アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

※身内向け。ネタバレがたくさんあるのでもしたまたま見かけたという方は気を付けてね

ハヤカワ文庫(1979) てっきり新訳かと思ってたけれど違った。これ準拠で感想書いてます。

鋼鉄都市

 昔『我はロボット』を読んだとき、特に大した感動を覚えなかったことを覚えている。作中のロボットが面白みがなくて、この本読むなら『火の鳥』のロビタのエピソードをまとめたやつを読む方が絶対楽しいし、ロビタはかわいい。まとめると、キャラクターが立っていないから好みではなかったのだと思う。

 ずいぶんと前置きが長くなったけれど、『鋼鉄都市』は楽しんで読めた。ちょうどその時人間とAIの交流を描いたアニメの追っかけをしていて、なんとなく親近感がわいたからだ。
 帯は正直なところ購買意欲はそそられなかったが(「宇宙最強のツンデレがここにある!」ってなんだよ)、『星を継ぐもの』を読んでからついつい集めてしまっているし、といった理由で買いに行ったのだと思う。

 というわけで、印象が強かったポイントの感想を。

1.クレーマーを黙らせるには【靴屋での突発事件

 ダニール!!!!やるやん…
 私は人がやらなくていいものは人がやる意味をいまいち見出せないし、通販で買うのとロボットの対面販売がどう違うのか正直よくわからない。
 なのでダニールが光線銃を向けて「人は撃てないけど人に向けるのはセーフ」と言ってのけたのはとても痛快だった。さんざん怯えたその刑事さん、ロボットなんやで。

2.名前の由来ってそんなに気になることなのか…。【家族への紹介】

 名づけは大事なんだな。それだけ聖書が身近なものになっているとは。ジェシィがあれだけ引きずるのが、うまく自分の感覚に落とし込めなくて悩んだ記憶がある。うまく翻案というか例えてくれる人がいたらうれしいです。

3.ベイリさんの立ち直りの速さは見習いたい
【ロボットについての討論・ロボット技術官の意見】

 厳密にいえば次の章も含まれるのだけど、あれだけ自信満々に推理をしたあとにその推理が見事なまでに間違っていたら2~3日引きこもって人と会わない。多少は凹みこそすれそのあと元気に仕事をしている。気持ちの切り替えが苦手なのでな…

4.スペーサー、君たちってやつは 【計画の結末】

 殺人事件の捜査がメインじゃなかったのか。それは思いつかなかったけどスペーサーならさもありなんという感じ。人権についての主張をしまくるフェーズはもう終わったんだろうな。
 というか君たちしれっと薬を盛るんじゃない。私は人は現在持ち得るツールではまず相互理解をできないという持論があり、それゆえに相互理解を可能にするツールが必要とされる作品がめっちゃ好きなのだ。好きなのだが。鋼鉄都市における「薬を盛る」は…確かに人の意識を宇宙に向けることには成功してて…してるんですけど…相容れない人たちの気持ちを変えることには成功してるんですけど…
 ちょっと…違いますね………なにより互いの了承のもとに薬盛ってたら別にいいのだけど…

5.息子の未来はどっちだ
【動機に関する質問(家族への紹介)】

 なぜかベントリィくんが初対面のダニールと意気投合してロボットがいかに有用か議論をしていた気になっていたけど、そもそもベントリィくん初登場時にはロボット反対派だって言ってるじゃないですか…。勝手に過去を捏造してごめんよ。たぶんダニールの発言とごっちゃになっているね。
果たして息子ベントリィくんは宇宙に飛び出すんだろうか。

蛇足:なぜ検索したら「鋼鉄都市 bl」ってでてくるの…?

まとめ

 最初に書いた『我はロボット』の感想は、設定を理解できていない状態でいきなりSCP 記事のtaleを読んだようなものであり、「なんだかよくわからないがすごい」以上の感想を持てなかったことが原因だったのだろうなぁと反省をした。
 たとえがわかりにくい。すまない。SCPも読んでたら無限に暇をつぶせるから、電車の中の時間つぶしにおすすめ。ねこですよろしくおねがいします
 本作のミステリー要素に対して一切言及してない?ロボット三原則について何か言うことがないのかって?私は今のところない。
 知ったことではない。それはそういった読み方をする人が侃々諤々の議論を交わせばいいのであって、私にとっての『鋼鉄都市』はこの都市に住む人たちの日常をのぞき見する感じに近い。
 ロボットに仕事を取られて恨む人のメンタリティや、階級制度が発達した中で「仕事をしないと等級下げるぞ」「等級を見せびらかすのもよくない」といったハラスメントが機能しているリアルさとか、読者目線ではロボットにしか思えないダニールをまるで人間のように見えるってどういうことだろう、とかそういう楽しみ方をしてるのだ。
 こういった楽しみを味わえるということは、もしも自分がこの世界の人間だったらどんなことをするか想像できるということで、鋼鉄都市の世界観が鮮やかで、想像できる材料と余地が残っているからできる芸当ではと思っている。
 というわけで続編の『はだかの太陽』も読んだのだけれど、急に魅力的な女性が出てきてダニールの出番を盛大に食ったことについてはキャラクターありきで本を読む私からすると残念なところだった。でもロボット三原則の脆弱性(という表現がいいのかわからないけど)をつつきにかかるこの作品はとても面白いのでみんな読んでね。原題が「THE CAVES OF STEEL」と表した意味がよくわかるよ

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