独ソ戦 絶滅戦争の惨禍

「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」を読んだ。旧来の独ソ戦像とは異なる、新しい研究に基づいた独ソ戦における両国の戦争指導とその目指すところをその結果とともに述べて、独ソ戦全体を俯瞰する内容になっている。

読んだ印象だが、ドイツの不手際を強調する一方で、ソ連側は「作戦術」なるものを巧みに用いたことで戦争後半のドイツ軍を効果的に撃滅した、という優れた点を強調して述べている。

この辺は著者のこの本における主眼の一つが従来の独ソ戦像を覆す、という点にあることが原因と思われる。ドイツについては、よく言われるヒトラーの横やりが無ければ上手くいっていた、というような言説に反して、開戦前から総統と軍、あるいは軍内部でも目的を統一できていなかったり、ヒトラーのみならず軍も見通しに甘さがあったりといった不手際があったことを明らかにすることで従来の独ソ戦像を覆す。

一方ソ連側はよく言われる非人道的な人海戦術、というようなイメージとは裏腹に、ソ連崩壊後明らかにされた資料によると作戦術を用いた綿密な作戦立案によってドイツ軍に大打撃を与えたということが分かった、ということが述べられている。興味深い内容だが、その作戦術の内容や、作戦術を用いてどのように作戦が立てられたのかなどの具体的な記述があまりなく、物足りなく感じた。

ドイツ軍については不手際の記述が目立ち、ソ連については優れた面が強調されているという風に扱いが対照的なのは、ドイツ側の資料は将軍たちの回顧録やパウルカレルの戦記などの形でよく知られていたが、そこに書かれた「良い面」を覆す事実がのちの研究で明らかになってきているということがあり、一方ソ連側はソ連崩壊によってようやく当時の資料が公開されたことで、共産党独裁の非人道的な「悪いイメージ」があるが、作戦術のような高度で綿密な技術を用いていたことが分かってきた、という対照的な事情があるからなのかと思う。

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