【NHK「視点論点」採点】2011年12月2日〰16日

●NHK「視点論点」は言葉のフィギュア競技大会だ。10分間の原稿を紹介しているが、文字であらわすとたったこれだけの文字数だが、テレビの特性を生かして組み立ててゆくと、字数以上の内容が届く。個々人の腕前がはっきりあらわれて面白い。 

◆12月2日「日本人の底力」安藤忠雄

 問題提起のためのマッピングに時間がかかりすぎて、これから何を聴きとればいいのか受け皿が作れない。4:23になって突然「もも・かき育英会」のことが紹介されて教育論かと思えば4:25に急きょ、表題にある「日本人の底力」と「1968年、1945年を乗り切った日本人の底力に三度目はあるか」という切り出し。耳がそばだったが再び教育論に戻り、若い人たちのアプローチが紹介され、そこから「教養と野生」または「野心と野生と目標」という興味深いキーワードが提供され、再び耳がそばだったが、それをどうするかという踏込はなし。結局冒頭5分ほどは不要な話で、残り5分かけて「聴きたい話の入口」にたどりついた、という印象。40点。

◆12月3日「維新の会・大阪都のゆくえ」大森彌

 「大阪都」という名称にこだわりすぎず「特別自治区」としての大阪の将来についての解説であったところがいい。また、すぐに検証すべき点を的確にわかりやすく並べた点は、見ている側にもうれしい。メモを残しておけば、自分でも検証できそうな切り口の検証点であった。開かれている感じがいい。タイトルには「維新の会」という名称が盛り込まれているがこれに関する踏込は一切なかった。これはタイトルの附け方の大ミス。また、図版を使っていた点はよかったが、途中で地震速報が入って、図版がわかりにくくなった。これは「致し方ない」問題ではない。製作者の想像力がたりない。100万回に1回のことを考えて作るから番組づくりは面白いのに。70点。

◆12月6日「談志死して落語を残す」堀井憲一郎

 8割は他の番組や雑誌、書籍でみんな「知っている」ようなこと。この番組をチェックするレベルの客はそんなことにはもはや興味はない。前提として必要なら1分で済ませるべき内容だった。残る2割のうち1割は結局立川流の提灯持ちみたいになってしまって、説得力なし。言っただけ損(立川流にとっても)。04:28頃に立川談志が「他の落語家の型を自由に取り込んでいた」という話だけが面白かったが、これも匂いをかがされただけでまったく掘り下げられることはなかった。しかし「落語の編集者としての立川談志」という切り口はお土産にもらえた感がある。そのお代として、10点。

◆12月7日「ミャンマー民主化は本当か」根本敬

 冒頭から2分のあいだにミャンマー民主化に関する疑問点と、それに対する日本を含めた各国の対応に対する疑問点を「過不足ない情報量」で提示し、その後2分で基本的な問題提起を完了。実にいい要約力。さらにカチン州におけるキリスト教との宗教問題にも触れ、NLD問題については「行くも地獄、行かぬも地獄」と的確に状況を説明。ビルマ軍政の巧妙なやり口について非常に手際よく解説した。85点。

◆12月8日「北極オゾンホールとその対策」中島英彰

 冒頭30秒で概略を説明し、その後テンポよくフロンとの因果関係、南極オゾンホールの深刻化、オゾンホール生成のしくみをわかりやすく説明。26分から対策として観測の継続、回収処理の徹底、国際協力の3点に絞ってメッセージを打ち出した点。さらに地球温暖化を引き合いにだしながら最後の2分で「インセンティブのある国際協力で途上国の参加を得るべき」と打ち出した。むしろここにもう1分かけてほしかった。70点。

◆12月12日(月)「日本人は契約・交渉ベタ?」福井健策

 視聴者とのコンセンサスを作ろうとする意欲が前面に立ちすぎて文脈からそれた違和感のある表情や親近感づくりの言葉などが目立つ。事実の積み重ねは丁寧だがなかなか本題に届かない。3分たって「契約ベタ」の文言。その後再び事例紹介が続き「なぜ、どう下手なのか」という掘り下げなし。4:28ようやく「法曹界の教育プログラム」という話がでたが詳しい紹介なし。この浅さでは新聞の読者投稿のレベルと変わらない。「単一(民族)」および引用著書名の間違いを編集でカットした跡あり、2度NGならとりなおすべき。10点。

◆12月13日「節電の冬」山川文子

 前提づくりに1分。前半はひたすらデータから主題を引き出して工夫のポイントを具多的に紹介。用法の特性をうまく要約し、懇切丁寧。熱源、照明など、分野ごとに攻め分け、家庭内の具体的方法と制度的改善の両面から説く。ただ「節電生活全体」をどう考えるべきかというデッサンにまで話が及んでいないので、視る側はメモをとらなければ役立てようがない。4:28に「無理や我慢の節電ではなく、無駄を省く節電を長く続ける」「この冬は少ないエネルギーでくらすライフスタイルを」というフレーズ。そこから先にデッサンがあるはずなのに残念。65点

◆12月14日「秋岡芳夫のメッセージ」時松辰夫

 導入が具体的。10秒足らずで受け皿を作った。その後2分半で自らのプロフィール、秋岡氏とのつながり~秋岡氏の基本的情報を提示完了。写真資料を豊富に提示しながら、それに頼りすぎない。4:22からは事績の画期性を紹介。時系列的に1分毎1例のペースで紹介し、その都度成果をまとめる。まったく無駄がない。最後の10秒で震災復興につながればとの大きな期待を述べ見事に着地。100点


◆12月15日「COP17報告」澤昭裕

 冒頭「時代を画する」「京都議定書が終わりを告げた」などの言葉選びでがっちり耳をひきつけた。本題に入って「京都議定書への道~問題の種」へと話をすすめ、さらに軸をEUに移して「EUの思惑~結果~反省~背水の陣~粘りの交渉」という物語的構成でCOP17の問題をうまく説明。時系列と因果関係をきれいに沿わせた話の進め方。後半5分は、日本のこれからの役割について「日本のCOP17報道の問題点」を入口に解説。従来構図に嵌め込んだだけの怠惰な報道姿勢に批判を入れ、一方、排出量的にはせいぜい世界の4%までしか減らせない日本にとっては「立場の違う国を結ぶルールづくりを進める」ことこそが大事な役割であると提言。ただ、この提言について考えるヒントが、実は今回の前半5分で述べられている。一つ提案するならば、前半5分と後半5分の話を入れ替える方法。放送は読み返しが効かないのが弱点だから、最後にその工夫が必要となる。これはもはや放送番組としての表現力の問題で、制作者が見抜くべき問題ではなかったか。あえてその分をひいて95点とするが、この95点は100点を超えることが約束された95点だ。

◆12月16日(金)「40周年を迎える日中関係」国分良成

 冒頭、「首相訪中延期」「南京事件74周年」で耳をひきつけて話が動き始める。日中関係の推移について過去40年の「親近感」と「経済依存度」の推移を対照しながら説明し、4:23に、国交正常化40周年を機にした状況検証と考察を提言した。これが今回のスタートラインか。その後も関係の推移に視点を置き、経済依存度と親近感が逆相で上下することを指摘するが、事件や対日動向の影響についても説明。さらに4:25からは2006年に結ばれた「戦略的互恵関係」について解説をしはじめ、結局それが国民的理解を得ていないことを指摘。また、日米関係の推移が中国に影響を与えることにも言及したが、最後の2分は駆け込み状態となった。この方は本当はこの先もう少し大事な事をしゃべりたかったんじゃないか?「40周年を機にした検証」までの話はもっと圧縮してもよかったのではないか。「戦略的互恵関係の検証」から始めれば、もう一段踏み込めたのにと思う。65点。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?