ビーコルブースターが見たNCAA:Texas VS Abilene Christian

すごい試合を見てしまった。試合終了後にこの感情を伝えようとしたが、ツイートする手が震えていた。

2021 NCAAトーナメント男子 EASTリージョナル1回戦、第3シードのテキサス大学(以降"テキサス") VS 第14シードのアビリーン・クリスチャン大学(以降"ACU")の戦い。

「今までで印象に残ったバスケの試合5選は?」と問われれば迷わずこの試合も挙げたい。
でも、なぜ心に残ったか。少したって考えてみたら理由がわかった。
このチームにはビーコルにないものがあるからだ、と。

少しだけ自己紹介を。野球部だった中学時代にNBAに出会い(91-92 マジック・ジョンソン引退のNBAオールスターを見てしまったのがきっかけ)、高校からバスケをプレイ。趣味としてプレイヤーとNBA観戦を続けてきた。NCAAは男子をほそぼそと追いかけてきたがそれほど知識なし。日本のバスケはTVで見るくらいで、やはりNBAと思っていたが、Bリーグ開幕初年度、横浜ビー・コルセアーズ(通称ビーコル)に出会ってからはビーコルいち推しに変化。今や家庭ではビーコルの話題ばかり。

私のようなありふれたBリーグブースターにとっては、見る試合はほとんどが自分の推しチームになってくるはず。この試合はいつも自分が見ているバスケと違いすぎた。その大きなポイントはディフェンスのローテーション、ディシプリン、精神的タフさが充満していたからだと思う。

前提として、NCAAトーナメントやカンファレンスについての基本的な知識があった方がスムースだと思うので、そんなのまったく知らんよという方はJOURNEYMANさんのサイトやBall Otaku Brosさんのサイトなどを参考にしていただきたい。

概要を理解してもらった上で、まずは両校を比較。

テキサス

ハイメジャーのBig12カンファレンス所属。今期の成績はこちら

Big12トーナメントを制したバリバリの強豪校である。今年のBig12は10校中7校がNCAAトーナメントに出場し、AP Top25内に5校入っている中でのトーナメント優勝チームなので、もちろん狙うはFinal4&チャンピオン。ただ、2015年にシャカ・スマートHCが就任してからはNCAAトーナメントに出たり出なかったり、出ても初戦敗退が続いていたので、今年はやっと訪れた大チャンスの年。

↓は今シーズンのロスター。高校時代にTop100にランクインした選手を11人も抱えるパワーハウス。NBAドラフトの予想サイトであるNBADraft.netでも2021/3/25の更新時点で、10位にカイ・ジョーンズ、29位にグレッグ・ブラウン、52位にジェリコ・シムズがランクイン。他にもシニアGのマット・コールマンは全米屈指の強豪高校オークヒル・アカデミー卒でU18の米国代表経験もある。

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卒業生に目を向けると、NBAプレイヤーではあのケビン・デュラント、ラマーカス・オルドリッジ、マイルズ・ターナーなどなどなど、Bリーグでプレイした選手で言えば、プリンス・イベ(ビーコル!)やジョナサン・ホームズ(ビーコル!)、デクスター・ピットマンなど挙げれば切りがない。簡単に言うとおっそろしい才能が集まる所なのだ。

※これを書いている途中でシャカ・スマートHCがテキサスを去ることが報じられた。

ACU

ローメジャーのSouthlandカンファレンス所属。今期の成績はこちら

Southlandトーナメントで優勝し、通算2回目のNCAAトーナメント出場。目指すは歴史的なNCAAトーナメントでの初勝利、というチーム。

ハイメジャーからはカンファレンス・トーナメントの優勝校以外でも成績によっては4~10校程度(もっと?)がNCAAトーナメントに進むのに対し、ローメジャーはカンファレンス・トーナメントに優勝しない限りNCAAトーナメントに進める可能性はほぼゼロという格差がある。

しかもACUは長年NCAA DivisionⅡに所属していて、DivisionⅠに上がったのは2013-14シーズンから。バスケの歴史の深さではテキサスとは比べものにならない。
高校野球に例えれば甲子園常連の東海大相模あたりが、県予選をなんとか2回勝ち上がった新設高校を相手にするようなもの。

選手層はどうか。高校Top100にランクインした選手はもちろんいない。

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2021 NCAAトーナメント出場校で一番平均身長が低かったのがACUで、約190センチ。最高がUSCの約202センチ(データはこちら)。7フッターのコルトン・コールはプレイタイムが平均20分に満たないので、大体の時間で2メートルに満たないようなプレイヤーたちで戦う。
ただACUが全米一位に輝いたスタッツがある。相手チームのターンオーバーの数だ。そう、このチームは脅威のディフェンスチームなのだ。

前置きはここまでにしてプレイを観てみよう。ハイライトと最後の5分の映像と共にACUのポイントを挙げていく。

こっちがハイライト。

こっちが残り5分。

ACUの強さ ~D(Defense)面~

D1. 1 on 1で負けないフィジカルと脚力
D2.  ドライブヘルプからの猛烈なローテーションとクローズアウト
D3. ルーズボールへの素早い反応と恐れをしらない飛び込み
D4. ディシプリン(例:ドライブを止めに行く際に腕をシリンダーより前に出さない)

D1の例は実は上の動画の中ではあまり出てこないのだが、とにかく1 on 1のDが強烈。D4にも関連する部分だが、腕で止めずに脚を動かして体で止める。

D2の例は豊富だ。
ハイライトの00:21~00:28。32プレザントがクローズアウトし34コールがヘルプ、10ミラーが3線目として1人で2人を見るポジショニング、最後は打たれても顔のギリギリまで手を出してコンテスト。
ハイライトの02:32~02:40。10ミラーがインサイドヘルプしてクローズアウト、インサイドをダブルチームで守っていた4ダニエルズが素早くヘルプ、その後のクローズアウト。
とにかくヘルプのタイミングが早く、クローズアウトにどんどん行く。どうですかおっ母さん。
ハイライトの02:53~02:55のように2人がクローズアウトに行ってしまっても、行かないよりは行った方がいい、アウトナンバーはローテーションで捕まえればいいという思想。

D3の例。
残り5分の2:40~3:30。20メイソン、10ミラーの絶妙なヘルプポジション、32プレザントのディナイと10ミラーのヘルプ、3ポイントに対しては20メイソンの空間に飛ぶコンテスト、からの32プレザントと10ミラーのルーズボールに対する反応。2人とも相対するテキサスのプレイヤーより早く反応し、かつ飛び込みに行っている。大事。

D4、ディシプリン。ラグビーでメジャーになった言葉のような気がするが、規律を保って安易なファールをしない、という意味を含む。このディシプリンがACUは秀逸。
残り5分の9:13~9:26。最終的にはファールになってしまったが、10ミラーはできるだけ体をオフェンスの正面に入れて脚を動かして守る。抜かれそうになって腕をつかって止めて、ファールにならなきゃめっけもの的な守り方はしない。

最終的にテキサスが喫したターンオーバーは23個。ボックススコアはこちら

ACUの強さ ~O(Offense)面~

O1. 1 on 1で負けないフィジカル
O2. オフェンスリバウンドへの執着心

O面では、全体としてはスキル不足。正直なところ上2つのポイント以外は、長所はないと言ってもよい。P&Rもほとんどやらず昔ながらのインサイドに入れてからのキックでチャンスを狙う。
ただO1で挙げた中にガシガシ突っ込んでくるところは、ベースとして忘れてはいけない必須スキルだと思う。
ハイライトの05:08~05:13の10ミラーの当り慣れしたドライブよし。06:29~06:37で4ダニエルズの向かっていくドライブは20センチの身長差を覆す。
現代バスケはギャップを作ってからのイージーバスケットを狙いすぎて、ズレが作れなかった場合はゴールから遠ざかるタフショットで終わることが多い気がするが、このチームは逆に中に突っ込んであわよくばファールをもらおうとする。そこがいい。
O2では身長差関係なく、どんどんオフェンスリバウンド(OR)に飛び込む。素晴らしいORがいくつもあったのだが、この映像には残っていない。ORはACUの18に対しテキサスはわずか5。

ACUの強さ ~その他~

精神的なタフさ

結局一番感銘を受けたのはここ。相手がでかくて強力なテキサスだとしても、むしろ精神的に優位に立っちゃえといった意気込み。たとえミスしても、すぐ次のプレイに切り替えられるところ。それがこのチームの根底にある。
ハイライトの07:34~07:43。10ミラー、残り30秒で絶対にミスしてはいけないところでターンオーバーしても表情を変えず、”次の仕事が待っている”と切り替える。この精神がいい。

ACUの強さを挙げてみたが、箇条書きにするとすべてごく当たり前のことに見える。ただ、その徹底ぶり、40分間のすべてで1プレイに集中する姿勢。それがこのチームのすごいとこ。
そこが我が全推しチームの横浜ビーコルに欠けている部分でもある。
ビーコルに関わる誰かがこの試合を見てくれたら、とっても嬉しい。

最後に、奇跡の勝利に狂喜する学生たちの姿を。ACUの歴史として永遠に語り継がれる"One Shining Moment"。


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