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ツェムリンスキー「抒情交響曲」 2

 耳で聴いていて曲の流れが一旦途切れるところと、内容や構成上の区切りを(おそらくわざと)一致させたりしなかったりなのは、ショスタコーヴィチの交響曲第十四番について諸井誠さんが指摘していた事と同じでした。つまり流れの切れ目では(1), (2,3,4), (5,6,7)ですが、歌詞や音楽内容からグループ分けするならば(1,2)、(3,4)、(5,6,7)とすべきでしょう。各グループ内での曲調のコントラストは最大限になるようにしながら、メロディの回帰や類似したモチーフの使用で巧みに統一が図られています。
 「愛」を唄う3、4を中心に鏡像的な構成になってるとも考えます。マーラーの交響曲第七番や十番、バルトーク弦楽四重奏曲第四番や五番などですね。それにベルク「ルル」補筆完成版。
 加えて「大地の歌」よりも本曲はオペラティックですらあると感じます。また自分で実演できたこともあって「大地の歌」よりもオーケストレーション上の声楽パートへの配慮もより周到なのでは。
 スコアを覗いてみると、冒頭から二点面白いところがありました。まずティンパニのトレモロソロから始まる最初の小節にいきなりリタルダンドって書いてある(!)。基本のテンポが皆に示される筈の最初の小節でしかもティンパニのソロのトレモロだけで、いきなりリタルダンドしてることをどうやって皆に感じさせろというのさ? こりゃ無茶なんで殆どの演奏では無視されている気がします。
 もう一点は休符無しでの大きなブレス記号(’)が冒頭部分に多用されています。マーラーの得意技を踏襲してるでしょうが、これもどう扱うか厄介です。マーラーの交響曲第二番第1楽章や第五番第5楽章などがいい例で指揮者によって全然扱いが違う。どちらも私大好きな指揮者、演奏ですが、インバルははっきりブレスをつける、テンシュテットはほとんど入れない。
 「抒情交響曲」冒頭のモットー主題ではブレスをあまり強調しないのが普通のようですが、モットー主題を二度目繰り返した(確保の)後に弦楽器の下降メロディで一段落する前のブレス記号について(スコア6ページ最後)、シャイーとシノーポリは意識して長めにとっています。それ以上に印象的なのはアルミン・ジョルダンでハッとする長さに加えその後の弦が溜め息をつくように聞こえてくる。全篇ジョルダンはマーラー演奏におけるテンシュテットを思わせる絶妙な表現で、終章7での変容したモットー主題も一番感銘を受けました。
 もう一人のお勧めは冒頭いきなりリタルダンド問題に果敢に挑んでいるツァグロセクだと思います。モットー主題のテンポ設定がかなりゆっくりで、冒頭のティンパニトレモロのクレッシェンドした上に、もう一段もう一呼吸クレッシェンドしてる(奏者大変)ように聴こえ、いきなりリタルダンドを実感できました。もう一つ挙げると、やや耽美的に遅めに演奏されることも多い2のテンポがとても速く軽やか(これも演奏大変そう)なのにアンサンブルは乱れない(ライブですよ)。7のモットー主題は複調の軋みが強調され崩壊感すら覚えるキツさ。マーラー演奏におけるインバルの現代性に匹敵すると思ってます(個人の意見です)。
 正直準備が大変なんですが今後も可能な限りツェムリンスキーの楽曲を取り上げてみようかと考えてます。
 一点だけショックだったこと、マゼール・ベルリンフィル盤を聴き直して愕然、2の後奏でのモットー主題が厚い響きに埋もれて聴こえてこない。私の刷り込みであるクレー盤でははっきり聴こえます。この部分でもアルミン・ジョルダン盤が特別で、女声のメロディとの出会いが感動的です。マゼール盤で最初にこの曲に親しんだ方はこの部分でモットー主題が再現されてる事に気づかないのでは。それではこの部の意味深さが失われます。

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