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「分からない」を味わった映画の豊穣さ

週に一度ほどでしょうか、映画を視聴しては感想文を投稿するのがすっかり習慣になっています。数えていませんが、2023年に観た映画の本数は新作旧作を合わせて多分150本以上になると思います。私はこれを20数年の間ずっと続けています。

映画ファンというのは年の暮れになると皆こぞって、その年に公開されたお気に入りの映画を決めます。
私も毎年、数本の「モストフェイバリット」を選ばさせて頂いています。

もちろん全て観た訳ではありませんが、映画が好きで似たような好みの人たちに、数多くある映画の中から作品選びの手がかりになれば、、と思いおこがましいですが印象深かった作品をここに記したいと思います。


どういう作品を良しとして選んでいるかは人に寄ると思うのですが、私の場合映画に求めるものとはこれまでの自分には無かった発想が新しく生まれたり、既存の価値基準が変わったりしたかどうかにあります。

それに加えて、娯楽性に富んだ刺激的な作品を好んでいます。
そんな私が2023年に選んだ映画はこちらの3本です。


「ター/TAR」
「イニシェリン島の精霊」
「パーフェクトデイズ」

「ター」はここ数年、問題になっているパワハラやセクハラを題材にした作品。非常に隙が無く、刺激的な映画で面白く観させて頂きました。
現在公開中の「パーフェクトデイズ」は、重たいコンテンツが話題になり易い昨今でも、とても心地よい気持ちにさせてくれる映画でした。

最も気に入った作品をひとつだけ挙げるとするならやはり「ター/TAR」でしょう。ですが、どうしても心に引っかかってしょうがない作品が他にあります。

おじさん二人の喧嘩からなる惨劇を描いた「イニシェリン島の精霊」です。

美しいアイルランドの風景を背にして幻想的な空気をまといながら、裏には不条理に価値観の違いを浮かび上がらせる人間ドラマ。はっきり言って惨たらしいです。

観終わった直後はその酷さに動揺した程。
もうどうしたらいいのか分からない、そういう気持ちになりました。

結末に答えがないのです。
何も解決しないので、どうしたらいいのだろうと考えてしまいます。


前述の通り映画の感想を投稿している身ですので、まずは思いついた感想をメモしようとします。第一印象のようなメモです。
それを幾つも書き並べて共通点を見つけます。
そうやってまとまった共通点を文にするのが私の感想の書き方です。
分からないと思った作品でも大抵このやり方を行えば数時間で感想が書けます。メモがまとまれば自説を出す事が出来る。
解説や感想として成り立った文は、その映画に対するひとつの答えになるのです。

しかし、この作品についてはそうは行きませんでした。
書いたメモに共通点は見つからず、映画の印象があっちやこっちに散らばります。日を置いてみて思う事をメモに取るも
これと言った答えが見出せない。

毎日のように移り変わる考え。
筋の通った感情を出せないながらも、文を無理矢理絞り出します。

最近の映画界はロバや羊を登場させるのがブームっぽい



昨年、すごく考えた作品と言えば「怪物」も思い浮かべます。

観賞後、すぐに感動のピークがやって来る。
劇場を出る頃には「きっとこうだろう」という正解みたいなものを見つけられ、作品を自分の中で完結させる事ができました。

こういった映画とは違いのある「イニシェリン島の精霊」とは後に後に尾を引き、時間を掛けて思いをめぐらせる程に味が濃くなっていくような、そういう余韻が長く漂う作品なのです。

だからずっと心に残っています。
ああかもしれない、こうかもしれないと、正解のようなものが何パターンも生まれ、時が経つに連れ頭の中で世界が拡がっていく感覚。


映画は受け取る側が完成させる物だと思う私の手の平の中で、迷いながら完結できない作品。
『どうすればいいのか分からない』を長く味わい得る映画は、そういう意味でたいへん印象に残る作品なのでした。



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