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【シリーズA編】海外PropTech資金調達動向 vol.3

みなさんこんにちは、PropTech特化型VCを運営する株式会社デジタルベースキャピタルです。
本記事では、グローバルにおけるPropTech企業の資金調達事例についてご紹介します。​

はじめに

本記事では、海外のPropTech(Property×Technology、不動産テック)スタートアップによるシリーズAラウンドの資金調達ニュースを中心にお届けします。【シード編】や【シリーズB編】の記事と合わせて、米国を中心として、海外ではどのような領域でスタートアップが立ち上げられ、次の資金調達ラウンドに進みつつあるのか、立ち上がりが見えた領域の最先端を捉えることが目的です。

2月もアパートホテルが資金調達。ConTech領域(Construction×Technology)も盛り上がりを見せる。

Crunchbaseや各社ウェブサイト等から2020年02月にシリーズAラウンドで資金調達を実施したPropTech企業をまとめます。グローバルにおける中期段階の資金調達状況を見ることで、不動産・建設・金融のPropTech領域における最先端の動向を探ります。
2020年02月01日~02月29日にシリーズAラウンドで資金調達を実施した12社について個別に見ていきたいと思います。

Houwzer

Houwzer_スクショ

企業名:Houwzer
設立年:2015年
本社:米国  フィラデルフィア
調達概要:シリーズAラウンド US$9.5M (02月05日)、Edison Partners、Admiral Capital Group、Chestnut Street Ventures等合計7社
事業概要
米国において不動産仲介プラットフォームを展開している。具体的には、住宅の買い手・売り手と不動産エージェントを繋げるサービスを提供している。
Houwzerが従来の不動産仲介プラットフォームと異なる点としては、エージェントと手数料報酬に基づいた契約を結ぶのではなく、一定の給料を支払う契約を結んでいる点である。この仕組みにより、エージェントはHouwzerを通して委託された業務に集中して取り組むことが理論上は可能となる。
従来の米国における不動産仲介ビジネスにおいては、エージェントは基本的に完全コミッション制となっていた。コミッションは、物件の買い手が支払う事例は少なく、多くの場合は物件の売り手が支払っていた。多くのケースでは、販売価格の5%が相場であり、取引成立後に買い手側のエージェントと売り手側のエージェントで2.5%ずつで報酬を分けるシステムが一般的であった。
上記の米国不動産仲介業界の事例からも分かるように、Houwzerの仕組みは特徴的であると窺い知ることが出来る。
Houwzerの収益体制に関しては、売り手側に大きな特徴がある。Houwzer利用者は従来のように販売価格の5%を手数料として支払うのではなく、Houwzerを通して雇ったエージェントに定額で$5,000、そしてHouwzer管轄外の買い手側のエージェントに従来のように販売価格の2.5%を支払う仕組みとなっている。計算上は、物件の売却額が$200,000(現在のレートで約2200万円)以上であるならば、利用者にとっては手数料の費用が削減可能となると考えられる。
Webサイト上には記載は無かったが、個人的な見解では、買い手側のエージェントを仲介した際には、米国の不動産仲介ビジネスの慣習に則り、売り手側のエージェントより販売価格の2.5%の手数料を収益として得ていると思われる。
参考記事:FINSMES不動産流通経営協会

Cherre

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企業名:Cherre
設立年:2016年
本社:米国  ニューヨーク
調達概要:シリーズAラウンド US$16M (02月05日)、Intel Capital、Navitas Capital等合計6社
事業概要
投資家・銀行・保険業界などをメインターゲットとして、AIを利用した不動産関連データの収集・分析・予測プラットフォームを展開している。
Cherreのサービスにより、利用者は物件の適正価格を把握することで、コストカット等にその情報を活かすことが可能となる。

Landing

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企業名:Landing
設立年:2019年
本社:米国  サンフランシスコ
調達概要:シリーズAラウンド US$20M (02月05日)、Abstract Ventures、SWS Venture Capital等合計4社
事業概要
全米13都市において、家具家電付きアパートメントの月極貸し出しサービスを展開している。利用希望者は、年会費$199を支払う必要がある。
12月分の資金調達記事1月分の資金調達記事において、現在米国ではアパートホテル(アパートとホテルの双方の設備を備えたホテル)の資金調達が相次いでいる。Landingに関しては、キッチン設備はあるものの、サポート体制が定められた時間内の電話対応という点から物件の種類としては、アパートメントに分類されると考えられる。


Reggora

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企業名:Reggora
設立年:2016年
本社:米国  ボストン
調達概要:シリーズAラウンド US$10M (02月12日)、Spark Capital等合計2社
事業概要
米国において住宅保有者と不動産鑑定士のマッチングサービスを展開している。
現在の米国においては、2007年から2009年にかけて発生したサブプライム住宅ローン危機の影響により、HVCC(住宅評価行動規範)が制定され、不動産鑑定のプロセスが複雑化している現状がある。それにより、不動産鑑定の結果が判明するまでのスピードが以前と比較すると相対的に遅くなっている。
Reggoraは、この一連のプロセスを早めるために、評価者の検索やスケジューリングなどの鑑定には直接影響しない事務作業の自動化サービスを提供している。
参考記事:CISION PR Newswire国土交通省 土地・建設産業局

Swivel

Swivel_スクショ

企業名:Swivel
設立年:2016年
本社:米国  オースティン
調達概要:シリーズAラウンド US$8M (02月18日)、JLL Spark等合計2社
事業概要
米国において法人向けのオフィスリースサービスを展開している。
具体的には、1年~3年と期間を定め、初期費用及び退去費用の請求されないオフィスをリースで提供している。
顧客として公表されている企業は、Dremio(データ分析企業)やGraylog(ログ管理企業)などのtech系企業が中心となっている。
参考記事:SILICONHILLS

OnSiteIQ

OnSiteIQ_スクショ

企業名:OnSiteIQ
設立年:2017年
本社:米国  ニューヨーク
調達概要:シリーズAラウンド US$5M (02月18日)、Bullpen Capital、 MetaProp NYC等合計3社
事業概要
建設現場の360度画像の収集を行い、その上で収集データをAI分析し、リスク要因の洗い出しを行っている。
提供しているサービスの概要としては、Googleストリートビューのように建設現場の中を様々な角度からweb上で閲覧することが可能である。
先月の記事でもお伝えしたように、近年世界ではConTech(建設×テクノロジー)領域が盛り上がりを見せており、今回ご紹介している建設現場の360度画像の収集及びその後のデータのAI分析というビジネスモデルに関しても、昨年度INDUS.AIというサンフランシスコに本拠地を置くスタートアップがシリーズAにて800万ドルの資金調達を行っている。
世界的なConTech領域の盛り上がりの背景としては、建設業界は市場規模が大きいながらもtechの活用が遅れている傾向にあることが挙げられる。
日本を例として挙げた場合、以下の市場規模マップでは、建設業界は自動車業界の次に市場規模が大きいことが分かる。

業界規模マップ_建設

しかし、複雑な業務プロセスや関係者の多さからtech導入は遅れており、techの導入推進を目指し国土交通省は「ICTの全面的な活用」等を施策に盛り込んだi-Constructionという取り組みを2016年から推進している。今後も、ConTech領域の盛り上がりが予想される。

Zvesta

Zvesta_スクショ

企業名:Zvesta
設立年:2015年
本社:インド ニューデリー
調達概要:シリーズAラウンド US$5.5M (02月19日)、Hindustan Media Venture
事業概要
インド国内にて、住居用物件購入希望者向けのオンラインプラットフォームを展開している。
これらの物件は、物件開発業者やブローカーが情報を追加するシステムとなっている。顧客及び仕入先の確保のために、独自のサービスを提供しており、購入希望者向けには資金調達案を提案している。また、業者向けにはSaaS製品であるZvesta Proを提供しており、在庫の管理の効率化の手助けをしている。
KPMGの調査では、インドの住居用不動産市場は今後も発展すると予想されており、PropTech領域の発展が予想される。
参考記事:Inc42, KPMG "Indian real estate and construction : Consolidating for growth"

Archilyse AG

ArchilyseAG_スクショ

企業名:Archilyse AG
設立年:2017年
本社:スイス チューリッヒ
調達概要:シリーズAラウンド US$3M (02月25日)、PropTech1 Ventures、SIX FinTech Ventures等合計6社
事業概要
AIを活用して、不動産の品質評価及びその改善サービスを提供している。
サービス提供のプロセスは、デジタル化・分析・最適化の順番となっている。
デジタル化に関しては、基本的には2D状態の紙形式もしくはPDF形式で保存されているデータを3D BIMデータソースに変換するところから作業が開始される。BIMとは、Building Information Modeling (ビルディング・インフォメーション・モデリング)の略称で、3次元の建物のデジタルモデルにコストや管理に関する情報を追加し、設計や施工や維持管理の工程で情報活用を行うためのソリューションである。この新たな技術により、不動産に付随する情報を全て1つのデータで管理することが可能となり、建築ビジネスのワークフローは効率化した背景がある。
今回、ご紹介しているArchilyse AGは、不動産の3D BIM化後に分析を行う。このプロセスでは、不動産の価値算出の際に重要となる太陽光・ノイズ・駅などの特定対象地点までの距離等のデータをAIを用いて分析している。そして、最終的には不動産の価値の最大化のために改善可能項目の提案を行っている。
参考記事:AUTODESK

trezi

Trezi_スクショ

企業名:trezi
設立年:2015年
本社:インド ニューデリー
調達概要:シリーズAラウンド US$非公開 (02月19日)、Rockstud Capital等合計3社
事業概要
建設現場向けに、VRを用いたデザインシステムを提供している。
ヘッドギアを付け、没入型の仮想環境で作業を行うサービスである。
ユーザー1人当たり月額200ドルの料金設定となっている。

Blueprint Title

BlueprintTitle_スクショ

企業名:Blueprint title
設立年:2017年
本社:米国 ナッシュビル
調達概要:シリーズAラウンド US$8.5M (02月19日)、Santander InnoVentures等合計4社
事業概要
米国の不動産の購入者向けにタイトル保険の管理システムを提供している。
タイトル保険とは、不動産の所有権に対する保険のことである。具体的な内容としては、米国においては、不動産の売買契約成立後に、当該不動産に対する所有権、抵当権などの登記や税金についてまとめたレポートであるPreliminary Title Reportが発行される。もし、レポートに記載が無い項目に対して、買主に不利になる事項が発生した際にその損害額を保証するものとなっている。
中古住宅取引が住宅不動産取引市場の中で大きな割合を占める米国においては、安全な取引のためにタイトル保険のシステムが確立されている背景がある。
参考記事:アメリカンファンディング スタッフブログ幻冬舎ゴールドオンライン

Choice Home Mortgage

ChoiceHomeMortgage_スクショ

企業名:Choice Home Mortgage
設立年:2019年
本社:米国 ロサンゼルス
調達概要:シリーズAラウンド US$非公開 (02月01日)
事業概要
住宅ローンの提案サービスを展開している。
現在のローンの借り換えを検討している人や、これからローンを組む予定の人々向けに提案を行っている。

OpenSpace

OpenSpace_スクショ

企業名:OpenSpace
設立年:2017年
本社:米国 サンフランシスコ
調達概要:シリーズAラウンド US$非公開 (02月27日)、Nine Four Ventures
事業概要
人工知能を活用して、建設現場の360度画像を作成している。
360度画像の撮影が可能なカメラをヘルメットに固定し、スマートフォンのアプリで録画を開始すると、360度画像の構築が開始される仕組みとなっている。

おわりに
今回は2020年02月にシリーズAラウンドで資金調達を実施したPropTechスタートアップ12社を取り上げました。
2020年02月に関しては、世界各地でマッチングビジネスが盛り上がっている印象です。今後の動向にも注目が集まります。

株式会社デジタルベースキャピタルとは
2019年に設立された日本初のPropTech特化型ベンチャーキャピタルです。人々の暮らしや働き方を豊かにするLaaSをテーマに規制産業(不動産、金融、建設)領域に関連するスタートアップへ投資しています。
主な投資先 X Kitchen、CLAS、ADDress、modecas、FUEL 等。

ベンチャー投資事業に加えて、大手企業向けのデジタルトランスフォーメーション、オープンイノベーションにおける戦略コンサルティングも行っています。
主な支援事例:ゼンリン、LIFULL、三菱UFJリースらによる次世代不動産情報インフラプロジェクト「ADRE」、一般社団法人第二地方銀行協会「SARBLAB」等。

PropTechスタートアップコミュニティPropTech JAPANの運営を行い、アジア最大規模のPropTech特化型ピッチカンファレンスPropTech Startup Conferenceを運営しています。

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