『かわいそうだね?』綿矢りさ

※内輪用の文章なので、表題作のネタバレを大いに含みます。
 知らない人がもし来てしまったら、まず来ないでしょうけれど、ご承知くださいませ。


 表題の本を課題作にした理由が、今となってはもう思い出せない。たぶん、その時はこの作品に対して「Aである」と言い切れるくらい、確固たる何かがあったんだと思う。たしか、前の夏の同期会に飲み会する時に読書会しようってなって、その時に挙げたけど数の関係で辞めたのだ。昔わざわざ挙げた本だから、きっとすぐにレジュメも書けるだろうと高をくくっていた。その結果がKONOZAMAだ。振り回されて迷走している様子に、ぜひ同情してほしい。

 仮にも課題作として挙げたのだから、項目をあげて報告書のようにまとめようと思ったけれど、無理だった。どう頑張って文章にしても、「せやな…」か「せやろか?」に行きついたからだ。主人公樹理恵ちゃんの独白に2つの合いの手を入れ続けていたら樹理恵ちゃんがブチ切れて話を解決するべく動いてしまい(解決できた訳ではない)、読者たる私が置いて行かれて、読み終わった後には引っ越しを終えて家具を引き払って何もなくなったような、すっきりして何もない寂しさが残っただけだった。なんだったんだろう。みんなこれ読んで140文字できちんとした感想文を書けるんだろうか。私は無理だ。

 私はキャラクター読みが好きだ。主人公の言うことは基本的に信じるし、基本的に応援する。人間性を気に入った主人公なら幸せになってほしいし、気に入らなかったらささやかな不幸に遭ってほしいなと思う。樹理恵ちゃんは、見事なまでに気に入ったところも気に入らなかったところもあったせいで、幸せでも不幸せでもダメな気がして、「生きてくれ」に行きついた。
 めっちゃお気に入りの服を買って最高にルンルンしてるときにカレーのシミを作ってしまって凹み、家に帰って頑張ってシミ抜きしたらきれいに取れて、ルンルン気分が復活した後に「あれ?クリーニングに出せばもっときれいになったんじゃね?」とか思い当たって悶々としてほしい。

  ↑のようにやたら細かい設定の二次創作をしたくなるくらい、綿矢先生は細かい描写から人物像を妙に具体的にするのがとてもうまかった。文章のくどさにもつながっているのだけれど、アキヨさんのパンツといい、樹理恵のアンクレットといい、キャラクターがイキイキするのに必要な小道具をわかって使っているなぁと思う。自分が監督になって映像化するならどんな小道具にしようかなぁ、って想像しやすいのだ。

  それぞれの登場人物の使っていそうな私物や口癖がすぐに思いつくのに、私はこの作品がどういう結末を迎えるのかさっぱり分からなかった。何回か読んだのに。正直なところ、アキヨさんが就職して隆大の家を出ていき、樹理恵ちゃんは腑に落ちないながらも隆大との交際を続けてもおかしくないと思っていた。たぶんしばらくして読み直したら「関西弁でキレる」ということだけ覚えていて、キレるまでの過程で50回くらいびっくりすると思う。

 綿矢りさ先生の作品を読んだ後、どうやら私は迷子になる。一様に叩けもしないし、読後感はすっきりしているのにどこか腑に落ちなくて、狐に化かされた気分になる。相反する二つの感情が同時にやってきて読んだ時のコンディションに合わせて右へ左へと触れるので、感想一つまとめるだけでも大いに苦労した。

 ただ、今後も感想が変わらない個所が1個だけある。隆大だ。なんだお前。めっちゃ嫌いだ。無理だ。卸したての高い革靴でルンルン歩いて最高の気分の時に、ウンコ踏めばいい。予期せず踏め。気持ち悪すぎて登場シーンのすべてにケチをつけたくなる。…これは綿矢大先生の綿密なる人物描写のなせる業である。私の好みとかそういうのではない。そういうのではない。

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