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論語と算盤⑤理想と迷信: 1.道理ある希望を持て

戦争して負けては困るが、ただ国力を挙げて戦争にのみ奔(はし)るということは、王道に適するものではない。今日の時局に対して、われわれは左様なことまで心配せぬでも宜い訳であるが、これから先の商工業は如何にしたら宜かろうか。平和が克復したら、その後の実業界はどうなるかというようなことについては、意想外なる変化を生じて、仲には悪いと思ったことが善くなり、善いと思ったことが悪くもなろうから、今日から臆断はできない。しかし人は未来のことに向かって、ぜひとも理想は持つべきものであるから、たとえ、違却(いきゃく、不都合なこと)するとも一定の主義によって、行なうというようなことがなければならぬ。つまり、よく思い審(つまび)らかに考えて事に当たれば、必ず過ちは少ないものである。戦争のごとき事変の勃発には、かつて想像したものに違却を生ずることはあるが、およそ人の世に処するには、相当の趣味と理想とをもって道理から割り出して進むのが必要であると思う。ただその間に、いわゆる商業の徳義はどうしても立て通すようにして、最も重要なるは信である。この信の一字を守ることができなかったならば、われわれ実業界の基礎は鞏固(きょうこ)ということはできないのである。約言すれば、時局の平和となった暁には、別してわれわれ実業に従事する者の責任が重くなるのであろうと思う。独り責任が重いのみならず、諸君が経営せらるる事業についても、これが如何になるかということを予想して、その予想から充分なる道理を考定して、これによって活動せらるるようにありたいと考える。「道理ある希望を持って活発に働く国民」という標語は、概括的(がいかつてき)な言葉であるが、先頃ある亜米利加人がわが同胞を評して、日本人の全体を観察すると、各人皆希望をもって活発に勉強する国民であると言われて、私は大いに悦(よろこ)びました。私もかく老衰してはおるが、向後(こうご)益々国家の進運を希望としておる。また多数の人々の幸福を増すことを希望としておる。 実業家諸君もまた同様であろうと思う。時局の有無に関わらず、いやしくも実業に従事するものはかくありたい。将来はこうしなければならぬという希望は、誰もあるに相違ない。
況(いわ)んや、かかる大戦に際しては、将来どう変化するだろうかという予想は、最も慎思熟慮を要することと思う。その経営せらるる事業に応じて、宜しきを制して行くということは必要だろうと思うが、これを処するについて、ぜひ一つ守らなければならぬことは、前にも述べた商業道徳である。約すれば信の一字である。これが御同様、実業者に健全に行なわれていったならば、私は日本の実業界の富はさらに増大して、同時に人格も大いに進むであろうと思う。単に時局についてのみ希望する訳ではないが、かかる時機は別して変化が多いことを予想すると、お互いに負担しておる職分から考えたら、宜しきを制することができるであろうと思うのである。

現代では国際政治も商いも非常に複雑になって、どうすれば成功するとかどうすれば長く存続できるかなどは全く予想のつかない時代になってしまったと思うのですが、こじんまりと一人商売を行なっている身としては、商業道徳と信頼というのが非常に大事だと思う今日この頃です。

幸いなこと私自身は信頼だけでお仕事させてもらっているのですが、付き合う相手をどう判断するのかというのが非常に大切だと思っています。

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