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はじめてのギャラは500円でした(9)

今思えば、気合いが違ったんだと思います。

これで一億稼いでやろうと思ってるわたしと、
学生の延長線で通ってきてる人たちとは。

たとえば、例の100本コピーをやった初回の課題も
ほとんどの人は、30本くらいの、アイデアが最初に枯渇するあたりで
もう考えるのをやめて、その中から提出していたんだそうです。
(後から知りました。まさかそんなことだったとは・・・!)


なのだけど。

わたしって、何をさせてもバカ正直と言うか、不器用と言うか。

その課題のあともずっと、特に指定が書いてなくても、
最低でも100本は考えて、その中から提出する。というのをやり続けていました。

要は、アヒルが最初に見たものを母親だと思い込むようなもんで、
コピーって、そうするもんなんだろうって思っちゃったのよね(苦笑)


んで。


そうすると、どうなるかって言うと・・・・・




毎回、必ず金のエンピツがもらえるんです。(爆)


もらってももらっても、エンピツはエンピツ以上のものには
なりませんが、それでも、嬉しかった。

折しも、新しく作ったキャンペーン用チラシの評判がよく、
売上的にも、そう悪くない手応えを感じることがありました。
もちろん、営業部のメンバーがみんな、それぞれの持ち場で頑張って、
だから取れた成果だったんですけど。


でも、わたしは、心密かに思っちゃったんです。

コピー、やれるのかもしれない。
頑張ってみよう。って。


そこへ・・・


これは!という企画が飛び込んできました。


ある映画のノベライズ(小説化)。
監督も主演も、誰でも知ってる有名どころのビッグネーム。
ストーリーは、涙と笑いの感動コメディ。

もちろん、大ヒット間違いなしという前評判。
早くもロングランの声が出ていました。


公開に間に合わせるため、担当編集者は大急ぎで作業を進めました。
当然、営業も、公開に間に合うよう受注作業を進めることになっていました。


まだ、映画も本もないので、受注は事前チラシが頼りです。


わたしは、数日がかりでコピーと紙面デザインを考え、
illustratorで組み上げたばかりのチラシは、全国にFAXで一斉送信されました。


そしたら。

どうなったかと言うと・・・



翌日会社へ行ったら、FAXの周りに用紙が飛び散り、
用紙切れのサインが点灯していました。

チラシを見た全国の書店から、
すごい勢いで注文が入っていたんです。


夜のうちに受信していたFAX注文だけで、既に予定の初刷部数をオーバー。
日中は電話が鳴り止まず、受注数はふくれあがる一方。

急遽、増刷が決まりました。


翌日も、その翌日も、同じ状況が繰り返されて。

更に増刷が決まりました。



こんな経験は、全員初めてだったので、
ロードショー公開前に全部間に合う見通しができたときは
みんな、ものすごくホッとしました。

これまで出したことのない部数を発行することになりましたから
売上も、楽しみなものになりそうでした。


そしてついに、

待ちに待った、クランクイン!!!





えーっとね。


結論から言いますけど。



その映画ね、
大コケだったんです・・・・・・(涙)


ロードショーは次々と打ち切られて
評も散々。


その上、権利の関係で、できあがった本の中には
主演の有名俳優の写真が一枚も掲載されていなかったので
書店からブーイングと共に、返品の嵐。


あ、あのね。
本ってね。

知らない人も多いと思うんですけど、委託販売なんです。

書店にある本は、書店に委託して出版社が置いてもらってる、ということに
建前上はなっておりまして。

書店は、仕入れをして店頭に並べても、売れなかった本は版元に返品できるんです。

だから。

増刷分も。

それどころか、予定の初版部数も。


出した分だけ、みーんな倉庫に返ってきてしまいまして。

早々にロードショー終わってるから、
新たに注文してくれる書店なんて現れてくれる筈もなく。


出来上がったものは


見たことないほど大量の在庫と、
予想を覆すどころの騒ぎじゃない、大赤字。



もとはと言えば

コケた映画が悪いんだし
写真を載せられなかった本が悪いんだし

増刷に次ぐ増刷を決めたのも、
なんなら大ヒット間違いなしって判断したのも、
最終的には、会社だからね。


だから、

誰からも怒られたりはしなかったけど。



「チラシ、良すぎちゃったね」

後処理がなんとか終わって、上司が半笑いでそう言った時、
すごく傷ついて、めちゃくちゃ凹みました。

ほめてくれたつもりだったのかもしれないし、
冗談のつもりだったのかもしれないけど

なんか

なんか、さ


もう会社に来るのが、辛いっていうか。
居場所が見つからないっていうか。

わたしの心のどこかで、
電卓の、毎度お馴染みの「ー」キーが
ピッと押されました。


タメイキと共に・・・・・続く。



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