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燃ゆる女の肖像 カンヌ映画祭クイア・パルム賞受賞作

あらすじ

18世紀、フランス。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)はブルターニュのある貴婦人から、娘のエロイーズ(アデル・エネル)の見合いのための肖像画を描くよう依頼される。
マリアンヌは結婚を拒むエロイーズに身の上を隠して彼女に近づき、孤島の屋敷で密かに肖像画を描きあげるが、真実を知ったエロイーズは絵の出来を否定。
描き直すことを決めたマリアンヌに、モデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスを挟み見つめ合い、島を散策し、語り合ううちに、二人は恋に落ちていった。
約束の5日後、あと一筆で肖像画が完成するところまでくるが、それは別れの時を意味するものだった……。 
監督は「水の中のつぼみ」のセリーヌ・シアマ。画家のマリアンヌを「不実な女と官能詩人」のノエミ・メルランが、貴族の娘エロイーズを「水の中のつぼみ」にも出演、シアマ監督の元パートナーであるアデル・エネルが演じ第72回カンヌ国際映画祭脚本賞およびクィア・パルム賞を獲得したラブストーリー映画。

解説と感想

読書や音楽が好きで、格式に縛られている貴族社会を嫌い自由を求めている貴族の娘エロイーズ。
父の家業である画家を受け継ぎ、自由に生きていきたいマリアン。
最初のうちは身分を偽り散歩相手と貴族の娘として出会い、画家と被写体として関わり合い、やがて見つめられる被写体と見つめ描く画家の立場を超えて、女中のソフィを交えてトランプ遊びをしたり3人で「オルフェウスが冥府から妻を現世に連れ戻す時に、何故オルフェウスが振り返ってしまったのか?」を議論したりお祭りに参加したりする中で、一番近くで見つめ合う中で理解し合い惹かれ合うエロイーズとマリアンヌの恋を、美しい南フランスを舞台に海辺を散歩しながら本などの話をしたり、エロイーズとマリアンヌが見つめ合いながらエロイーズの自画像を描きチェンバロでビバルディの「四季」をマリアンヌがエロイーズに弾いたり心を通わせ逢瀬を重ねる美しい繊細な映像とエロイーズを演じるアデル・エネルとマリアンヌを演じるノエミ・メルランの美しい瞳の目線と感情の交わし合いと表情の変化が、美しく官能的だが、結婚しか女の幸せしかないし女性が画家として活動するには男性の名前を使うしかない女性の生きづらさが絡み、好きあっているのに結ばれない切なさがあると同時にアートを通じて見つめ合い心を通わせた思い出が残る温もりもあり、同性愛者の恋を描いた映画では「キャロル」「アデル ブルーは熱い色」に並ぶクイア恋愛映画の傑作。
ちなみにこの映画は、アデル・エネル最後の出演映画だが、2019年、映画デビュー作となった『クロエの棲む夢』の監督クリストフ・ルッジアから、3年に渡ってセクシャルハラスメントを受けていたことを告発した。
エネルはインタビューで告発に踏み切った理由を「個人的なリベンジが目的ではなく、業界全体の意識を変えたいため」「同じような被害に遭った人々を勇気づけたいため」であると語っている。2020年2月28日、第45回セザール賞(英語版)で当時13歳のサマンサ・ゲイマーを強姦した罪で有罪判決を受けたロマン・ポランスキーが『オフィサー・アンド・スパイ』で監督賞を受賞したことを受け、自身も主演女優賞でノミネートを受けていた『燃ゆる女の肖像』の監督のセリーヌ・シアマと、共演者のノエミ・メルラン(フランス語版)と共に、抗議の意味を込め授賞式から退場した。
エネルは退場する際、拳を突き上げ「恥を知れ!(La honte!)」と叫び、会場のロビーで拍手しながら「ペドフェリア万歳!(Bravo la pédophilie!)」と叫んだ。 
2022年5月、ドイツ誌FAQのインタビューにて映画界からの引退を表明した。引退の理由を「政治的な理由です。映画産業は、絶対的に保守的で、人種差別的で、家父長制的であるから。内側から変えたいと思っていたけれど、MeToo運動や女性の問題、人種差別に関して、映画界は非常に問題がある。もうその一員になりたくない」と語っており、今後は当面舞台を中心に活動するとしている。

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