ライスシャワーのおはなし

今日3月5日はライスシャワーの誕生日。
ウマ娘の2期でも語られた経緯は言うまでもなく知れ渡ったことだろうし、
JRAのCMも最強クラスに出来がいい。
サイレンスズカと同じく非業の死を迎えた名馬という側面もあり、その名は忘れられることはないだろう。

おりしも今シーズンは彼がもっとも光り輝いた京都競馬場のリニューアルオープンということもあり、そのころには学生時代を過ごした京都に訪問し、
できることなら天皇賞・春でも観戦がてら石碑に参ろうかとも思っている。

ライスシャワーのヒール性はアニメでも本編でも、その当時の空気としても、「そこまで言われるようなもんなんですか?」と思っている人、実は結構多いのではないだろうか。確かに3冠という偉業を阻止したのはあるだろうし、天皇賞春3連覇を阻止したってのもあるけど、2冠で終わった馬なんていっぱいいるし、天皇賞春を2連覇した馬だってキタサンとかそれなりにいるじゃん、なんでそこまでライスだけが言われにゃいかんの?と

・ライスの阻止したミホノブルボンの3冠について
まず、ミホノブルボンの3冠については「無敗であった」という点と、もう一つ「ミホノブルボンが2着に敗れた」という点がすさまじく大きい。

無敗の2冠馬についてはトキノミノル以下数頭いるわけだが、トキノミノルのように3冠目に出走できなかったケースも数多くあり、2冠馬が3冠目の菊花賞に出走し敗れた例は近年ではネオユニヴァースやメイショウサムソンなど結構ある。ただこれらの複合系

『無敗の2冠馬が挑んだ菊花賞でその馬を「2着に」破った』

という例は、この時のライスシャワーのみが行っており、その後も出てきていない。3冠チャレンジが2着に終わった例としても1950のクモノハナ、1953のボストニアンとミホノブルボンの3例しかなく、無敗までついたミホノブルボンの偉業は、阻止という面からでもオンリーワンであるといえる。

・メジロマックイーンの天皇賞・春3連覇阻止について

ちょっと考えていただくとわかるのだが、こちらもかなり特殊性が高い。
何しろ「3連覇に挑む馬そのものがいない」のである!!!

天皇賞・春の2連覇はむしろ「長距離馬(ステイヤー)」が特殊ポジションになった近年のほうが多く誕生しており、近い順だとフィエールマン(2019・2020)、キタサンブラック(2016・2017)、フェノーメノ(2013・2014)、テイエムオペラオー(2000・2001)、そしてその前がメジロマックイーン(1991・1992)である。

このうちで、なんと3連覇に挑んだ馬自体が「マックイーンしかいない」という現実がある。フェノーメノは3連覇に挑みかけたが、日経賞後に故障で引退しており、現代競馬は早期引退が多く、出ればまだ勝てるんじゃないかなあ?と思われつつも前年の有馬で引退してしまうのはよくあること。

そんな意味からでも、マックイーンの3連覇挑戦は挑戦レベルでも長い競馬の歴史上マックイーンしか挑んでいないまさしく「夢」であり、今後も出てくるかどうかすらわからない。ある意味「3冠」よりもレアケースなのだ。

それを、ライスシャワーはそのマックイーンを「2着」に破っている。
もはやとんでもないレベルのストッパーである。
歴史的偉業ブレイカーと言ってもいいレベルである。
競馬の神様がゲームクリアさせないために置いた理不尽ボスのようである。

そして、何よりライスシャワーの勝ったGⅠの3つの内2つがこの阻止レースであり、重賞としてみても他にはGⅡの日経賞しか勝っていない。
とんでもなく強い馬が阻止するならまだしも、長距離以外ではそこそこの結果しか出せていない馬がこのブレイカーになるわけだから、そりゃ確かに言われるわなあ、というのが実感である。

・それでも、ライスはすごいのです
ライスシャワーの勝ったもう一つのGⅠ、2回目の天皇賞についてはタブーともいえる早仕掛けから10cm差の薄氷の勝利だった。その後やっと認められたライスは宝塚記念で帰らぬ馬となるが、この天皇賞・春において成し遂げた勝利は唯一「ライスシャワーのみが成し遂げた偉業」である。

長い競馬の歴史の中で、「天皇賞・春を隔年制覇している」
競走馬(1993・1995)はライスシャワーの他には存在していない。

中間の1994年、日経賞後に骨折し不出走となった天皇賞・春を制したのはビワハヤヒデだった、果たしてもし、ライスシャワーが挑めていたのなら、ビワハヤヒデに勝てたのか、それは正直わからない。

こう思うのだ、メジロマックイーンの3連覇を阻止したライスシャワーこそが、その阻んだ天皇賞・春の3連覇を成し遂げる最初の馬になる。
そんなストーリーもあったのではないか。

そんな夢を見るのだ。

ライスシャワーの父リアルシャダイは社台の吉田善哉氏の持ち馬にしてシャダイの冠を背負って海外で活躍し、日本に種牡馬として輸入された。
ロベルト系のヘイルトゥリーズン系であるリアルシャダイは、その当時の絶対的種牡馬だったノーザンテーストからリーディングを奪い取るに至る。
産駒の足元の弱さからライスを筆頭に「未完」「非業」と評されることが多かったが、その絶頂はまさしくそのライスの勝った1995天皇賞・春だった。

1着 ライスシャワー 2着 ステージチャンプ 3着 ハギノリアルキング
これらはすべてリアルシャダイの産駒であった。

そのリアルシャダイも、吉田善哉氏の逝去後は活躍馬を出せなくなる。
まるで吉田善哉氏のために活躍馬を出していたようだとまで言われた。

その吉田善哉氏自らが最後の大仕事として導入したサンデーサイレンスによる影響はあっただろうが、今はそのリアルシャダイの直系たる子孫はどこにも残っていない。

ライスのライバルたるミホノブルボンも、メジロマックイーンも、もはや直系となる子孫はどこにもおらず、牝系にその名を残すのみになった。

けれど、きっとそこで終わりではないのだ。

天皇賞・春を勝つ馬が今年も現れる。
今年はやっと淀の天皇賞だ。
菊花賞を勝つ馬が今年も現れる。
今年はやっと淀の菊花賞だ。

その時にふっと思い出す。淀に愛された漆黒のステイヤーがいたことを。
そしてその好敵手たちを。
もしかしたら、この馬こそが?

きっと、夢はつながっているのだ。

今年は二冠馬が出るかはわからない。
タイトルホルダーは天皇賞・春を連覇できないかもしれないし、もしかしたら勝った馬が3連覇を成し遂げる最初の1勝となるのかもしれない。

かつてステイヤーが春の盾を、菊を争った時代。
「最後のステイヤー」と呼ばれるライスシャワーが、最期になるかどうかはまだわからない。

淀の勝者に祝福あれ。

今年も春はやってくる。


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