変わらないもの、変わるもの

「結衣子久しぶり~!!元気にしてた?」茜の変わらない声に安心する。

「仕事で死にそうだけどもちろん元気。あ、咲、こっちこっち!」

「茜、結衣子久しぶり!よし、おなかすいたから早速お店いこっか」咲も相変わらず変わらない。

咲と茜は大学のサークルの時の友達。私たちはこの春社会人2年目になった。大学を卒業しても定期的に集まることができてうれしい限りだ。


「最近どうよ~。私は仕事が忙しすぎて何も話すことがないよ~」

私が集まった時にいつも言うセリフだ。ほかの2人もいつもは「同じく」と言って仕事の愚痴や昔話、たわいもない話をするのが定番だ。この時も同じだろうと思っていた。

「実はね…」最初に言いにくそうに話しだしたのは咲だった。「私、結婚するの」

「え!?」私と茜が同時に言う。「健(たける)先輩と!?」

咲は大学1年の時から同じサークルの先輩、健先輩と付き合っていた。

「そう。健と。自分でもこんなに早いとは思わなかったけど。」

「え~!!おめでとう!結婚式するなら呼んでね!」

「ありがとう~!もちろん」

その後は咲の結婚話で盛り上がる。身近な友達が結婚するのは初めてのことで、興味深々だった。

健先輩とは今遠距離恋愛で、咲は今の職場を辞めて健先輩と一緒に暮らすらしい。

「私の話はこれくらいにして、茜は?」

「咲の話を聞いた後だとインパクト薄いけど、マッチングアプリで彼氏ができました!」

「え、おめでとう!聞きたい聞きたい!!」その後は私と咲で茜の話を聞いた。

茜には付き合って3ヶ月になる彼氏ができていた。茜は私が知る限り、大学時代に恋人はいなかった。社会人になってから、自然には出会えないと思いマッチングアプリを使い始めたらしい。

そうか、2人とも着々とそれぞれの人生を歩んでいるのだな…。何も変わっていないのは私だけかもしれない。

「今日は楽しかった!ありがとう。」1人方向の違う茜とはこれでバイバイだ。

「こちらこそありがとう茜~!次いつ会えるかな?」「また近いうちに会おうよ。咲の結婚のお祝いしなくちゃだし。」「え!いいのに。ありがとう!茜もまた彼氏さんとの近況聞かせてね!」「続くように頑張るわ(笑)結衣子もまた仕事の愚痴言い合おう!」「オッケー(笑)愚痴のネタためとくね(笑)」たわいもない会話をして、茜と別れた。

特別彼氏が欲しいわけではないし、愚痴を言いながらも仕事が毎日楽しくて充実してる。なのになんだろう、この焦りは。

大学時代までは同じ方向に向かって歩んで、頑張っていた。学校を卒業して就職するというレールからはみ出さないように必死に頑張ってきた。

「いや~2人とも変わらなくて安心したよ」咲が話し出した。「…いつまでもみんな変わらないままじゃいられないね」思わずつぶやいてしまった。「え?」咲が聞き返す。

「今日の2人の話聞いてたらさ、何も変わってないのは自分だけだなって思って。2人とも着々と新しいステージに行こうとしてる。なんか不安になっちゃって。変わらない自分に。」

「そうかな?私たちも変わらないよ。」咲が言う。「私たちも、社会的な立ち位置みたいなものは変わっても根本は変わらない。環境を変化させることも立派だけど、環境を変えずに仕事を頑張ることだって十分立派だし、すごいよ。結婚しても正社員を続ける人が多い中、私は引っ越した先で正社員になるつもりはないから、いろいろおいていかれそうですごく不安。」

咲の言葉にハッとなる。そうか、環境が変わる咲には当然すごく不安だらけだ。

「人は人、自分は自分なんだから、正解の生き方なんてないんだよ。私も教えてほしい(笑)」

咲の不安な気持ちを聞き、結婚している人もいない人も、恋人がいる人もいない人も、みんな不安だらけで生きているという当たり前のことに気づかされた。悩んでいるのは自分だけではないことに救われた気がした。

そうこうしているうちに咲ともお別れだ。「咲本当におめでとう。末永くお幸せに。」心からこの言葉を言って咲ともバイバイした。

ついつい正解のレールを求めてしまいがちだけど、正しい生き方なんてない。若手社会人の人生は、動き出したばかりだ。

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