フォーレ(1845/5/12 - 1924/11/4)
1920年10月1日フォーレはパリ音楽院学長を辞しました。その前年より取り組んでいたピアノ五重奏曲第二番ハ短調作品115を翌1921年完成させます。四楽章構成、ピアノのアルペジオに導かれて息の長い主題から始まります。矢代秋雄さんの慧眼によればどの楽章もA-B-C-A’-B’-C’-A”-B”-C”-コーダという形式で把握できると思います。ペルルミュテールのピアノにパレナン弦楽四重奏団、ジャン・ユボーとヴィア・ノヴァ四重奏団、ジャン=フィリップ・コラールとパレナン四重奏団を愛聴してます。
その年2月、最後の舟唄第13番ハ長調作品116を完成させました。他の舟唄にはない不思議な浮遊感があります。ピアノ独奏曲はジャン・ユボーかJ=P・コラール、ペルルミュテールを好んで聴いています。
続いて取り組んだのがチェロとピアノのためのソナタ第二番ト短調作品117でした。夏の間体調崩して中断されていたようですが11月に完成、三楽章構成です。第2楽章は政府から依頼で作曲したナポレオン1世のための「葬送歌」が転用されているとの事です。カノンが目立つ快活な第1楽章、有名な「エレジー」を連想しますがより気品を感じるメロディの第2楽章、スケルツォと評する人もいる快活で目まぐるしい展開の第3楽章からなり、若々しさすら感じます。ポール・トルトゥリエはユボー盤とハイドシェック盤の二種、J=P•コラールとフレデリック・ロデオンを聴きます。アンドレ・ナヴァッラの録音が無さそうなのが残念。
更なる傑作が続きます。「幻想の水平線」作品118です。第一次世界大戦で夭折したJean de la Ville de Mirmont作の四詩からなる連作歌曲集です。1. 海ははてなく 2. われ船に乗りぬ 3. 月の女神セレネよ 4.船よ、われらおん身らを愛しなば… 最初の二曲は海を前に、あるいは海に乗り出す動きと勢いに満ちており、三曲目は穏やかな夜想曲。終曲で旅に出たい満たされぬ思いを再び力強く歌います。初演したシャルル・パンゼラの録音が聴けます。カミーユ・モラーヌも素晴らしい。
12月に夜想曲第13番ロ短調作品119を作曲、最後のピアノ曲で傑作の誉れが高いですね。
冒頭などバッハを連想します。紛れもなくフォーレなんすけど。
1922年の初めに出版社からの提案がきっかけに、ただし健康が許さずなかなか思うように筆が進まない中、とうとう1923年2月にピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重奏曲作品120が完成、初演ではなく再演がティボー、カザルス、コルトーでした(録音があればいいのに!)。この曲は私にとって至高の名曲で、虚飾のないシンプルさ、中間楽章の美しさ、何よりも終楽章の圧倒的な高揚感が大好きです。ユボーとアンドレ・ナヴァッラらの燻し銀の録音も、より若々しいデュメイ、J=P・コラールらの録音もどちらも良い。
衰える健康のなか何とか1924年9月に完成させた彼の唯一の弦楽四重奏曲作品121が遺作となりました。フォーレの仕事の初演で第1ヴァイオリンをティボーが、第二ヴァイオリンをロベール・クレットリーが担当しました。初演以来遺作であるがために、(特に第3楽章に)フォーレが望んでいた生き生きさが抑制される傾向があったと指摘する人もあります。急-緩-急の3楽章で全編対位法的なカノンやフゲッタが多様されていて、旋律美は限定的なためとっつきにくいかもしれない。また三章とも2あるいは4拍子系で変化に乏しく、私も第1楽章と第2楽章の区別がつかなくなる事があります。第3楽章でピチカートが入ってくるとちょっとだけ空気が変わりますね。
1929年18歳でアンドレ・ナヴァッラが一員になったクレットリー四重奏団に本曲の録音があります。ポルタメントの多用が時代を感じさせますが結果古い録音からも不思議と華やいだ音楽に聴こえましたが、やはり終楽章はもっと活力があっていいかも。パレナン弦楽四重奏団ももう少しかなあ。もっといろいろ聴いてみなくちゃ。エベーヌ弦楽四重奏団、かなりイイと思いました。
これを言ってしまうと元も子もないんですが、フォーレにはやっぱりピアノがよく似合うってことかもしれません。