ライブハウスで映像の力の復権を目指す、アイドル・クロスノエシスについて

モノ消費からコト消費へ、聴く音楽からフェスに行く音楽へ、映像から動画へという風に時代が変化していることについては誰にも異論がないと思います。(というかいまさら過ぎる話だと思う)

映画では応援上映のような声だしやサイリウムがOKという従来の映画館ではあり得なかった鑑賞スタイルが生まれたり、映画自体もボヘミアンラプソディのようにライブシーンで締めくくる映画もありました、昨年(2022年)の映画を見ても犬王やワンピースFILMREDなど(筆者は未見である)歌もの、ライブものが流行っているように感じます。

そして自分が身を置くライブアイドル界という場は体験の最前線であって、そこでは演者の煽りに載って拳を突き上げたり、手を振ったりして一体感や汗をかく快楽、そして時に酒などでバフをかけて良い音楽に身体を通して酔いしれいるという楽しみ方が一般的でしょう。

そこには、なんの間違いもありません。

しかし、自分がライブアイドル界に身を置いている理由はただ一つ、面白いもの、新しいものが生まれてくる土壌としての魅力を感じているからです。

そこで今回は一組のアイドルを紹介しようと思います。それが僕の好きなアイドル、クロスノエシスです。

ダークポップアイドルを自称する彼女たちのライブには、客席煽りや一緒に手を振ったりタオルを振り回すということがない、特に禁止されているわけではないが演者側からそれを要求することがない。

そこには一体感も共感もなく、むしろステージと客席の分断があります。

独自の世界観を高いダンスと歌のスキルで築き上げMCを入れることなく一気に曲を演じ続ける。
そこには客の介入を赦さないような、そういう類いものがあります。

そして自分はそれを"映像化するアイドル"と内心呼んでいます。

映像ならライブハウスでなくて配信で良いじゃないという人もいると思う。
しかし、そこは単純な話で現代のカメラの性能では人の目には及ばないという問題があります。配信で編集された映像は基本カメラが一つしかなく、全体が分からない。
では全体を定点で映し続けると今度は細かいところが分からない上に良いところがアップにならないのでわかりにくい。

人間の視野は広く、全体を捉えることも細かいところに注力することも瞬時に切り替えることができるのが人間の目のすごさであって、今現在のカメラでそれが可能かどうかは分からないが、少なくともライブアイドルが導入できる代物ではないと思う。

また、場の雰囲気と言うものがある。映画館がそうであるように、暗いライブハウスという空間は何か日常と非日常を切り分けた先の異空間という感じがする。

クロスノエシスのように、ライブハウスを映画館のように扱うというのは面白いやり方だと思うし、他にはない独自性があると思う。

実際にクロスノエシスのワンマンライブはライティングと音響、独自の世界観を体現する長尺のセットリストやVJやツイートを絡めた謎が残る演出などで満ちあふれていて、普段のライブがアニメや映画などのダイジェスト版だとするなら、クロスノエシスのワンマンライブにこそ、本当の魅力が詰まっていると思っています。

正直なところを言うと、自分はこのやり方は時代には全く合致していないように感じる。
映画やアニメはむしろ5分間に要約されたファスト映画が求められ、そこには間や呼吸と言った演出は無視され、筋が分かればよい。結末が分かれば良い、 そこに感動して楽しめば良いというのが現代です。

クロスノエシスのライブ映像はYouTubeに上がっているが、本来は映画館で上映する類いのものであって、Youtubeに上がっても分からないものだと思う。

それは現代人がYoutubeに求めるものは、10分程度で分かる役立つ情報や面白いコンテンツであって、現代人はスマホを我慢しながらわずか30分のライブ映像であってもYoutubeで見ることはできないのです。

音楽CDの売上げがフェスに取って変わられたように、30分テレビに向かう力はスマホを開いてTwitterのTLを見ることに負けているという現状があるからです。事実精魂込めて作られたアニメは1.5倍速で再生される一方で陰謀論者のツイートは簡単に1万リツイートぐらいされる。

今映像の力が落ちている中で、クロスノエシスというアイドルは時代に逆らって、映像の復権を目指しているように感じています。

誰にも分かる良いものや身体を動かしてフェスを楽しむ感動は間違いなく存在するし、今大きな力を持っている。

しかし、クロスノエシスのライブはきっと見てもよくわからない。実際に自分が昨年見た4thワンマンライブ blankはセトリの番号が欠けていたりセトリツイートと実際に演じられた曲目が違うといった謎が張り巡らされる一方で、抽象的で独自の世界観が広がる楽曲を意味深なVJやすさまじく点滅するライティング、そしてそれを支えるダンスと歌のスキル、これによってなんだかよくわからないものに圧倒される。そういう経験がある。

これは現代では力を失っている力だ。
しかし、だからこそ自分はそれを楽しみたい。
よくわからないもの、エモいものや良いモノではなくすごいモノをみたい。

そしてそれは映像的でありながら現代のカメラでは捉えきれない密度があります、故に映像的でありながら、ライブ会場でなければその魅力を最大限味わえない。というのがクロスノエシスが作り上げているワンマンライブだと思っています。

そう、この記事を読んで興味がある人がいたら、1/8に行われるクロスノエシス 5th one man live「salvation」に来てみて欲しいと思っています。そしてそこで大きなモノに圧倒される経験をしてみて欲しい。

当然だがこのブログだけでは判断がつかないと思う。
そういうときはこのyoutube動画を見ていただければと思います。

一つ注意点があるとしたら、これを見るときは部屋を映画館だと思ってみて欲しい。(だから当然スマホはノータッチがありがたい)
そして、そうして集中してこの"映像を"を見ることで抽象的な世界観にさせられた楽曲と圧倒的なライティング、そしてその世界観に説得力を与える高いステージパフォーマンスとのマッチングが作る独自の"映像の世界"に浸れることができると思う。