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エロイカの第4楽章のアルコ

 マタチッチのベートーヴェン交響曲全集が手元に届きました。まだまだ全部聴くまでには至りませんが、解説の金子健志さんの文章を読んだだけでかなり聴いたような気分になってしまいます。NHK-FMでの解説が素晴らしく、番組では放送プログラムとは別の演奏者のレコードをかけたりして耳からも色々と教えてくださいました。今回解説で指摘のポイント多数の中で、第三番第4楽章冒頭に注目してみます。
 嵐のような序奏の後、プロメテウス主題の伴奏音形から始まります。弦楽器のピチカート、更に木管楽器と呼び交わして繰り返すところは通常ピチカートのままなのですが、マタチッチ指揮では弓で弾く(アルコ)ように変えられています。スコアでは次のようになっています。

 



 

 わかりづらいかもですがarcoの指示はなく、強弱の変更もないが、最初の8分音符を二回目はわざわざ4分音符に変えています。ピチカートははじく奏法ですから、音の持続時間を明確に変えることはできません。それでも変化をつけねばということで二回目を少し強く、意識して音量を上げている演奏も見受けられます。
 違いをはっきりさせるためにアルコ、弓で弾くに変更するアイディアですね。マタチッチの他にも、私にとって曲者のシャイーもやはり採用しています。金子健志さんの指摘で驚いたのは確かにピリオド・オーケストラ最右翼のクリヴィヌも採用している! さらにノーリントンの旧盤(ロンドンクラシカルプレイヤーズ)でもやってましたびつくり(でもシュトゥットガルトではピチカートそのままでした)。彼らにしてみれば作曲者が何らかの区別を求めて書いてあることをないがしろにしていない、つまり楽譜に書いてないことをしているが逆説的には忠実に意図を生かしている、ということになるのでしょうか。
 コリン・デイヴィス指揮BBC交響楽団のベートーヴェン「交響曲第五番」で、スコア上第4楽章終結のティンパニのトレモロがなぜだか分割して記譜されているのを何とか音化しようと努力しているのが有名なんで(金子健志さんFM知識です)ここはどうしてるかなと聴いてみるとピチカートのままでいたって普通でした(いかん妙なものを探しまわって喜んでる状態に)。
 マルケヴィッチ版も参考にしたというシャイー。ではマルケヴィッチ版に依ったという飯守泰次郎さんは? やっぱり採用のアルコでした(彼の遺産にはもう一組の全集がありますが未聴です)。それでは1956-7年録音のマルケヴィッチ指揮シンフォニー・オブ・ジ・エアではどうかというとピチカートのままでした。マルケヴィッチ版は晩年の労作でしたから考えの変化があったということでしょうか。
 そしてもう一人、マルティノンもアルコ派でしたね。
 さてこの変更の源流は…確認しましたらなんと、最古の全交響曲録音、ワインガルトナーのようです。SP録音の効果を考慮したのか、それとも日常的変更なのか。

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