと思います。例えば、意見書等の作成を依頼する前に軽く担当のアソシエイトに電話をしてみたところ、やたら気合の入った回答を数日かけて作って送ってきた、というようなミスマッチを避けてくれるツールになるかもしれません。

② 今後海外のクライアントや協業する外国の弁護士は、これくらいの前提知識を持って相談に来ると把握できる。
大体どのくらいあのレベル感での回答を求められているのかのあたりをつけるのも、弁護士にとっては必要なスキルかと思います。
丁寧かつフルボリュームであればいいというものでもなく、むしろ簡単にポイントを押さえた短い回答でいいのにあまりに膨大なものを作ってその分のタイムチャージを請求してしまうとクライアントの満足度はどん底です。
「AIがこの程度は答えてくれるのね」とわかると、この回答をプロとして効果的に超えて行けばいいんだなと理解でき、プロダクトのイメージが持ちやすいなと思いました。
また、私はかつてインハウスローヤーとしても執務しましたが、企業の法務部の方にとっても使い勝手がいいように思います。例えば、海外の子会社から来た質問に対して、ひとまずAIで調べてみて、そこから必要に応じて各専門家につなぐと、効率的なように思えます。

③ 英文での回答の骨格が見えるので、作業の効率化が期待できる。
私を含めて、日本語で調べて→回答案まとめて→英語で書くという流れで作業する方も多いのではないかと思いますが、日本語で一度回答案を作成してしまうと、当然一対一対応の訳では英語話者に伝わりにくいので、英文として調整するという作業が必要なわけです。
とても英語が堪能な場合、いきなり英語でまとめるということができるのだと思いますが、日本語という言語を使って法律家としての訓練を受けていますから、どうしても日本の法律について調べていると日本語の頭で思考してしまいがちです。
そのため、少なくとも私は、回答を作成する際、自分の頭を日本語話者の頭から英語話者の頭に丸っと切り替えて、回答の文章を構築するという作業が必要になります。そしてこれに案外時間がかかる。
ChatGPTでは英語文としての骨格の整った回答が出てくるので、最初にこれがあると作業時間を効率的にカットしていけるように思いました。

④ 英語の回答の文章の組み立て方や各々の細かい言い回しが参考になる。
外国語の訓練って、自分の仕事についていろいろ語ってみるのが一番勉強になると、とあるマイナー言語の第一人者の方に教えていただいたことがありますが、本当にその通りだと思っています。私も最初は英語は全く得意ではありませんでしたが、今では、少なくともリーガルサービスの現場において、複雑で専門的な文意やニュアンスも含め伝わらないということはないです。
留学などを目指している場合は、スコアメイクの関係で、いろいろな分野の難しい単語を覚えたりしなくてはならないと思いますが、仕事をする上では、「糖尿病」とか覚えるより、「補償」とか覚えた方がいいわけですし、意味とスペルだけでなくそれぞれの単語の使い方を覚えなくてはならないわけです。
また、専門用語の英単語や用法に加えて、英語話者に伝わる文章のパターンや感覚を身につけることがとても重要です。
そういった専門用語や感覚って、すぐに克服できる方法があるわけではなく、俗にいう「慣れ」というやつで、英語にコンプレックスがあればあるほど英語を使うのが嫌でいつまでも身につかない、だから英語の苦手意識が払しょくできないという悪循環に陥る傾向があるように思います。
実は、このChatGPTはお風呂に入りながら遊んでいたのですが、こうして遊んでいると、あんまり苦しい修行という感覚なく、自分の中に少しずつ引き出しが増えていくような気がします。

⑤ どんな質問をすればいいか考えるのが、実は問題抽出の訓練や思考整理になる。
依頼者からの相談内容は、きれいな質問であることの方がむしろまれで、依頼者の悩みに対するソリューションを導くにあたって解決するべき課題というのを定義する必要があります(個人的に弁護士的デザインプロセスと呼んでいますが、このお話はまた今度。)。
AIは言うなれば、知識だけは完璧な新人やロースクール生みたいな存在の様なので、このChatGPTにいい回答を吐き出させるための質問を考えてみるのも、弁護士としてのスキルの準備体操というか、ちょっとした訓練になると思いました。

⑥ 事務所のマネジメントノウハウの良い参考になる。
基本的に、弁護士は、経営ということを一切学ばないままアソシエイト弁護士になり、お客様から個別に依頼を受けるようになると経営側に回るというステップを踏みます。いろいろな業法上の規制があるため一般的な経営ノウハウやフレームが使えないことも多く、経営課題に関しては、閉鎖的になりがちな傾向があります。
また、日本の法律事務所は最大手のビッグファームと言えども、企業の規模としてみれば全く大きな規模ではありません。特に多くの事務所は、全員の顔が見える規模感ですし、弁護士と言うのは極めて属人的な特色が強く、ウマが合う者同士でいい仕事をするために一緒の事務所をやっているという感覚が強いような印象です(各事務所さんいろいろな経営上の考えがあるので、あくまでこれは私個人の印象ですけどね。)。
そのため、法律事務所の経営ノウハウというのは、これといったものが確立はしていないし、なかなか共有もされないという印象です。
とはいえ、個別のクライアントに関わらない、経営上の一般的な課題であれば、よその事務所をお手本にすることがあってもいいと思います。
ときどき、事務所の経営課題改善に積極的なパートナー中間層くらいの期の先生が、修習同期の事務所と意見交換会を持つ等のイベントを開催したり、若手のアソシエイトから意見を聞き取るための仕組みが始まったりということが起こるのですが、あまりアイデアも出ず、結局一番忙しいアソシエイトの時間を食ってしまって終わり、ということも珍しくありません。
二番目の質問のように、法律事務所に限定した上で質問をしてみて、アイデア出しをさせれば、議論のたたき台ができるので、これも一つの効率化につながる可能性を感じました。


おまけ

ローンチ後そんな時間が経っていない段階であることを考えると、ますます賢くなるのが期待できると思いました。

日本語も使えるらしいですが、ずっと悩んでいて回答がなかなか出ずでした。英語を使うとより使いこなせそうな予感がします。
また、質問文は、これまたAIのDeepLを使って作ってみたのですが、DeepLと組み合わせるだけでとてもスピーディに一定のところまで到達した感覚です。

最後に、このnote書きながら、著作権が気になったので調べたところ、ChatGPT回答をそのまま引用する場合は、引用元として「OpenAIのAssistant」と明記する必要があるようです。

新しい技術ってわくわくします。
こういったツールを仕事で使うことの是非は今後いろいろな考えが出てくるのではないかなと思いますが、ビジネスの現場を支えている一人の専門家という自覚をもって仕事をさせていただいている私としては、新しい技術を使いこなして、自分のフィールドでより良いサービスを提供するにはどうすればいいかという自分なりの前向きな問いにつなげていきたいなと思います。

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