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見えない短歌 Le Tanka invisibili 「物語」

ルール

・架空の一首評に対して短歌を作ろう!
・すべてはここから始まる!
・〆は1/9(木)!
・きっと全首ひとこと評します
・既発表扱いになるよ!
・前の!https://note.mu/darekautaeyo
・ひとり一首まで!
・誰でもどうぞ!
・という企画でした!

架空の一首評「物語」

何事にも始まりがある。
これはそんな一首。物語が始まる歌だ。
ある場所で、あるきっかけがある。
たいしたきっかけでもないのだが、ぼんやり続く日常から、
波瀾万丈の異界への接続は常に小さな綻びから始まるのだ。
読み手はこの綻びの瞬間に立ち会い、不安と期待に胸を躍らせる。
それはこのあとに起こる大きな物語に想像を巡らせてしまうからに他ならない。

選歌の方法

名前を隠した状態でランダムに並び替えて評をします。
上にあるから良いとか、下にあるから悪いとかはありません。
短歌の上に短歌を作らず、短歌の下に短歌を作らず。
選はなくしてみました。
かわりに少しだけ評を長くしてみました。

物語の歌

幾千のヒキガエルの卵千切っては食べる山姥の終(つい)の物語
新井きわ
卵を食って終わりの物語が始まる。生の始まりを食って終わる。円環ですなぁ。「幾千」が「ヒキガエル」にかかるか「卵」にかかるか。「卵」だと思うけど、「ヒキガエル」として読むとさらに異様。

事務処理の手紙の裏のかたすみに小さく書かれた「好きです」の文字
ミウラ natsumiuraok
仕事の日常は事務処理の連続のようなもので、時間の流れも色合いも失われていくが、たった四文字で世界が変わってしまう。それにしても告白の仕方がすごい。勇気ある。

黄金のすべての銀杏が落ちたあと好きな仕草がひとつ増えゆく

浪速のマッキントッシュ @makkin_9to
落穂拾いみたいな感じ?仕草だから違うかな。空の黄色が落ちて、大地が黄色に染まっている歌。黄色から浮かび上がる君。においすごそう。

陶製の象書棚からはみ出してポーランド語にルビを振りをる
玉井 井玉 tamakolla
「象書」は「蔵書」でしょうかね。はみ出している本を抜いてルビを振るってことかな? 「陶製」と「ポーランド語」ってのがいい。

交番に若くかわいいお巡りさん そうだ 自首してみようか

バンチャ @1BYGC6SUjoCQ8iA
これはやべーやつ。せめて心を盗んでから自首してくださいね。「お巡りさん」があるから「交番」なくてもいいんじゃないすかね。

亡父から手紙が来るし スマホすらつながらないし 死んだのかオレ
マゴメ @XN1sm9p9cAsK8B1
この手の歌で手紙が来るのは珍しい。同じ死の世界にいるなら会いにくればいいのに。どういう状況なんだろう。亡父もオレも物質にはアクセスできてるみたいだし。

満月の大人の眠る真夜中に座敷童子と遊ぶ幼子
和田直
大人の知らない世界。むしろ忘れてしまった世界かもしれない。月明りの中にしかない世界。「満月」「真夜中」、「大人」「幼子」は少しやりすぎかも。

裾ほつれ、絡みまろびて、コロコロと。膨らみ結ぶ、糸紅に
近藤武人 @code_poemer
運命の赤い糸…かなぁ。人と人の関係はほつれまろびてこんがらがっていく。

目が合ったフラペチーノを飲む君に瞬間振り返り別れましょ
みぃ
別れから始まる物語。フラペチーノの甘さと冷たさがいい。ただ、「目が合った」のに「振り返り」ってどういう状態なんだろう。 と思ってたけど時間をおいて読み返したらわかった。これすでに相手がいる人が、新しい人に一目ぼれしてしまったのか。

パンドラの箱の希望は残されて初めて希望になったのだろう

山川 新
残されていなければそれは希望ではなかった。希望なんてもともと厄災の一つで、たまたま良いもの扱いされてるだけなのかもしれない。

寝過ごした終着駅の窓にふと季節はずれの麦わら帽子
松本未句 https://twitter.com/mt3ku
寝過ごして季節の違う駅へとたどり着いてしまう。これ麦わら帽子が窓の内側にあるのか、外側にあるのか、気になった。

冬林檎サッシの隅に置き忘れ銀河のきらめきを一身に
橋本牧人 @ots_mh
檸檬が丸善を爆破するように、冬林檎はサッシの隅で銀河を吸収する。冬林檎だけが知る世界。人の知らない美しさがたまらない。

君と僕もう随分と御無沙汰ね寝物語を語り合わずに
丸本一輝
始まらない物語。というか終わってしまった物語。物事の終わりを認知して、ようやく新たな物語が始まるってことなんすよ。

JAXAでは介護士大量募集中。リュウグウからの箱が届くよ
新井場公徳 @araiba_kiminori
JAXAは「宇宙航空研究開発機構」で小惑星探査機「はやぶさ2」で小惑星「リュウグウ」を調査している。で、竜宮城とリュウグウがかかってて、玉手箱で歳を取って介護士が必要。練られた歌ですなぁ。

ドトールの地下の冷水機のように弱い水圧わたしを運べ

ひじこぞう @lasheyeye
どこかで泳いでるんでしょうね。あまりにも弱い水圧だけどそれに運んでもらいたい。自分がむちゃくちゃ軽い存在という認識なのかな?上句めちゃ限定的でおもしろい。

ネギしょったカモメ飛んでく水平線「親分(おやびん)、鴨に逃げられやした」
くぼたけ
カモメは鴨葱食おうとしてるんすかね…。カモメの親分かわいい。

洗濯を一日サボる 拾われることなく桃は大海原へ

ともえ夕夏 @croissant_hey_z
おばあさんのifで新たな物語が始まる。笑った。大海原に出て鬼ヶ島について鬼に育てられそう。

死んだはずの君と私で考えたキャラを描いたカフェラテがきた
澪那本気子 @mionamajiko
ぞわっとするやつ。ラテアートというのが凝ってる。「死んだはず」は「君」にだけかかるんだと思うけど、「君と私」の両方にかかる読みもできる。

とんとんとんドアの向かふに立つ人のかげとかたちのこゑを聴かうか
あをきはな
ノックされてるのにあまり開ける気がない。「聴かうか」ってほど注意深く耳をそばだててるし、「かげとかたち」を確認してるし、怪しげ。

青空の端がちいさく虫食いでああこの人は母さんじゃない
抹茶金魚
なんだかよくわからないけど、確信してしまう瞬間。こういうの身近な人ほど怖いよね。「青空の端がちいさく虫食い」ってどういう状態なんだろう。

雪解光 もう古希になる吾が母は薄紅をさし何処ぞへと行く
本屋文華 @ayakahonya
「雪解光」は春の季語。古希でも青春を忘れず、出かけていく母。雪解光とうまく合っている。「薄紅」ってのも淡い色合いの春にちょうどいい。「吾が」は「母」の強調だけどなくてもいいかなとも思った。

風邪かなとウトウト横になりし我みどり子の泣く夢から覚めて
アダムス理恵
自分の中の子供の部分ってことかなぁ。風邪になって心細くなっている。言いさしで終わるより言い切りで終わった方がいいと思ったが、好みかも。

逃げ道も勝ち目もないと知っている 開くメールの先の衆合
鬼無里 @Ajx4LslYQ2HpOFP
下句の意味がよくわからず。衆合地獄ってこと?浮気か不倫してそれを暴かれてる?

メイド一人爺看取る間アリア聴きありあまる富弄りと酷い目
青村豆十郎 @aomura10106
意味よりも韻を楽しむ歌。助詞抜きは気になるがそういう歌だと思えば許容範囲か。

新緑に雨粒映えて土薫る余白の多い不採用通知

伊藤佃 @itoden0815
笑った。自然の壮麗さを感じた後に、人間の社会性を思い知らされる。 余白の美、わびさびですなぁ。

立ち留まりふと見た路地の暗がりに隠れる君が惑わせたから

命 @roudoukyohi
「から」の先を想像させる歌。「路地」はちょっとでも迷い込むと、もう元には戻れない。

図書館にページの抜けた本があり世界を取り返さねばならない

真島朱火 shuca_m
「取り返さねばならない」というとても強い歌。ページは本の世界の重要な一部ですからね。ここまで強く言うなら「抜けた」ではなくて「奪われた」とかでもっと物語性を強くするのもありかも。

テンペスト カップの海へ渦を呼ぶスプーンを繰る指の造形
千仗千紘 @Chihiro_Senjyo
「テンペスト」は嵐。コーヒーか紅茶をかき混ぜてミルクかクリームが荒々しく渦を巻く。「テンペスト」で区切るなら、指ではなくかき混ぜる激しさにフォーカスした方がいいかなぁ。

節約に勤しむ日々にふと気付く小指の爪が一番甘い

舟来里己
節約しすぎで笑った。爪の味の違いわかっちゃうのはやばい。自給自足。ただし不健康。精神も。でも、だからいい。

輪の途中からぷつりと切れたネックレス母の手製のそれは 母は

桂 @katsurajingzi
虫の知らせというやつ。ネックレスの円環が切れてしまうというところに物語がある。推敲すれば初句7音はどうにかなりそう。

漫画って人が描くんだ叔父さんの落書き帳に広がる世界
あるこじ @arukoji_tb
子供が身近な人が持っていた異能に気づいたときの衝撃。「叔父さん」の距離感がいい。子供はその世界に飛び込むか、世界を生み出すか。

駐車場の空に誰かのミッキーが流れてゆくよ征け夢の島

無兎(のらびと) @Muto_NoRabbit
ミッキーの形の風船が飛んでいく。「夢の島」とディズニーランドが掛かっている。夢の島、いまはもうゴミ処理場じゃなくなってるみたいですね。

あめつちの始まりのときにかき混ぜた棒のかわりのコーヒースプーン

hs hswelt
国生み神話と自分の生活を重ね合わせている。コーヒーをかき混ぜて、この人は何を生み出すのか。「棒のかわりの」はなくてもいいかも。

目覚めればいつもと変わらぬ部屋なのに枕を裂けば羽根の溢るる
高田祥聖 575inroute88
朝から癇癪。自分も飛ぶための羽が欲しいってことでしょうね。部屋に降る白、という光景が美しい。

アスファルトとろけたような水たまり飛び込もうか傘をひらいて
鮎 @sweetfish332
上句がとてもいい。雨上がりでアスファルトの油が浮いている水たまり。飛び込むのはいいけど、なぜ傘を開くんだろう。飛び込んだ時点で水撥ねは防げないし。

避難器具降下地点の吸ひ殻入れ流浪の民の酔ひて蹴倒し

夏水 samaot
「避難器具降下地点の吸ひ殻入れ」がうまい。たぶん缶の簡易のやつ。よくあるよね。すげー思い浮かぶ。「流浪の民」なのが謎めいている。

振り返りひと鳴きしては角曲がる思わせ振りなる猫にときめく
T・G・ヤンデルセン @TGyandersen
誘われてますね。猫を追って角を曲がるとそこは知らない風景。ただ、帰れないかもしれない。「ときめく」はちょっともったいないかと思った。

夕まぐれ伏籠を出でて飛ぶ鳥の明日からいかに羽交はすらむ
蔓葵
「伏籠」は文字通り伏せた籠で鶏を入れておくもの。捕らわれていた鳥が自由を知る。夕暮れは異界への入り口なんです。

目配せの謎を遺して四つ辻にあいつが先に消えた夏の日
けら @kera57577
目配せからは相聞の雰囲気を感じるけれど、どっちととってもよさそう。あいつを探して四つ辻のどこに足を向けるか。 帰れなくなるぜ。

湯気の立つ香る珈琲飲み干して封印解けた古き魔導書

嶽野 鏡 @TakenoKagami
魔導書の一語が歌の雰囲気を一気に変える。魔法世界で封印を解いている魔導士読みも、現実世界で魔導書のような古文書を読み解いている人読みもできて楽しい。

靴ひもがちぎれて上を向いていた縛ることにはもう縛られない
袴田朱夏 @hakamada_shuka
縛ることそのものに縛られていた。束縛から解き放たれて見える世界は大きく変わっているはずだ。靴も脱げて素足で踏み出す感覚もまた新鮮。

お腹の子が産着干したる わたくしの膀胱にパンチ見舞ってくれた
くろ KRK310@chbA0310
元気で何より。「膀胱」と「くれた」が面白い。「わたくしの」はわかるからほかの語にできると思う。

食パンをくわえて朝の曲がり角そのマジナイでひらけよ世界

沖津 ありす https://mobile.twitter.com/3pingsheep
ちこく遅刻~。曲がって転校生とぶつかった瞬間に、偶然と不条理の世界からお約束とご都合の世界が始まるわけです。

海底を半魚人らは行軍し「すさみ町」沖ポストを目指す
壮太
和歌山県すさみ町には海底ポストというポストがある。海の底のポスト。この半魚人は投函しに来たのか、それとも配達員なのか。半魚人が文字を使う郵便を目指してくるのがとてもいい。文字読めんのか、半魚人。ちなみに静岡と沖縄にも海底ポストがあるらしいです。

しょうもない友のツイート初句に置き賞味期限のショートケーキを
武富純一
「しょうもない」「初句」「賞味」「ショート」と「ショ」で頭韻を踏んでいる。最後は言いさしじゃない方がいいかもと思うが、音の歌だしこれもありか。

凪のなか終わるふたりと諦めたぬぐい去ったは温いくちづけ

繰り返されるN音が特徴的。風もなく、くちづけの温度もなく、二人の物語も終わる。すべてが静止してはじめて物事が動き始める。

エスケープ安寧の舎(いえ)降り下る白い日の坂戻りえぬ道
沙羅粗伊
安寧から逃げて戻れなくなる。まあおそらく戻る必要もないのでしょう。決意の歌。「白い日」はどういう意味なんだろう。

冬咲の桜がつづる物語ありつたけの花を銃に詰めなよよ
尾崎弘子 @hiroko14oz
最後の「よ」は誤字でしょうか。下の句はかっこいいけど読み切れないなぁ。花を弾丸として撃つというのは惹かれる。花にまみれて人は死ぬ。

母親が作った栄養ふりかけがノミネートされるイグノーベル賞

友常甘酢 @azukicreamcup
イグノーベル賞はノーベル賞のパロディで、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に与えられる。母親はなにで栄養ふりかけ作ったんすかね。笑わせられる素材とは…。

降りる駅を過ぎて車窓に流れゆくきみを映した知らない街が
西鎮 xi_zhen_ivUT
降りるはずの駅で降りずに、きみの街まで。きみの物語とわたしの物語が車窓に交じりゆく。 そして、過ぎてゆく。

粉々に割れた鏡は輝いて生まれる前の記憶を映す
ほのふわり
過去世を映すにはやはり普通の状態ではいけない。粉々の鏡から見える断片的な記憶が散らばっている。

しづかなる志賀のみなもにこの春のはじめて落つる花のしかばね
梶間和歌 @WakaKajima
風のない日に落ちる花。志賀はさざなみにかかる歌枕なので、花が落ちて波紋を起こす。美しい歌ですなぁ。

拾われて藁にもすがるひとすじの僅かな手応え年末開業
あかやかん
「すがる」で切れるのかな。「僅か」でも確かな手ごたえを感じて年末にことを始める。始まりはかすかでも、だんだんとそれが大きく確かなものになっていく。

エピローグ

全53首!おつかれさまでした!

今回は物語でした。
それも起承転結でいうところの「起」。

駄菓子屋でビー玉一つ買いてより眼球譚のはじまりとなる
                           寺山修司

ビー玉買っただけなんだけど、ビー玉を眼球に見立てて、そこから物語が転がりだす。
駄菓子屋から異界に足を踏み入れるとか、たまりません。

なにかの始まりにはきっかけがあって、それが描かれてる一首ってのは面白い。
日常から非日常へと世界が変貌してしまう瞬間なわけです。

食絶えて久しき父があらうことか今生に終(つひ)の排便をせり
                           大辻隆弘

こっちは終わる歌。
起承転結の「結」。
「あらうことか」がめちゃうまい。
大げさに言ってユーモアにすることで、より哀しさが迫ってくる。

物語を起承転結で考えるとき、どこを歌うのかってのが問題で。
物事の始まりなのか、始まりを受けて続いている状態なのか、さらに状況が一変したところなのか、すべてに決着がつくところなのか。
一首一首もそうですし、連作だとこの辺の切り取り方、歌い方で全く違うものになったりします。

伊藤一彦が写真になぞらえて、跳躍する人を撮るとき、「走り出す前」か、「跳ぶ瞬間」か、「跳んでいる最中」か、「着地の瞬間」か、またはさらに違う瞬間か、どこを歌うかにその人の作家性が出るんだ。というようなことを言っています。

この辺はやっぱり意識的になっていきたいすねぇ。
一番効果的でいい歌になりそうなところを切り取ってこ!

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