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ウィーンを去る: その2: フィリップ・ジョルダン

 2025年の任期満了をもって2020 年から勤めたウィーン国立歌劇場の音楽監督を辞すると公表したフィリップ・ジョルダンですが、今後はどのような活躍の場が得られるのでしょうか?
 アルミン・ジョルダンの息子さんというだけで私などは贔屓してしまいます。ダニエル・バレンボイムのベルリン州立歌劇場でアシスタントを経て急速に注目されてゆきました。おそらくグラインドボーンの「カルメン」が最初に見聞きした演目でしたが、活きのよいしなやかな音楽と、ちょっとギャップを感じる指揮姿が印象に残りました。それからウィーンでのマスネ「ウェルテル」、チューリッヒでのブゾーニ「ファウスト博士」、ワーグナー「タンホイザー」など。
 2009年から長期に渡ってパリ・オペラ座の音楽監督を務め、さらに活躍の場を広げました。バイロイトにも登場して好評を博しました。レパートリーは広大ですね。チャイコフスキー交響曲全集からラヴェル「ダフニスとクロエ」にR. シュトラウス「アルプス交響曲」にシェーンベルク「モーゼとアーロン」、そしてどれも本当に聴かせます。
 ウィーン交響楽団との今や珍しいスタジオ収録(ブラームスはライブだったか)のディスク、ベートーヴェン、ベルリオーズ、シューベルトなどが彼の美質を最もよく示している(映像で気が散らない分ますます)と感じます。楽器間のバランスを微細にコントロールして各声部がよく聞き取れる透明度の高さ。ピリオドアプローチの洗礼を受けながら独自に消化しているなと感じさせるのは、ワンフレーズであったり、数小節にわたる長いフレーズ単位の場合もあるんですが、細かいクレッシェンド、デクレッシェンドの多用です。結果テンポ変化に頼らない揺らぎのようなものを感じるのと、決して何となく演奏してますみたいな流された部分がなく入念な意志も感じられる。でも何故だか不自然ではない(個人の感想です)。
 ウィーン国立歌劇場との仕事の公式な記録はリリースが予告されている「パルジファル」だけになるのでしょうか。だとすればカウフマン様に感謝せねばなるまい。

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