見出し画像

はじめてのギャラは500円でした(11)

「女、三界に家無し」とか言いますが。

あっちでもこっちでも、なんだか居場所をなくしてしまい
気分のどこかがフワフワしたわたしを載せたまま。

朝は幼稚園のお弁当を作ってから通勤し、
会社で一日仕事しながら、頭のどこかで100本コピーを練り続け、
金色エンピツのコレクションを増やし続けるという
静かで普通な日常が過ぎていました。


上司も母も、
もう別に何も言わなかったけれども

夜、実家に戻る前に、誰もいない自宅へ一度帰って。
水道水を一杯飲んで、コップを洗って、ふせる。

自分の立てる音しかしない、その時だけ、
心が緩むような気がしていました。


画像1



ある時、コピーライター養成講座の出席簿の横に、
半透明のファイルがあるのに気づきました。

いつから置かれていたのか・・
初回の時からだったのか、途中からだったのか、よくわかりません。

そう言えば、男の子たちが時々みんなで囲んでたのは
これだったのかもしれないなー


なんだろ?


開いてみると、広告代理店や制作会社の求人案内がファイルされていました。

ふーん・・・


クラスで仲良くなっていたHちゃんに聞くと、この講座に出てる人が連絡すれば
担当の人に、とりあえず一度は会ってもらえる仕組みになっているのだとか。


じゃ、試しに電話してみようかな。


そう言うと、彼女は「いいんじゃない?かけてみなよ!」と
意外にも熱心に勧めてくれました。

そこで、分厚いファイルをめくって、適当に2、3社選び、
電話番号をメモしました。

もちろん、全部やめてしまえと言われた手前、本当は、
転職ということをまっすぐ考えられる状況でも、状態でも、
現実的には、なかったんですよね。

でも。


何か違うところへ行ってみたら。
会ったことのない人たちに会ってみたら。

何かが変わるんじゃないか。


フワフワと、とりとめのない思考の中に、
ぼんやり期待の陽炎が見えた気がして。


電話してみると、話は本当で、
担当者の人が会ってくれることになりました。

聞いていた通りなのに、すごくびっくりしましたね・・・

今、思い返してみると、当時のわたしには
いろいろな事を当たり前に信じるということが、
うまくできなくなっていたような気がします。

約束の日には、課題で作ったコピーを例のパフォーマで打ち直し
会社でやった各種のチラシを加えて、ポートフォリオにして持っていきました。


でも、肝心の自分自身がそんな感じでしたから、
せっかく面談していただいても……

「それで、いつから来れるんですか?」

にこにこと聞かれて、返事のできないわたしがいました。

わたしは、何をどうしたいんだろう。

あるように思えた幻の灯を自分から吹き消して
わたしは、途方に暮れていました。

喉に絡みつく重さを掻き分けるようにして
こんこん、と胸から咳が上がってきました。



……続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?