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DAWN(哀悼 弥勒祐徳先生)
ドーン歯科の「ドーン」は英語で「夜明け」の意味である。
夜から朝に変わる明け方の空、色で言うと淡い紫色。
私の開業人生の始まりにふさわしいワードだったのと、お口の困りごとで悩んでいらっしゃる患者様に夜明けが訪れますようにとのメッセージも込めている。
実家にモネの「印象・日の出」のレプリカがあったので、「ドーン」の名前の意味に引っ掛けて、診療室に飾っていた。紫色からオレンジ色に変わっていく空の色がきれいで気に入っていた。
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開業して10年くらい経った時に、父から宮崎県が誇る郷土画家、弥勒祐徳(みろく すけのり)先生の「西都原の太陽(古墳の上の太陽)」(1980/12/28作)という油絵をもらった。
「この日の出の絵、ドーンにピッタリじゃろ」と。
しばらく診療室に飾っていたのだが、激しいタッチと真っ黄色の燃え盛る炎のエネルギーが強すぎて、診療をしていても落ち着かないので、モネの「印象・日の出」にかけ直した。
弥勒先生は、先週の5/16 105歳で昇天された。
すぐに父からラインで、地方紙のおくやみ記事の写メが送られてきた。社会面の半分を占めていた。よほどの人でないとこういう扱いにはならないらしい。数々の美術展で最優秀賞、大賞、特選を何度も受賞されている方だから。
新聞記者であった父は、弥勒先生の絵が大好きで、何度も先生のことを記事にしていた。
それで先生とも交流をもち始め、何度か先生のアトリエにも2人でお邪魔したことがある。アトリエの入り口には大きな木彫りの仏像が何体も無造作に置かれていた。
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弥勒先生は気さくで穏やかな感じに見えるが、絵筆を持つと憑依する。
弥勒先生というと神楽や桜をテーマにした油絵が有名。
夜神楽で名高い宮崎の高千穂。
先生は神楽が始まるのを待って、始まると同時に筆を動かし始め、3メートルもあるキャンパスに、舞う人たちをパーっと描いていく。見たものが放つエネルギーを感じて、その場で描きたいというのが信念だったと聞いている。
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うちの診療室の日の出の油絵も、師走の寒い明け方、見渡す限り古墳しかないところで、日の出の瞬間をじっと待って、太陽が出てきた瞬間に筆を動かし始め、一気に描いたものだーと父が教えてくれた。
満開の桜の絵もたくさん描かれていた。
花は筆でバーっと描いてあるが、桜だとはっきりわかるのが不思議。間近で見るとほんとうにそこに桜が舞っているような錯覚に陥ってしまう。
芸術家ってすごい。自然や風景を見て、何かを感じ、それを外に向かって表現し、人の心を動かすのだから。
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昔、父が話してくれた弥勒先生のエピソードを思い出す。
長嶋茂雄監督が現役時代、春の宮崎キャンプの時に、たまたま小さな画廊で弥勒先生のミニ個展が開かれていた。地元紙の一面の一番下に小さく神楽のカラーの絵とともに広告してあった。
長嶋監督は新聞のその小さな神楽の絵を見逃さず、よほど気に入ったのだろう、お忍びで付き人もつけずに1人でその画廊を訪れたらしい。
そこのスタッフは、長嶋監督レベルの超有名人が、こんな小さな画廊に1人で、アポも取らずに来るなんて思ってないから、めちゃくちゃびっくりしたらしい(長嶋監督らしい笑)
監督は1時間くらい熱心に弥勒先生の絵画を見ながら、スタッフに「この先生の絵が欲しいんですが、もっと大きいサイズの絵はないですか?」って聞いてきたそう。
それをスタッフから間接的に聞いた弥勒先生が、横幅が3メートルくらいある神楽の絵を無料で長嶋監督にプレゼントした。
長嶋監督は大変恐縮して「いつかお礼をします」と。
さて宮崎キャンプが終わって、シーズン開幕前。NHKのスポーツキャスターの監督インタビューで、長嶋監督は殺風景な個室で、この弥勒先生の神楽の絵だけをバッグにインタビューを受けたのだ。
なんと粋なはからい!NHKで弥勒先生の絵を宣伝してくれたのだから。
そういえば、先生は生木に直接お地蔵さんを彫っていた。足場作りに1日(傾斜している場所なので足場不安定)、2日目から彫るけど、木が硬くて彫れない、図面はなし、立位での不安定な姿勢、2、3週間かけて1体を彫り上げる。すごいエネルギー。
「弥勒」という名前は本名だが、名前の通り(弥勒=未来に出現し、衆生(しゅじょう)を救うという仏)この人自身が仏様の生まれ変わりだと思った。
でないと、こんなこと普通の人間では到底できない。
そんなことを回想しながら、部屋の奥に仕舞い込んでいた弥勒先生の日の出の絵を久しぶりに出してみた。
なんと!今の私の心境にぴったり。
この絵は野心で燃え盛る若者にぴったりの絵かと思っていた。
ところが今の私は、消える前のろうそくがパッと明るくなるような気持ちなのだ。
このブログもそうだけど、「発信」していきたいという気持ちに燃えている。
弥勒先生、先生の絵をやっと飾りたい気持ちになりました。先生の絵からたくさんのエネルギーをいただき、残りの歯科医師人生を走り切っていきます。ご冥福をお祈り申し上げます。
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